第278話 乱入して来た少女の事情と処遇



「陛下のご指示通り、少女を手荒には扱わないよう徹底させました。ともあれ、陛下達が通り過ぎた後は、おとなしくなったようなので、そこまで手間はかからなかったようです」

「という事は、やっぱり我に……か?」

「陛下とリク様に対し、叫んでいたようですが……聞き取りをした後になると、陛下に対してだと思われます」

「ふむ。それで、内容は?」


 ソファーに座り直した姉さんが、女王様モードでハーロルトさんと話す。

 どうやら女の子は、姉さんに対して何か訴えていたようだ。

 確か、父さんを……とか言ってたっけ……姉さんが何かしたのかな?


「まずは少女の素性を。少女は、この王都に住む者です。名はテリア。今は、母と妹の三人で暮らしています」

「母と妹か……父親は?」

「それが……その父親は、王城の兵士でした……」

「兵士……それが何故今は一緒に暮らしていない? ……まさか」

「はい。先の魔物種撃の際、魔物にやられた兵士の娘となります」

「そうか……」


 ハーロルトさんの報告を静かに聞いていた皆は、顔を俯かせる。

 あの戦いで犠牲になった兵士さんの娘さん……か。


「しかし兵士の娘であれば、恨みは魔物に行くのではないか? 我を始めとした、指揮官たちの指示の不備で兵士を犠牲にしてしまったのならわからないでも無いが……それがわかる年齢でもなかっただろう?」

「はい。少女はまだ8歳との事です」


 8歳か……通りがかる時に見たけど、ユノよりも小さく見えたから、そのくらいか。

 力はあまりないけど、小さいからこそ兵士が力を籠められず、やたらめったら暴れるから、警備の人が抑えるのも少し手間取ってしまったのかもなぁ。

 そのくらいの年齢なら、父親に対する指揮がどうの、軍がどうの……とは考えられないだろうし……姉さんの言う通り、恨みは魔物に向かいそうだ。


「ですがその……何者かが少女に諭したようなのです」

「何者か? 何と言って諭したのだ?」

「はい、少女が言うには、ですが。父親の親友という男が少女に対し、父親が死んだのは女王が出した指示のせいだ。その指示で君の父は魔物に対し、無茶な特攻をしたのだ。君から父親を奪ったのは他でもない、この国の女王だ……と」

「……ふむ」

「さらにその男は、恨みを晴らすために少女に対し、今回のパレードの事を教えたそうです。そこでは女王が城から外に出てくるため、そこが絶好の機会だと。少女の懐には、男から渡された毒の付いたナイフがありました」

「小さな少女を使っての暗殺……か」

「そのようです。本来は、横から近付いて隠していたナイフで……との計画だったらしいのですが、父親がいなくなった事と、近くにその原因である女王陛下が来た事で、わけがわからなくなってとにかくパレードに走り込んだ……というのが、今回の顛末となります」


 誰かが姉さんを狙って、女の子を使って暗殺しようとした……か。

 ちょっと許せないな……父親である兵士さんが亡くなったのは、魔物が襲って来たからであって、無茶な命令を出したわけでもないのに、姉さんが恨まれる筋合いはないだろう。

 それなのに、女の子を騙して姉さんを狙わせたんだ……。

 姉さんとハーロルトさんの話を聞いて、自分でも顔が険しくなるのがわかるし、他の皆も同じような表情になってる。

 ユノですら、眉をひそめてる。


「8歳の少女だからな……訓練もされていないのなら、感情に任せてそうなるのも仕方ないだろう」

「はい。少女……テリアの処置はどう致しましょう?」

「そうだな……その少女には罪はあるまい。しかし……諭した男というのが気にかかるな。」

「接触して来ると?」

「可能性が無いわけではないだろう。少女には魔物種撃の状況を説明し、母の元へと返してやれ。監視……この場合は護衛というべきか、数人を付けろ」

「は、了解しました!」

「少女の母には説明をしてやれ。もちろん、少女には気取られぬようにな。それと……戦死した者の遺族への説明と弔慰金を徹底しろ。残された家族がまた騙されたり、生活に困らないようにな」

