第282話 外へ行く方法



「だったら、城の兵士達と訓練でもする? それなら、体がなまったりしないわよ?」

「それでも良いんだけど……」

「兵士達と……それは良いですね」


 笑いのツボから復活した姉さんが、話に入って来る。

 どうしても冒険者としての活動がしたい……とは言わないけど、他にやる事がないのは事実だ。

 人のためになる活動がしたい、というのもあるんだけど。

 それに、この世界の色々な部分を見る事ができて楽しそうだしね。


 それはともかく、兵士との訓練というのにソフィーが興味を持ったようで、姉さんの話に食いついた。

 訓練かぁ……それも良いんだけど。


「兵士さん達の迷惑にならない?」

「なるわけないわよ。むしろ、兵士達のためにもなって、こちらとしては歓迎よ。まぁ、どうしても冒険者として活動したいのなら……外を歩く手がないわけじゃないけど……」

「そんな方法あるの?」


 俺達が訓練に参加するのは、兵士達にとって良い事らしい。

 まぁそれは一考するとして、姉さんには外を出歩くための考えがあるらしい。

 それならそれで、早く教えて欲しいんだけど……。


「りっくんが町の人達に囲まれるのが、楽しいのに……まぁ良いわ。何度か囲まれたようだから」

「姉さん……」

「まぁまぁ、リクさん。ちゃんと方法も考えてくれているようだし、ね?」

「はぁ……それで、その方法は?」


 俺が囲まれるのがそんなに楽しいのかな?

 残念そうに言う姉さんに対し、俺がジト目で抗議するようにしていると、モニカさんが落ち着くように声をかけてくれる。

 姉さんは、弟で遊ぶのを反省して欲しいんだけど、仕方ない。


「方法は3つあるわね。1つは、城の兵士を護衛にして外に出る事」

「それこそ、兵士さん達に迷惑がかかりそうだね……。皆他の仕事があるだろうに」

「それに、兵士に囲まれて外を歩くなんて、何事かと思われそうですね」


 一つ目の方法に対し、俺とソフィーが反対する。

 兵士さん達にわざわざ付いてもらうのは、迷惑になるだろうし、ソフィーの言う通り目立ちそうだ。

 俺がフルプレートを着て外に出た時のように、物々しい雰囲気にまた何か起こるんじゃないかと、心配されそうだしね。


「まぁ、そうよね。2つ目は、馬車に乗って行きたい場所に行く事ね」

「馬車かぁ……確かにそれなら、中に誰が入ってるかわからないだろうから、良いかもしれないね」

「でも、わざわざ冒険者ギルドに、馬車で乗り付けるのですか? それはそれで、何か間違ってるような……」

「どこぞの貴族と思われそうよね」

「冒険者ギルドに馬車か……悪目立ちしそうだ……」


 パレードの時、モニカさん達が乗っていた馬車と違い、普通の馬車は外から中は見えない。

 まぁ、窓から顔を出したりすれば、見えるだろうけど……そうしなければ、道行く人に誰が乗ってるのかなんてわからないだろう。

 俺は良い案だと思ったけど、モニカさん達は反対なようだ。

 ……言われてみれば、馬車に乗って冒険者ギルドに乗り付けるのは、何となく良く見られそうにない。


「だったら、最後の手段ね。りっくんは、魔物襲撃の時にハーロルトに城門外への伝令を任せたそうだけど……」

「うん、確かにお願いしたね」


 魔法を前準備のため、城門の外……町の方で戦っている人達を巻き込まないように、伝令を任せた。

 そういえば、あれってどうやって伝えたんだろう?

