第265話 練習を終えてまったり夕食



「パレードの時に着る鎧の事なのですが……」


 ヒルダさんが来た理由は、俺が着る鎧に関する事だった。

 俺が着る鎧は、昨日ワイバーンの皮を使った青い鎧だ。

 けど、少しだけサイズが合わないようで、微調整をするため俺の体の採寸をしたいとの事。

 服と違って、鎧のサイズを調整するなんてできるかと考えたけど、部位ごとに調整する職人さんがいるらしい。


 確かに昨日着た時は、すこし大きく感じるような気がしたので、調整してくれるならありがたい。

 ヒルダさんに言われて、採寸に行こうと思ったところで、ハーロルトさんが帰って来た。


「お待たせしました……ヒルダ殿? どうかされたのですか?」

「ハーロルト様。実は……」


 ヒルダさんがここにいる事を疑問に思うハーロルトさんに、もう一度説明をする。


「成る程、鎧のサイズですか。今回は、パレードのためなので、戦う事はありませんが……サイズは調整しておいた方が、見栄えは良いでしょうね」

「はい。パレードの最中、リク様が違和感を感じられてもいけませんので……」

「違和感を感じる……という程でも無いのですが……」


 ほんの少し、大きいかな? と思うくらいだ。

 パレードで着るだけなんだから、1日我慢すれ良いだろうと考えて言ったんだけど、ハーロルトさんとヒルダさんには反対された。

 なんでも、サイズが合わなかったら動いた時に、不自然な音が鳴って敏感な者は勘づくだろうとの事。

 ……少しだけなんだから、大丈夫だとは思うんだけどなぁ。


 でも確かに、鎧とかを作ってる職人さんや、詳しい人なんかは気付くかもしれない……のかな?

 まぁ、サイズの調整をやってくれると言うのだから、ここは変に反対せず、お願いしておこう。


「では、こちらになります」


 ハーロルトさんと別れ、ヒルダさんに案内されて別の部屋へ。

 モニカさん達は、俺が馬の練習をしてた間も、こちらを見ながら書類でパレ―ドの行程を確認していた。

 今は、俺の採寸までついて来る事はないため、部屋に戻ってゆっくりしてる事だろう。


「では、ここで採寸をさせて頂きます」

「はい、お願いします」


 案内された部屋は、あまり大きくなく、ベッドすらない部屋だった。

 数人が入るスペースと、椅子が数個あるくらいだから、更衣室とか、そういった感じの部屋なのかもしれない。


「はい、確認致しました。お疲れ様です」

「……はい」


 採寸は、ヒルダさんに色々な体のサイズを計ってもらったのだけど、ちょっと恥ずかしかった。

 さすがに下は履いたままだけど、上半身は裸にされたからね……。

 採寸のために必要とは言え、ここまでする必要ってあるのかな……?

 どうせギャンベゾンも着るんだし……とも思ったけど、口には出さないでおいた。

 ヒルダさんが一生懸命調べてくれたからね、水を差さないでおこう。



「はぁ……これで、あとは明日のパレードを待つだけ、か」

「そうね。いよいよパレードなのね」

「勲章授与式の時もそうだったが、リクといると、大きな催しに関わる事が多いな」

「城への魔物襲撃にも関わったしね?」

「おいフィリーナ、それはさすがにリクが原因ではないだろう」

「ははは……。でも、確かにそうだねぇ……」


 勲章授与式と来て、さらに今度はパレードだ。

 俺と同じように冒険者になった人で、こんな経験をしてる人は他にはいないんだろう。

 それに、フィリーナの言う通り、魔物の襲撃に関してもそうかもしれない。

 俺が原因ってわけじゃないけど、短期間に、こんなに大量の魔物と戦う経験なんて、早々あるもんじゃないんだろうなぁ。


「ヘルサルでのゴブリン、エルフの集落でのサマナースケルトンを始めとした魔物達、さらには王都でワイバーンや城を襲撃する魔物達……」

「普通の冒険者では、最初のヘルサルで命を落としていてもおかしくないな」

「そうね。聞けば聞く程、リクの経験が凄い事になってるわね」

「リクは自分の力だけじゃなく、他の者達もいたから切り抜けられたと言うが……リクがいなければどれも切り抜けられなかっただろうな……」

「私も頑張ったの!」

「私もいるのだわ」

「ははは、ユノやエルサ。皆が協力してくれたおかげだよ」


 今は、採寸やパレードの準備で俺がする事は終わり、部屋に戻ってゆっくりした時間だ。

 その中で、何故か俺が今まで体験した事を思い返すようになってる。

 俺も頑張った事は確かだけど、俺だけが頑張ったわけじゃないと思うんだよなぁ。


 ヘルサルでは、マックスさん達も含めて、ヘルサルとセンテが協力してゴブリンに対して戦ったから、怪我人はいたけど、死者が出なかった。

 最初から皆が諦めてたら、すぐにヘルサルの街中へゴブリン達が侵入してしまって、被害は甚大だっただろうしね。


 エルフの集落では、エヴァルトさん達エルフが頑張って持ち堪えてくれてたから、俺達が行くのも間に合った。

 あそこでは、特にエルサが頑張ってくれたのもあるし、残党討伐には、ヤンさん達にも協力してもらった。


 王都では、兵士さん達の協力があったから、謁見の間に裏から侵入してバルテルを止める事ができたし、囮になってくれたユノのおかげもある。

 ワイバーンと戦ってる間、押し寄せる魔物達が城に入り込まないよう持ち堪えてたのも、兵士さんやモニカさん達のおかげだしね。


 全ての事を俺一人で行動し、戦ってたら……と考えると、エルサがいたとしても被害は大きなものになってただろうなぁ……。


「……やっぱり、皆が頑張ってくれたおかげだよ」

「リクさんは、いつもそれねぇ……」

「ははは、リクはそれが良いんだろうな」

「皆で協力して……ね。だから皆、そう考えてるリクさんに感謝してるのよ?」

「まぁ、俺達だけの力では無理だった。リクだけの力でも無理だった……そう考える事にしよう」


 そう結論付けて、アルネが締める。

 その後も、まったりと談笑したり、パレードの行程を書類で確認したりして、ゆっくりとした時間を過ごした。

 他に予定が無かったからなんだけど、こういう時間もたまには良いよね。


「皆様、夕食の準備ができました」

「私も一緒に食べるわよー」

「姉さん……最近夕食はいつもここだけど、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。英雄を歓待するためって事で、皆認めてるわ」

「歓待……良いのかな……?」


 夕食の準備をしてくれたヒルダさんと一緒に、姉さんが部屋に入って来た。

 女王陛下なんだから、城にいる貴族の人達と食事したりとか、そういった事もあるかも……なんて考えたんだけど、姉さんが言うには、これで良いらしい。

 ……貴族の人達には元姉弟なんて話はしていないだろうから、俺を女王自ら歓待するため……という事で通ってるようだ。

 本当に良いのかな……?


「まぁ、細かい事は気にしなくて良いのよ。大体の事は、ハーロルトと宰相がやってくれるわ」

「ハーロルトさんが?」

「そうよ。情報部隊の隊長だからね。情報操作もお手の物よ?」

「情報操作って……」


 宰相さんは、補佐をする人だから、そういう事に長けてるんだろうけど、ハーロルトさんは情報操作をして、姉さんがここにいても良いという事にしてくれてる……という事なのかな?

 というか、情報操作までしてるのか……ハーロルトさん、本当にお疲れ様です。

 何をどう操作しているのかはわからないけど、ハーロルトさんが苦労しているのは間違いないだろう……不肖の姉が申し訳ない……。



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