「はっ! 直ちに!」


 姉さんの指示を受けて、ハーロルトさんが退室して行く。

 出る前には、俺達に対して礼をしてから出て行った。


「はぁ……ちょっと暗くなったわね。とりあえず、まずは夕食を頂きましょう」

「うん」

「……はい」


 口数が少なくなった皆が、ヒルダさんとハーロルトさんで配膳してくれた夕食に手を付け始める。

 皆それぞれ、小さい女の子が利用されて、父親の仇と思い込んでしまった事を考えてるようだ。

 俺達の近くにはユノがいるから、小さい女の子に対して思う事は色々あるんだろう……まぁ、テリアちゃん? はユノよりも小さかったようだけど。


「……しかし陛下。あの女の子を罰する事はしないのですか?」


 ソフィーが食事をする手を止めて、ふと思いついたように姉さんへ聞く。

 結果的に何事も無かったとはいえ、女王である姉さんを狙って来たのなら、罰する事があってもおかしくはないんだろうね。


「そうね……それが一番楽なんでしょうけど……さすがに小さい女の子を罰するのはね……。もっとはっきりと悪い事をしたのならまだしも、誰かに利用されただけだからね」

「……そうですね」

「ですが、陛下はそれをさらに利用する、と?」

「まぁ、監視を付けるのは当然よね。一応とはいえ私を狙って来たのだから。もし、女の子を利用した男が接触を試みるなら、そんな事をした者を捕まえる事ができるわ。ただね……こういう場合、企みが失敗した実行者をどうするか……と考えるとね」

「自分へとたどり着かないために、消す……ですか……」


 ソフィーが姉さんに言われて納得した後、今度はフィリーナが声をかけた。

 利用すると言うと、小さな女の子相手だから悪く聞こえるけど、姉さんが考えてるのは少し違うようだ。


「女の子を利用した男が捕まれば、それで良いのだけど……もし私だけじゃなく、女の子の方も狙われたりしたらと考えると……ね」

「監視をしながら、女の子の護衛も兼ねるのですね」

「ええ、そうよ」


 女の子を諭した男が何を狙って来るかはわからないため、監視と護衛を一緒にするという事みたいだ。

 あんな小さな女の子が狙われたりして、危険になる事は避けたいな……。


「あとは、他の人達に接触していないか、調べる必要もありそうね……私を狙って来ているのだから、今回の一度だけで終わるとも考えられないわ」

「陛下、ハーロルト様に伝え、情報部隊を動かしますか?」

「そうね。全部は動かせないだろうけど……一部を動かして王都内を調べてもらうわ。警備部とも情報を共有して、連携する必要がありそうね」

「畏まりました。そのように伝えて参ります」

「よろしくね」


 ヒルダさんが姉さんに進言し、それを受け入れて指示を出す。

 まだ食事中の俺達や姉さんに礼をして、ヒルダさんは退室して行った。


「しかしまぁ、こんな話を食事中にしたくないものね。食事は明るく食べないと、美味しく感じないわ。ね、ユノちゃん、エルサちゃん?」

「美味しいの!」

「今日はあまりキューを食べて無かったから、特別に美味しいのだわ!」

「ふふふ、やっぱり食事は笑顔で食べないとね」


 料理の載せられたお皿に、顔を突っ込むようにして食べていたユノや、キューを両手にそれぞれ持って食べていたエルサに姉さんが問いかける。

 ユノとエルサの反応で、重くなっていた空気が和らぎ、それを朗らかに見ながら夕食は進んでいった。

 ……それは良いけど、ユノもエルサも食べ過ぎじゃないかな?

 ちょっと、それは俺のだから! ユノ、人のを勝手に食べちゃ……エルサもか!



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