第263話 新しい魔法を考えるリク



「リクの魔法を、何も考えずに使うと考えるのは危険なの。王都が無くなるのだわ」

「そんなに、なの? 確かに魔物が襲撃して来た時の魔法はすごかったけど……」

「ヘルサル防衛の時を考えると……あながち大袈裟でも無いんです……」

「私達の集落の時は……あの時はエルサ様が頑張ったんだったわね」

「だが、集落全体を覆う防御魔法は凄かったな。あれが攻撃に使われる……と考えると、王都が無くなると言うのも頷ける」


 姉さんは、ヘルサル防衛の時の事を城で報告を受けただけだろうからなぁ。

 実際に見ているエルサとモニカさんとソフィーは、俺が全力で魔法を使えば、王都を壊滅できるだろうと考えてるんだろう。

 いや、そんな事しないし、ちゃんと考えて魔法を使うつもりだよ?


「りっくん、もはや大規模破壊兵器ね……そりゃエルサちゃんも周囲を気遣うわね」

「いや、そこまで言わなくても……」

「間違いでは無いのだわ」


 若干、姉さんに引かれながら、エルサが少しずつ人間の事を考え始めてる事を喜びながら、時間を潰す。

 ヘルサルで俺の使った魔法を、詳しくモニカさんやソフィーが説明してるけど……フィリーナやアルネにまで引かれた……あの時は、まだ慣れてなかったのもあるけど、ゴブリンの量が多過ぎたからなぁ……。


「……お待たせ致しました」


 しばらく後、ヒルダさんが用意してくれた夕食を皆で頂く。

 さっきまで照れ臭そうにしていたエルサも、キューに飛びついてご満悦だ。


「でもリクさん。パレードで魔法を使っても大丈夫なの?」

「……確かに。さっきの話を聞いたら、不安になるわね……王都を壊滅させないでよ?」

「しないよ。大丈夫、ちゃんと考えてるから」

「リクの魔法だと聞くと不安なの……」


 夕食を頂きながら、モニカさんが心配して聞いて来る。

 それに便乗する形で、姉さんもユノも、俺が魔法を使う事に対して懐疑的だ。

 他の皆も頷いてるから、皆巻き込まれないか不安なんだろう……俺、そんなにひどい事はやらかしてない……よね?

 唯一、さっきの話を聞いていなかったヒルダさんだけが、俺の心の拠り所だよ……。


「大丈夫だって。今回は、危ない魔法は使わないから」

「どんな魔法を使うか、決めてるの?」

「うん」

「りっくんが使う魔法ねぇ……イメージで使うとは聞いたけど、どんな魔法を考えたのかしら……?」


 モニカさんの問いには頷いて答える。

 姉さんも皆も、俺が考えた魔法に興味があるようだ。

 巻き込まれないかの心配、という事もあるのかもしれないけどね。


「花火をね、打ち上げようと思うんだ」

「花火?」

「それは何なんだ?」

「聞いた事無いわね……」

「花の火? 聞いただけだと、危険な魔法にしか思えないが……」

「成る程、花火ね。それなら確かに、見栄えは良いでしょうね」


 姉さんだけは、俺が行った花火の事を理解している。

 まぁ、日本では誰でも知ってる物だからね。

 でも、この世界には花火はないらしく、他の皆は首を傾げている。

 火薬とか、そういう物ってないんだろうか……?


「えーっと、なんというか……空に火を使って花を咲かせる……かな?」

「間違ってはいないけど、それだけじゃ不十分よ、りっくん」

「空に花……?」

「火を使う……爆発させるのか?」

「聞いただけだと、本当に危険な魔法に思えるわ」


 花火を見た事の無い人にとっては、空に火で花を……と言われてもすぐにピンとは来ないんだろう。

 ソフィーの想像のように、爆発と考えて危険な事を考えてしまっても仕方ないか。

 爆発で間違ってるわけじゃないんだけど……。


「でもりっくん、パレードは昼間よ? まだ明るいうちから花火を上げても、綺麗に見えるかしら?」

「それは確かにそうだね。けど、昼用花火という物があってね? 火を散らすだけじゃなくて、煙に色を付けて目立たせるんだ。あと、火にも色を付ければ、昼間でも見栄え良く出来そうだからね」

