第280話 名案?を思い付くも落とし穴
俺はパレードの時、姉さんの横で馬に乗っていたから、当然目立って皆に顔を覚えられていた。
一度見つかれば、人に囲まれて次々に声をかけられて身動きが取れない。
モニカさんとユノは、ユノを見た怪しいお姉様方に囲まれたらしい……口々にお姉さまと呼んで! と言われて勢いが凄かったとの事だ。
ユノが可愛いというのはわからないでもないけどなぁ……。
ソフィーの方は、ユノとは逆にお姉様と呼ばせて下さい! という人達に囲まれたらしい。
確かにソフィーは、凛々しい女騎士のような雰囲気があるから、気持ちは少しだけわかるような気がする。
アルネとフィリーナに至っては、エルフというだけで目立ってしまい、珍しいエルフを一目見ようとする人たちに囲まれたらしい。
二人共長身痩躯で、美形だからなぁ……。
「夜になれば、暗いからこんなことは無くなるんだろうが……」
「人も少なくなるしね。でも、それだとギルドも他の店も閉まっちゃうわ」
ソフィーとモニカさんが話してる。
確かに夜になれば、暗さのおかげで見つかる心配は少なくなるんだろうけど……店やギルドが開いていなかったら本末転倒だ。
酒場なら開いてるだろうけど……お酒を飲んで騒ぐ皆でもないし、酒場に行ったらいったで、騒ぎになりそうだしなぁ。
ふむ……よし、動きづらそうだけど……これを試してみるしかないな!
「思いついた事があるんだけど、ちょっと試してみるよ。ヒルダさん、パレードの準備の時、俺が試着したフルプレートは用意出来ますか?」
「え? あ、はい。すぐに用意出来ると思いますが……」
「じゃあ、それを持って来て下さい」
「どうするの、リクさん?」
「顔を覚えられて見つかるのなら、それを見せなければ良いんだよ」
「成る程な……しかし、戦闘に行くわけでもないのに、フルプレートか……」
「動きづらそうね」
「しかし、あの人だかりは、まさに戦闘とも言えるな」
「ははは……」
ヒルダさんに頼んで、以前俺が試着したフルプレートを持って来てもらうように頼む。
俺の目的はフルフェイスヘルメットで、顔全体を隠すつもりなんだけど、それだけだと不格好で逆に目立ってしまうから、フルプレート全てを身に付けて外に出よう、という考えだね。
確かに戦闘に行くわけでもないし、重いから動きづらいだろうけど……人にまみれて身動きが取れなくなるよりはマシだ。
「お待たせ致しました」
「ありがとうございます、ヒルダさん」
皆と話していると、兵士さん二人を連れたヒルダさんが部屋へ戻って来た。
兵士さんの手にはそれぞれ、パレードの準備の時、一度試着したフルプレートが一式揃っている。
「それじゃ、これを着て外に出ようかな……えっと……」
「……ゴクリ」
持って来てもらった鎧を受け取り、着替えようと今着ている服に手をかけたところで気付く。
……皆……アルネ以外が俺をジーっと見ていた。
「……さすがにそこまで見られると恥ずかしいんだけど……風呂場に行こう……」
「手伝いが必要な際は、お呼び下さい」
「はい」
「……ちっ」
男だし、裸を見られても……とは思うけど、さすがに凝視されたら恥ずかしいし、着替えづらい。
そう思って、鎧を風呂場へと運びそこで着替える事にする。
……俺が背を向けてる時、誰かが舌打ちしたような気がするけど……気のせいだろう。
「モニカ……ちょっと欲望が出過ぎてるぞ?」
「そ、そんな事……無いわよ?」
「いつまでもリクが手を出さないからよねぇ……仕方ないわ、うん」
「俺にはわからんが、そうなのか?」
「ちょっと、フィリーナ止めて。そんな事無いんだから」
風呂場に入る時、後ろの方で何やら小さく話してる声が聞こえたけど……内容はよくわからなかった。
まぁ、待ってる間、他愛もない事を話してるんだろうな。
「ヒルダさん、お願いします」
「はい、畏まりました」
「……ヒルダさん、良いなぁ」
「また欲望が漏れてるぞ?」
ある程度一人で着られる部分を着て、ヒルダさんに声をかけて手伝ってもらう。
やっぱり、着慣れないという事もあるけど、全部一人で着るのは難しいね。
時間もかかるし……。
「それじゃ、これで一度外に出てみるよ」
「いってらっしゃい、リクさん」
「気をつけてな」
フルプレートを身に付けて、誰が見ても俺だとはわからない格好になった。
皆に行って、部屋を出て外へ……。
「私も行くのだわー」
「はいはい」
エルサが飛んで来て俺の頭にコネクトする。
……兜があるから、エルサのモフモフが感じられなくてちょっと残念。
「……あ」
「エルサを連れては……」
しっかりエルサが頭にくっ付いた事を確認した後、改めて部屋を出る。
何か後ろで言っていたような気もするけど……大した事はないだろう。
さて、これで自由に外を歩き回れるかな!