 城門は魔物達が塞いでいたのに、しっかり町の人達へ伝わってたけど……。


「緊急時の地下道があるのよ。それを使ってハーロルトは伝令を送らせたようね」

「地下道?」

「ええ。もしもの時のために、城の人……特に王族が外へ脱出するための物だったり、あの時のように外へ伝令を向かわせるためだったり……密かに移動するための物ね。まぁ、いくつか道はあるから、ハーロルトが使ったのは、王族が使う道とはまた別だけど」

「へぇー、そうなんだ。確かに、偉い人がもしもの時に逃げるため、隠し通路が……というのは、納得できるね」


 何だったかな……確かゲームかなんかで聞いた事がある。

 緊急時、国にとっての重要人物を確実に逃がすためには、そういった方法も必要なんだろう。


「その道の一つに、中央の冒険者ギルドの近くに通じてる物があるわ。これは、国とは別の武力を持っている組織に助けを求めるためね。国同士の争いなら別だけど……民に被害が多く出る場合や、先日の魔物が襲撃して来た場合なんかに、冒険者ギルドへ依頼をして、加勢してもらう事を目的としているわ」

「成る程……中央ギルドに近い場所に出られるなら、自由に外を出歩けなくとも、ギルドには行けそうだね」


 もしかしたら、前回魔物が襲撃して来た時も、緊急でその道を使って冒険者ギルドへ依頼してたのかもしれない。

 城門の外では、マックスさん達もそうだけど、他の冒険者さん達も戦ってたみたいだしね。

 姉さんの言うその通路を使えば、マティルデさんのいるギルドには行けそうだ。

 ……他のギルドに行って、情報を集めるとかはできなさそうだし、城下町を色々見て観光はできないだろうけど……いつかのんびりと観光したいなぁ。


「まぁ、本来は機密の通路なんだけどね……りっくんなら良いでしょう。ヒルダ、明日にでもハーロルトに行って案内をさせなさい」

「畏まりました」

「うん、これなら明日は何とかなりそうだ。ありがとう、姉さん!」

「……まったくもう、りっくんは反則ね!」

「わぷ! 姉さん! まだ食事中だから! ちょっと!」

「ええい! 可愛く笑うのが悪いのよ! 弟は素直に姉さんに抱き着かれてなさい!」

「……羨ましいなんて、思ってないわ……」

「どっちが羨ましいと思ったんだ?」

「まぁ、どっちかは決まってるわよね……」

「ははは、まぁ、楽しそうで何よりだな」

「騒がしいのだわ。食事は落ち着いて食べるのだわ」

「でもエルサ、いつも落ち着かない食べ方をしてるのは、エルサの方なの!」


 特に反対意見も出なかったためか、姉さんがヒルダさんに指示をして、明日はハーロルトさんに案内してもらえる事になった。

 さっきまで笑い転げてた事を許して、姉さんに顔を向けて笑顔を向けると、何故か急に姉さんが俺に抱き着いて来た。

 ちょっと、苦しいんだけど! 食事が進まないし! モニカさん、ソフィー、助けて!

 ……誰も助けてくれず、何やら話しているだけだった……むぅ。



―――――――――――――――――――



 翌日、俺が起きて朝の支度をしている時に、モニカさんとソフィーが部屋へ来た。

 なんでも、外に人が出てくる前に来たとの事。

 確かに、まだ早朝だから、外にはあまり人はいないだろうしね。

 この時間なら、外を歩けそう……とも思ったけど、時間が早すぎてろくに店も開いていないだろうから、あまり意味はないか。


「昨日の帰りは、大丈夫だった?」

「ええ、何とか。物陰に隠れながらだから、見つからずに宿に帰る事ができたわ。宿の従業員達は、私達に絡んで来なくて助かったわ」

「高級宿だからな、さすがに外を歩いてる人とは違って、そういう事はしないだろう。まぁ、何人か話しかけたそうにしているのは見かけたが……」


 モニカさん達が止まっているのは、城の近くにある、貴族とかが泊まるような高級宿だ。

 さすがにその宿で働く従業員は、しっかりと教育がされてるので大丈夫だったようだ。

 まぁ、ソフィーの言うように話しかけたいのを我慢してるんだろうけど、それだけでもありがたい。

 ……人に囲まれる恐怖を味わった後だと、特にそう思った。



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