「成る程ね……けど、危険はないのかしら?」

「それは大丈夫。火が落ちて来ないくらい高い場所に打ち上げれば、危険はないよ。魔物襲撃の時、面白い魔法を考えたからね」

「魔物襲撃の時?」


 あの時、魔物の集団に炸裂する球の魔法を使った。

 試しに作った物だから、アルネに投げてもらった後、すぐに炸裂せず、魔物が踏んだかどうかしたあたりで炸裂した。

 あれを応用して、ある程度の高さに打ち上げてから、炸裂するように魔法のイメージを固めたら、花火ができると思うんだ。

 まだちゃんとしたイメージを考えて無いから、これから考えないといけないけど。


「魔物襲撃の時、風の球を作り出して魔物達へ投げたんだ」

「あの球か……」

「そうだよアルネ。それを応用して、色のついた火と煙が出る球を作り出す。そして、それを空高く打ち上がるようにイメージして、ある程度の高度で炸裂するようにすれば良いかなって」

「……実現できれば、確かに危険は無さそうだけど」

「それなら炸裂の部分に気を付ければ、調節に失敗しても、巻き込まれないの!」

「……目の前で破裂する想像をしてしまったのだわ……リクの魔法が眼前で破裂……恐怖しかないのだわ」

「全く想像がつかないわね……」

「私達には考えられない事だな」

「ドラゴンのエルサ様が怯える魔法ね……どうなる事かしら……?」


 姉さんは花火を知ってるから、魔法を想像できてる。

 他の皆は、見たことも無いから想像ができないらしく、よくわかっていない様子だ。

 ユノは日本にいたから知ってるし、エルサは俺の記憶が流れ込んで知ってるんだろう……言っている通り、炸裂の部分には細心の注意を払わないとね……。

 大玉の花火が地上で炸裂とか……大惨事しか想像できない。

 ……やっぱり、危険だったかな?


「提案はしたけど、まだイメージを固めて無いからね。でも、パレードまでまだ時間があるから、その間にイメージをしておくよ」

「くれぐれも、危険は無いようにね……」

「皆を巻き込まないようにな」

「ははは、気を付けるよ」


 今まで、魔法はほとんど必要に駆られてイメージして来たから、今回は時間をたっぷり使って考えられる。

 咄嗟に考えてイメージした魔法で、これまでそれなりに考えた通りの魔法ができてるから、大丈夫だとは思う。

 ちゃんと、お試しで魔法を使って、危険が無い事を確認しておかなきゃな……。


 炸裂のイメージとか、火が散るイメージをするために……線香花火でも試してみるかな?

 極小の魔力を調整して使う事で、そういった事にも慣れる事ができるだろうしね。

 イメージが上手くいかなかった場合、ウィルオウィスプを召喚して、それで弾けてもらおう……あれなら、指示を聞いて動いてくれるから危険も少ないだろうし。


「それじゃあ、また明日来るわね」

「ではな」

「おやすみ、リク」

「では」

「おやすみなの」

「おやすみなのだわ」

「私も部屋に戻るわ、それじゃあね、りっくん」

「皆、おやすみー」

「では、私も待機しておきます」


 夕食も終わり、しばらく待ったりと話した後、解散となる。

 今日はユノが部屋に残るかと思ったけど、俺の花火魔法のイメージを固める邪魔をしないため、モニカさん達と一緒に宿へ行った。

 ユノがいても邪魔になるとは思わないけど、気遣いはありがたく頂いておこう。


 部屋から出て行く皆を見送り、お風呂にも入って、エルサにドライヤー。

 気持ち良さそうに寝たエルサをベッドへと運び、花火のイメージを始める。

 ヒルダさんも隣の部屋へ移動したから、俺一人だ。

 ソファーに座りながら、記憶にある花火を思い出し、頭の中でイメージを始めた。


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