第266話 花火のイメージのため花を見に行く
「それより夕食よ。ほら、皆もお腹が空いたみたいよ?」
「いえ陛下……私は……」
「ははは。リク、陛下の言う通り、今は夕食を頂こう」
「せっかく用意してくれたんだしね。早速食べましょう」
「リクが気にする事もわかるがな……」
「お腹空いたの!」
「キューを頂くのだわ。早くするのだわ!」
「ははは……はぁ……」
気にし過ぎる俺が行けないのかな……?
モニカさんとアルネだけは、苦笑してるけど。
とりあえず、食いしん坊なソフィーとエルサ、ユノはもう少し落ち着こうな……?
……フィリーナも食いしん坊のメンバーに入れた方が良いかな?
なんて、どうでも良い事を考えながら、颯爽と夕食を頂くためにソファーへ座った姉さんを見ながら、俺も座る事にした。
国の事がわからない俺が、実際に国を動かしてる姉さんに対して、細かい事を気にして心配しなくてもいいのかなぁ……?
「あ、そういえば……」
「ん、ほうひはの、ひっふん……?」
「姉さん……物を口に入れたまま喋らないで……さすがに女王様がそれはどうかと……」
「ん……ゴク……まぁまぁ、細かい事は気にしないで。それよりどうしたの?」
「んー……まぁ良いか……えっとね」
夕食を頂いてる途中で、忘れていた事を思い出した。
昨日の夜、花火のイメージを固めていた時に、花を見て参考にしようと考えたんだった……。
口の中に物を入れたまま喋る姉さんの方は……ちらりとヒルダさんの方を見ると、難しい顔をしながら明後日の方向に顔を向けてたので、見ないふりをしてくれてるんだろう。
ヒルダさんがそうなら、俺もあまり気にせず話をしないとな……諦められてるのかもしれないけど……。
「昨日話した、花火を魔法でって話なんだけどさ……」
「言ってたわね。どうかしたの?」
「いや、この世界の人達に馴染みのある花を、イメージして見せられたらな……と思ってね。でも、俺が知ってる花は以前の世界の花ばかりだからさ……」
「成る程ねぇ……だったら、後で見てみる?」
「もう夜だけど、良いの?」
「中庭に出ればいつでも見られるわよ? 明かりもあるし、昼程はっきりとは見えないかもしれないけど……」
「なら、お願いしようかな? 試したい事もあるし」
「試したい事? リクさん、何かするの?」
この世界の花を……と思って姉さんに話したら、中庭に行けばこれからでも見られるらしい。
明日は朝からパレードで忙しいだろうから、今日のうちに見られるのはありがたいね。
試したい事とは線香花火の事なんだけど、モニカさんはもちろん、他の皆も興味があるように俺へと視線を向けた。
我関せずで食事に夢中なのは、ユノとエルサだけだ。
「えっとね、線香花火っていう……小さい花火を試してみようかなって。これなら、魔力を小さく調整する練習にもなるし、イメージを固めるのにも役立つからね」
「線香花火……?」
「風情があるわねぇ……久しぶりに見てみたいわ」
姉さん以外は、線香花火と聞いて首を傾げる。
そりゃ、花火も知らなかったなら、線香花火も知らなくて当然だよね。
「線香花火って言うのはね……」
懐かしそうにしている姉さんと一緒に、日本で見た事のある線香花火を思い出しながら皆に説明する。
「へぇー、そんな物があるのね。でも、小さいんでしょ?」
「小さい花火か……どうなんだろうな?」
「見た事の無い皆は、イメージができないから、あまりしっくりこないかもしれないけどね……」
「夜に線香花火を見ると綺麗よー。小さいけど、儚さもあって……」
「陛下がそこまで褒めるのなら、素晴らしい物なのね」
「ふむ……俺達も見て良いか?」
「もちろん。でも、帰る時間は大丈夫?」
「まぁ、宿には遅く帰っても大丈夫だろう」
俺が心配したのは、帰るのが遅くなって深夜の街を歩く事だったんだけど……でも、エルフの二人やモニカさんとソフィーさんは、戦えるから心配する必要もあまりないかな?
