第277話 部屋に戻ってようやく一息



 パレードは姉さんと俺の言葉で終了。

 俺や姉さんも馬から降り、兵士達が片付けに入る音を聞きながら、城へと入った。

 モニカさん達も、片付けに参加するようだけど……俺も、と思ったら姉さんに止められた。

 主役はそういう事に参加する者じゃないらしい。

 兵士さん達、モニカさん達、すみません……後はお願いします。



「はぁ~、疲れたわね。……お腹も空いたし」

「……すぐに、夕食を用意致します」

「すみません、お願いします」


 部屋に戻り、先に戻って来ていたヒルダさんに迎えられながら、ソファーに座って一息入れる。

 とりあえず、足を投げ出して座るのは行儀が悪いから、止めた方が良いと思うよ、姉さん。

 ここには俺とヒルダさんくらいしか今はいないから良いだろうけど、そのうち皆もここに来るだろうし。


 ソファーに座りながら、息を吐き、姉さんが呟いた言葉に対して、ヒルダさんが一礼して夕食の準備のために退室した。

 考えてみれば、パレード進行中は、一度休憩しただけで昼食も取ってなかったからね。

 俺も緊張が解けたせいか、お腹が減ってる事に気付いた。


「これで、ようやくパレードも終わったから……しばらくは特に何も無さそうね」

「だと良いんだけど。とりあえず、これでようやく冒険者の活動に力を入れられるかなぁ……」

「……りっくん、何のために今日パレードをしたと思ってるの? しばらくりっくんは忙しいわよ?」

「え? ……何で?」


 ヒルダさんを見送った後、俺もソファーで寛ぎながら、入れてもらっていたお茶を飲みながら一息。

 パレードも終わったから、ようやく冒険者として活動できると思ったんだけど、姉さんから思いがけない一言。

 俺が忙しいとは……何かやる事があったっけ?


「勲章授与も終わったし、祝勝パレードも終わった。これでりっくんは王都に言う人達に認識されたのよ? これまで通り、すんなり町を歩けるとは……思えないわね」

「顔は覚えられたと思うけど……そんなに、かな? ヘルサルでは声をかけられたりもしたけど、普通に歩けだたんだけど……?」


 ヘルサル防衛の後、俺が目を覚ましてからは外を歩く事に、あまり問題は無かった。

 まぁ、道行く人達が俺に感謝をしたり、称えるように叫んだりとか……何も無かったわけじゃないけど……。

 王都の城下町でも、同じような感じたと考えてる。


「甘いわね。それだけで済むわけがないでしょう? りっくんは、正式に勲章を授与されて英雄と認められた。さらに先日、魔物が襲撃して来た事も解決して見せた。直近の脅威を取り除いた事は大きいわね。そして、ヘルサルも大きな都市だけれど、王都はさらに大きいわ。当然人も多いから……囲まれるわね」

「囲まれる!?」

「ええ。街を一人で歩いてたら、そこら中から人が集まって、話をしようと寄って来るんじゃないかしら? 良かったわね~、有名タレント気分を味わえるわよ?」

「……いや、そんな気分……味わいたくないんだけど……」


 人が多いのはわかるけど……本当に姉さんの言うようになるんだろうか?

 有名タレント……日本では時折、外を歩いてた人気のアイドルとかが、道行く人に取り囲まれてサインをねだられ、パニックになる……なんて話もあったけど……そんな状態にはなりたくない。


「もしりっくんが、貴族になってたら違ってたかもね。貴族が面倒というりっくんの気持ちもわかるけど……今回は逆に、貴族にならない事が面倒に繋がったってとこかしら?」

「貴族だと、違ったの?」

「もちろんよ。貴族になっていた場合、当然そこらを歩いている民とは違う身分になるわ。そうなれば、恐れ多いと近付いて来る人も減ったでしょうね。貴族でもない平民の冒険者が英雄……人が集まるには十分な要素ね」

「……しばらく、外に出ないようにしようかな……というより、姉さん……絶対わかってたよね?」

「そりゃそうよ。私はこれでも女王ですからね? それくらいの事は考えているわ。……これ私のりっくんが皆に称えられるようになるわ……ふふふ……」

「怪しい笑いしないでよ。しかも私のって……はぁ……」


 変な笑いをしている姉さんに、はめられた気分だね。

 まぁ、貴族になってれば良かったとは思わないけど、しばらくは外を歩くのにも気を付けないといけないか……。

 夕食と、皆が戻って来るのを待つ間、姉さんの怪しい笑いと、俺の溜め息で部屋は妙な雰囲気に満たされていた。



「戻りました。疲れたわね……リクさんは大丈夫?」

「はぁ……顔が痛いな」

「私もよ。こんなに長時間、笑顔でいたのは初めてよ……」

「俺もだ」

「ただいまなの!」

「帰ったのだわ。補給をプリーズなのだわ!」

「皆お帰り~」

「お帰り、皆。モニカさん、ちょっと顔が痛いけど、何とか大丈夫だよ」


 しばらく後、片付け等々が終わったんだろう。

 モニカさん達が部屋へと帰って来た。

 元気なのは……ユノとエルサくらいだね。

 ソフィーやフィリーナは、表情筋を使い過ぎて痛みがあるのか、手でムニムニしながら解してる。


「今、ヒルダさんが夕食の準備に出てるから、もう少ししたら食べられると思うよ」


 何の補給なのかはわからないが、とにかく離れていたエルサが、俺の頭に向かって飛んで来る。

 頭にくっ付いた瞬間、「はぁ~」と声を漏らしてるから、本当に何か俺から吸い取ってるのかもしれない。


「ありがたいわ、皆お腹が空いてるようだったから。私もだけどね……」

「モニカは、あれだけ長い間笑顔でも、他の皆と違って平気そうね?」


 モニカさん達もお腹が空いてるみたいだね、昼食も食べて無いから、当然か。

 他の皆は、疲れた顔を解すようにしたり、疲れた顔をしているのに、モニカさんだけ平気そうな顔をしてるのを、姉さんが見て首を傾げた。

 かくいう俺も、時折顔を解してみたりしてるし、姉さんも同じくだ。


「私は……父の店でお客さんを相手にしていましたから。慣れてますね」

「成る程ね」


 モニカさんの答えに、姉さんは納得したようだ。

 小さい頃から、ずっと獅子亭で給仕をして来たモニカさんにとって、長時間笑顔でいる事に問題は無かったようだ。

 さすがに疲労はあるだろうけどね。

 俺やソフィーも獅子亭を手伝ったりはしてたけど、長い間やって来たわけじゃないからなぁ。


「皆様、お待たせ致しました。夕食になります。それと、ハーロルト様がお見えになっております」

「ありがとうございます、ヒルダさん。ハーロルトさん?」

「失礼します。先程乱入して来た少女の聞き取りが終わりましたので、報告に参りました」

「中々面白い格好だな……。まずは報告を」

「はっ!」


 皆と話している間に、それなりに時間が経ったらしく、ヒルダさんが夕食と一緒に、ハーロルトさんを連れて部屋に戻って来た。

 それは良いんだけど……鎧姿で料理を運んでるのは何故だろう……?

 もしかして、部屋に戻る途中にハーロルトさんに会ったから、ついでにヒルダさんが持たせた……のかな?

 ちょっとシュールな絵だけど、ハーロルトさんは気にせず、ヒルダさんと一緒に料理を配膳しながら報告を始める。


 ……エルサ、キューを食べたいのはわかるけど、もう少し待ってくれ……ユノもな。

 よだれを垂らすなよ、俺の頭が汚れるから……。



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