第276話 祝勝パレード終了



「……失敗したかも」

「え!? エルサちゃ……」

「いや、危なくはないと思うよ? けど、さすがに人の顔は難しかったかぁ……」

「……ほっ……。人の顔なのはわかるけど……誰の顔かまではわからないわね。笑ってるようには見えるわ」

「うん。……姉さんの顔なんだけどね……」

「私の!? りっくんには、私がああ見えているの!?」

「いや、そういうわけじゃ……」


 空を見上げながら、ポツリと失敗したと呟けば、姉さんが驚いてエルサを呼ぼうとする。

 それを遮って、危険があるような失敗じゃないと伝えると共に、姉さんの顔を模したのだと伝えた。

 けど……あれはさすがになぁ、と自分でも思う。

 なにしろ、顔の輪郭と笑ってそうな口元わわかるんだけど、それ以外が崩れててよくわからない……。

 色を黄色にしたのが悪かったかな……? そういう問題じゃないか……。


「怖がってる人もいるみたいよ……?」

「うーん、人の顔が崩れて見えるからかな?」

「私の顔で、誰かが怖がってるって……納得いかないんだけど……」

「そこはまぁ……ごめんとしか……仕方ない。……ウィルオウィスプ!」


 空を見上げている観衆を見ると、主に子供達が怯えてるように見えた。

 さすがに、花火で子供が怯えて終わらせるのはちょっとなぁ……。

 と考え、一番わかりやすい花火を打ち上げる事にした。

 色とかが付いていないから、ちょっと見えづらいかもしれないけど……下手にイメージを練って再現しようとしたら駄目だね、練習くらいはしておかないと。


「真っ直ぐ空に向かって飛んで。家とかを燃やさないように、ある程度の高度になったら、爆発して」

「……何その魔法?」


 横で姉さんが首を傾げてるけど、それには構わず召喚した3体のウィルオウィスプを空へ向かうように指示する。


「ウィルオウィスプっていう、召喚魔法だって。この前キマイラと戦う時に、なんとなくイメージしたらできたんだ」

「何となくで召喚魔法って、できるものじゃないと思うのだけど……」


 簡単に姉さんに説明しておき、空へと向かったウィルオウィスプを見る。

 3体はそれぞれ俺の指示に従って真っ直ぐ上へと飛び上がり、さっきまでの花火よりも少し下の辺りで静止する。

 そこで少しだけとどまって、炎を燃え上がらせ、破裂した。


 パパパンッ!


 3体同時に破裂して、その音が周囲に響くと同時、綺麗な火花が空で咲く。

 音も見た目も、こちらの方が花火っぽいな……変に凝らなくても良かったかも……?

