第279話 街に繰り出せない事態



「はぁ……色々と疲れたな……」


 夕食の後半は、エルサやユノと奪い合うようにしながら食べた。

 全員が休むために退室して、今は俺とエルサだけになった。

 姉さんだけは、「仕事が増えたわ……」とか言いながら、溜め息を吐いて出て行ったけど。


「とりあえず、パレードは終わったから……また明日から冒険者として頑張るかなぁ……いてて……いや、明日は休もう」

「休むのだわ?」

「疲れが溜まってるわけじゃないんだけどね。ちょっと顔が痛くて……」

「顔なのだわ?」

「表情筋って言うのかな? ずっと笑顔だったからね……」

「何で人間は、そんなに笑顔を振りまかないといけないのだわ? 辛いならそこまでしなくても良いのだわ?」

「そうなんだけどね……ああいう時、笑顔の方が印象が良いからな。それにまぁ、無表情よりは見に来た人達も良いだろうからね」

「……よくわからないのだわ」


 エルサは、パレードの時に俺達が笑顔を振りまいていた事が疑問らしい。

 見に来た人達も、怒ってる顔や無表情な顔を見るよりか、笑顔を見たいと思うんだ。

 まぁ、クールな表情を見たいという人もいるかもしれないけど、それは一部の人達だけだろうしな。


 人間が何故そんな事をしているのか、エルサに教えるのは難しいな……と考えながら、一日が終わって行った。



――――――――――――――――――――



 パレード翌日は、モニカさん以外の皆が顔が痛いと訴えていたので、考えていた通り、一日まったりとして過ごした。

 休んで、しっかり疲れを取った後、新しい依頼を求めて、冒険者ギルドへ向かう。


 朝食を頂いた後、何となく部屋に集まった皆と一緒に、城を出てギルドへと向かった……向かったんだけど……。


「はぁ……さっきは凄かったな……これじゃ普通に町を歩けそうにないよ」

「そうねぇ。やっぱりリクさんが囲まれてたわね」

「私達の方にも来たがな」

「モニカとソフィーはまだマシよ。私とアルネなんて、エルフに対する好奇の目を向けて色々近づいて来るのよ?」

「まぁ、そういう目で見られるのは、集落を出た時に覚悟していたがな。だが……さすがに数が多過ぎる」

「人が凄かったの! 押し寄せて来たの!」

「ゴブリンが群がって来るのを思い出したのだわ」


 城を出て、大通りを見ながらギルドに向かおうとした俺達なんだけど、すぐに城へと引き返して来た。

 理由は簡単。

 俺達を見つけた人達に囲まれて、前に進もうにも進めず、何とか人の隙間を抜けて城に戻って来たんだ。

 しかしエルサ、ヘルサルの時の事だろうけど……さすがにゴブリンと一緒にするのは失礼じゃないか?


「……姉さんが言ってたのはこの事か……」

「陛下が?」

「うん。昨日パレードが終わってすぐに話してたんだけど……これからは町を歩くのも一苦労だろうって……」

「一苦労どころか、歩く事もままならない気がするが……」

「陛下の言う通りね……」


 人に囲まれる事は悪い事じゃないんだろうけど、さすがにこれはなぁ……。

 皆、さっきの騒動を思い出しながら、一様に溜め息を吐いてる。


「皆様、昼食の支度が整いました」

「あぁ、ヒルダさん。ありがとうございます」

「もうお昼だったの? 結構、さっきの騒ぎで時間を取られてたのね」

「そうみたいだな」

「人を掻き分けるのが大変だったわ……」


 城を出たのは、朝食を食べてすぐだったのに、外に出て引き返すだけで、もう昼になっていた。

 それだけ、人から囲まれ、それの対処をしたり、抜け出したりするのに時間がかかったって事か。

 これが群がる魔物とかだったら、皆で協力して蹴散らして……なんて事もできるんだけど、さすがに罪もない人達相手にそんな事はできないしなぁ。

 エルサだけは、魔法を使おうとして口を開けたから、慌てて止めたけど。


「はぁ……どうしよう、これじゃまともに町を歩けそうにない……」

「ええ。はぁ……」


 ヒルダさんに用意してもらった昼食を頂きつつ、これからどうするかを考える。

 冒険者ギルドに行けないくらいなら、まだ良いけど……町を歩いたり、買い物をする事もできそうにない。

 せっかく大通りの補修も終わったから、そっちを見て回りたいと思ってたのに……パレードの時に通ったけど、落ち着いて見れなかったからね。

 それにあの時は人が多かったし、店もほとんど閉まってたしなぁ。


「……皆でバラバラに行動するのはどうだ? 固まって行動するから、人が集まって来るんじゃないか?」

「それが良いかもね」

「そうだね……これを食べたら、そうしてみよう」


 ソフィーさんが提案し、外へ行くメンバーを分けて行動する事にした。

 俺とエルサ、モニカさんとユノ、ソフィーとフィリーナとアルネはそれぞれ単独だ。

 これなら、目立つ事も少なく、人が集まって来ないかもしれない。


「それじゃあ、私は西の冒険者ギルドに行ってみるわ」

「私は、北の冒険者ギルドに行こう」

「冒険者じゃないけど、話を聞くだけなら大丈夫そうだから、私は南ね」

「俺は、東だな、わかった」

「じゃあ、俺は中央だね。マティルデさんとも話さないといけないし」


 それぞれ、広い王都にある5つのギルドに別れて、何か依頼が無いかを確認する事にした。


「……リクさんだけで中央に……? ちょっと心配ね……」

「何が? ……あぁ! さすがにもう、勝手にAランクの依頼を受けてきたりしないよ」

「そうじゃないんだけどね……うーん、どうしたものか……」

「?」


 何故なのか、俺が中央冒険者ギルドに行く事に難色を示すモニカさん。

 マティルデさんに、パレードの時に苦情が来ていた事を言わないといけないし、依頼の確認をしやすいんだよなぁ……。


「大丈夫なのだわ。私がいるのだわ」

「……エルサちゃん、頼んだわよ!」


 モニカさんが何を考えているのか、エルサはわかっているらしい。

 俺には教える事無く、力強くエルサに頼むモニカさん。

 エルサとモニカさんだけで通じ合ってるようで、少し寂しい。


 ともあれ、昼食を食べ終わり、ヒルダさんに淹れてもらったお茶を飲んで落ち着いた後は、気合を入れて皆で別れて城の外へと繰り出した。

 またすぐ帰って来るだろう……なんて考えているようなヒルダさんの笑顔が、印象的だった。

 ……むぅ、絶対ギルドまで辿り着くんだ!



「はぁ……」

「駄目だったわ……」

「朝よりは人は少なかったんだがな……」

「それは、皆が別れてたからでしょう?」

「人も別れて俺達も別れて……対処できる人数も減ったから、結局どうにもできなかったな」


 駄目だった。

 結局、皆朝と同じように城まで逃げ帰り、良い笑顔のヒルダさんに迎えられてしまった。

 別れて行動したから、見つかるまでは少しだけ猶予があったけど、結局ギルドまでの半分も行かないうちに見つかって、囲まれてしまった。


「リクさんだけだと思ったのに……私達まで……」

「あぁ……リクがいなければ大丈夫だと思ったんだが……」

「私達は、エルフだから……目立つのかしら?」

「むぅ……わからんな」


 ソファーに座り、皆で項垂れてしまった。


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