それはともかく、線香花火を知ってる姉さんはもちろん、他の皆も興味深そうにしてる。
試しにやってみるだけだから、上手くいくかわからないけど、皆が見たいのなら見てもらいたい。
小さくて迫力とかは無いけど、花火っていう物がどんな物なのか、わかってもらえるかもしれないしね。
「それじゃ、夕食を食べたら中庭に行こう」
「りっくん。ちゃんと火を消すための水は、用意しなきゃだめよ?」
「……失敗して、燃え移ったりしたら大変だから、確かに……」
「私が用意させて頂きます」
「ヒルダさん、ありがとうございます。お願いしますね」
何気に話を聞いていて、興味がある素振りを見せていたヒルダさんが、代わりに水を用意してくれるようだ。
城の中で、失敗して火事とかになっちゃいけないからね。
……皆は、俺が失敗……と言った事で少しだけ引いた様子だったけど、線香花火への興味のためか、誰も参加を辞退する事は無かった。
「夜の中庭ってのも、風情があって良いね……」
「中々良い景色でしょ?」
夕食後、皆で城の中庭に来た。
ここは、ワイバーンと戦う前にエルサが大きくなったところだけど、夜に来ると違って見えて面白い。
建物の隙間から見える空には、月が輝いていて綺麗だしね。
……ここから見える月は、地球とは違う物なんだろうけど。
ちなみに、ユノとエルサは、夕食後すぐに眠そうにしていたので部屋に置いて来た。
ヒルダさんが他の人に頼んで、代わりに様子を見てくれているようだ、ありがたい。
「こちらが、代表的な花になります。他には、このような花もあります。こちらは珍しいのですが……」
「ふむふむ……」
中庭をヒルダさんの案内で歩き、花壇の花を見て行く。
昼程明るくはないけど、城からの明かりと、月の明かりでぼんやり見える花は幻想的だ。
細かくしっかりと再現するわけじゃないから、これくらいでも十分だ。
花の説明を喜々とするヒルダさんは、こういった物が好きなんだろう。
女性らしくて良いなぁ……。
「皆にわかるような花と言えば、これじゃないかしら?」
「これ? なんだか見た事のあるような花だね?」
姉さんがヒルダさんの説明に割り込んで、一つの花を指し示した。
それは、日本で見た事のあるタンポポの花にそっくりだ。
ただし、色は白や黄色ではなく、バラのように赤かったけど。
「それは、この国の国花になっている花ですね」
「国花ですか……?」
「はい」
国花か……日本だと、菊とか桜って考えるのが一般的だったかな?
あまり詳しくないけど、法で定められたわけではなく、地域ごとに違う花を……という事もあるみたいだけどね。
「確か、私が生まれた時がちょうどその花が咲く時期だったから……かしら?」
「そうです。陛下がお生まれになった際、こちらの花が咲き誇る時期でした。さらに、陛下が産声を上げたまさにその時、この中庭一面に花が咲いた……という逸話になっております」
「……生まれたばかりの事だから、さすがに覚えて無いけど……そうだったの?」
「はい。その当時の事を知っている者達は、それは素晴らしい光景だった……と言っております。そして、その後の中庭を見た当時の国王陛下……女王陛下のお父様が、花からの祝福として、国花と定めたのです」
「……そうだったのね」
「姉さん……さすがに姉さんは知ってないといけないんじゃ……?」
「国花だって事は知ってたわよ?」
国花の成り立ちを知らない女王様、というところに溜め息を吐きそうになったけど、何とか我慢する。
姉さんは、俺と同じでこことは違う世界から来た。
というより、転生したらしい。
前世の記憶も持ってる異世界の……という事で、何らかの作用があったのかもしれない。
ユノに今度聞いてみよう……。
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