 さすがに明るいと、煙も少なく、色が付いていない分見にくいけど、薄暗くなって来た空に咲く花火は綺麗だ。


「「「「「…………」」」」」

「皆驚いてるみたいね……召喚魔法に驚いてるのか、花火に驚いてるのか……これじゃわからないわ」

「えーっと……そうなの?」

「まぁ、デモンストレーションとしては、成功かもね?」


 空を見上げて静まり返った観衆。

 一緒に周りにいる貴族の人達も、兵士さん達も口を開けて空を見上げてる。

 花火じゃなく、召喚魔法に驚くのは……ちょっと納得いかないんだけど……まぁ、初めてだからこんなものなのかもね。

 驚かせるという意味では、デモンストレーションして成功としておこう。


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

「え!?」

「皆正気に戻ったみたいね。驚きから戻って来たって感じかしら」


 静まり返った周囲から、急に歓声が上がる。

 いきなりだったから、驚いた。


「すげぇ、リク様すげぇ!」

「何あの魔法!」

「あんな魔法見た事が無いわ!」

「途中の魔法はちょっと怖い形だったけど、最後のは綺麗だったな!」

「ええ。子供が泣き出すかと思ったけど、最後の魔法で全て吹き飛んだわ!」

「誰も見た事のない魔法を使うなんて、さすがリク様!」

「キャーリク様ー! 私を燃やしてー!」

「私を打ち上げてー!」


 等々、周囲から一斉に空を見上げていた人達がそれぞれに声を上げた。

 やっぱり、変な事を言う人達がいるのは気にしない。

 ほとんど、花火の事よりも魔法に対して驚いてるみたいだけど……まぁ、初めての花火だからこんなものかな。


「皆、楽しんでくれたみたいよ? 打ち上げる?」

「いや、変な事を言った人の声を取り上げないで。人を打ち上げるなんてできるわけないじゃないか。……ともかく、楽しんでくれたのなら良かったよ」

「まぁ、ほとんどが見た事のない魔法に対してだけどね」

「花火は失敗だったかなぁ? でも、初めて見たんだから仕方ないか」

「そうね。とりあえず、りっくんは帰ったら説教ね」

「何で!?」

「何でって……私の顔はあんなにおかしな顔じゃないわよ!」

「……それはゴメンナサイ」


 イメージが足らなかったのか、花火で人の顔は無謀だったのか……タイプクイーンは不評なのは間違いない。

 さすがに人の顔を無断で模して、さらに失敗と言えるような事になっていながら胸を張る事はできない。

 姉さんには、部屋に戻ったらしっかり謝ろう……うん。


「リク様による魔法披露は終了! これより、進行を開始する!」


 俺の魔法が終わり、少しだけ余韻のような間を開けて、先頭の兵士さんが声を上げる。

 その声に従い、ゆっくりと行列が動き始め、大通りを進んで城へと向かう。

 さっきの花火は、大通りの端にいる人達も見えたようで、最後の行進を見守る人達からは、それぞれに感想が叫ばれた。

 ほとんど、見た事の無い魔法に対しての感想だったけどね……もう少し花火に対しての感想が欲しかった……。


 予想より早く破裂したとはいえ、十分な高さで破裂してくれたから、大通り以外の場所にいる人達もきっと見えただろう。

 今度、マティルデさんにも感想を聞いてみるか……その前に、冒険者を使って場所を確保した事を注意しておきたいけどね……苦情来たみたいだし。

 ともあれ、少女が乱入というハプニングはあったものの、パレードは城へと入って終了だ。

 集まった人達は、これからそれぞれお酒を飲みに行ったり、お祭り気分で色々楽しむんだろう。


「リク殿、お待ちしておりました」

「ヴェンツェルさん。ハーロルトさんも」

「先程の魔法、パレードの進行、お見事でした」


 城門を通り、城前の広場へと帰りつくと、休憩時に交代していたヴェンツェルさんとハーロルトさんが迎えてくれた。

 魔法はともかく、パレードの進行の方は、俺じゃなく他の皆を褒めて欲しい。

 警備してくれた人や先導してくれた人、それぞれの協力があってできた事だからね。


「陛下、リク殿……こちらへ」


 ヴェンツェルさんに呼ばれ、馬に乗ったまま俺と姉さんが隣へ移動する。

 その場で馬を操り、城前の広場へと戻って来た皆の方へと向く。


「総員、下馬! ……では、お願いします」

「うむ。……これにて、祝勝パレードを終了する! 皆の者、ご苦労であった!」

「「「ははっ!」」」

「りっく……リク、最後に一言頼む」

「……わかりました」


 ヴェンツェルさんの号令で、戻って来た皆が馬や馬車から降り、俺や姉さんに向かって敬礼をする。

 それを見た姉さんが頷いて、皆へ言葉をかけて、パレードの終了かと思ったけど、俺からも何か言わないといけないみたいだ。

 こういうのは、あまり得意じゃないんだけど……女王様モードの姉さんに言われたら、断れない。


「えーッと、皆さん。本日は俺のためにありがとうございました。おかげさまで、無事パレードを終える事ができました。……えっと、お疲れ様でした!」

「「「ははっ!」」」

「りっくん……もう少し格好よく言えなかったのかしら……?」


 皆へ声をかけ、それに答えるように兵士さん達が姉さんの時と同じく、応えてくれた。

 隣で小さく呟いてる姉さんの声は、聞こえないふり。

 だって……皆の前で格好よく決めるとか、何も考えて無かったから仕方ないじゃないか……。



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