「ふぅ……いつもと違うから、ちょっと動きづらいな……けど、おかげで誰にも気づかれずに歩けてるね」
「全身を隠してるから、当然なのだわ」
城から出て、しばらく外を歩く。
もう少しで大通りに入る所まで来れたな……これなら、誰かに囲まれる事も無さそうだ。
「ん? ……おい、あれ」
「どうしたの……? あ」
「……白い毛玉……もとい犬のような見た目の生き物を頭にくっ付けて……って」
「……ドラゴン……よね? 噂の」
「そうだな……という事は……」
「リク様!?」
「……あれ?」
大通りに差し掛かった時、数人の人がこっちを見て何か話しているのが聞こえた。
話の内容と、視線からすると……俺の頭……というより、エルサを見ているみたいだけど……?
「リク様! リク様ですよね!?」
「どうしたんですか、その鎧は!」
「戦ですか!?」
「また、魔物が攻めて来るのですか!?」
「それとも、どこかの国が!?」
「え、いや、ちょっと……」
エルサを見ていた人達が、俺の方へと押し寄せ、皆が口々に俺がリクであると断定して話しかけて来る。
戦でもなんでもないんだけど……何でバレたんだ?
「こうしちゃいられない! また何かが攻めて来るぞ!」
「リク様がいるから王都は大丈夫だけど、戸締りはしっかりしなきゃね!」
「お願いします、リク様。私達をお守り下さい!」
「何を言っている、この姿を見ればわかるだろう。リク様は単独で戦いにいかれるのだ、我々のためにな!」
「そうね! きっとまたリク様が救って下さるのね!」
俺に詰め寄って来た人達は、好き勝手な事を言いながら、俺が一人で戦いに行って町を救おうとしていると決めつけてる。
いや、そんな事は全くないんだけど……。
「えっと、あのですね……?」
「リク様だけに任せてはいられねぇ! 俺達も戦うぞ!」
「そうだ! 人々を守れなくて何が冒険者だ!」
「俺達も加勢するぞ!」
「リク様、何処で戦いが行われるのですか!? 微力ながら、私達も手助け致します!」
「そうよ! リク様程凄い魔法は使えませんが、援護くらいなら出来るはずです!」
さらに、騒ぎを聞きつけた人達が集まって来て、俺の周囲には人だかりができてしまった。
その中で、先に集まって来ていた人達から、勘違いの情報を聞き、一部の冒険者と見られる立派な装備をした人達が意気込みを見せる。
はからずも、人助けをしようと戦う気のある冒険者が見れて、良かったとは思うけど……全部勘違いなんだよなぁ……。
「これは、また逃げるしかないのだわ……」
「むぅ、何でバレたのか……ともかく、今は城に戻ろう」
「そうするのだわ」
「えっと、皆さん! 戦いに行くとか、そういう事は無いので、安心して下さい! 何も無いので、普通に生活してて大丈夫ですから! それでは!」
「「「「あ、リク様ー!!」」」」
エルサの助言に従い、俺を囲んでる人達から抜け出し、大きな声で何も無い事を叫んでから、一目散に城へと走る。
後ろからは、追いすがる人達が俺を呼んで叫んでるけど、足を止めるわけにはいかない。
足を止めたが最後、また囲まれてしまうだろうからね。
……はぁ、良い案だと思ったんだけど……結局見つかっちゃったなぁ……。
動きづらいフルプレートをガチャガチャと言わせながら、何故バレたのかを考えながら、城へと逃げ帰った。
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