第262話 提案の承諾



「リク、できるのか? 我らは魔物に襲撃されたばかり。民衆を危険に晒す事無く、安心させなければならん。それができると?」

「はい、大丈夫です。ねえさ……陛下も安心して下さい」

「そうか、わかった。では、我もリクを信じる事にしよう。英雄殿の言う事だからな。リクを英雄と認めたのは我が国の総意。本人が言うのであれば信じよう」

「ありがとうございます」


 今まで黙って聞いていた姉さんが、俺に問いかけて確認する。

 思わず姉さんと言いそうになったけど、すぐに陛下と言い直した。

 ……最近は俺の部屋で話す事が多かったから、切り替えて陛下って呼ぶのに慣れてないなぁ、危ない危ない。


「ですが、リク殿。それは観衆も、我々も納得のいくものなのですか?」

「そうですね……多分、大丈夫だと思います。思いっきり派手で、見栄えも凄く良いと思いますよ」


 俺が考えている通りに魔法が発動すれば、必ず皆驚いてくれるはずだ。

 もちろん、危険はないし、この世界には無い物だと思うから、初めて見て驚く……という事だけども。

 綺麗なものだから、驚くだけじゃなく感動もしてもらえるかもしれない……というと、ちょっとハードルを上げすぎのように思うから、言わないけど。

 ……後で、姉さんと話してイメージをもっと固めておきたい。


「リク殿本人の言う事、そして陛下も認めたという事で……パレードの際、リク殿の魔法を披露する場を設けたいと思います。皆様、異論は御座いませんか?」

「リク殿の言う事、私は異論ありません」

「ほっほっほ、英雄殿の魔法が見られるとは、楽しみじゃ。長生きはするもんじゃのう」

「そうですね。これは歴史に残るパレードになりそうです」

「我々も、異論はありません」

「……異論はない」


 大臣ぽい人が、皆に聞き、フランクさんを始めとした貴族達も、ハーロルトを始めとした軍関係者達も、異論はないようで、頷いてくれた。

 ただ一人、ヴェンツェルさんだけは、難しい顔をして遅れて頷いたけど……。

 もしかすると、話が難しくてわからなかった……なんて事はないよね? 将軍なんだし、きっと理解してくれてる、と思う。


「……ハーロルト、後で詳しい説明を頼む」

「……はぁ……ヴェンツェル様……わかりました」


 あーうん、わかってなかったんだね……。

 脳筋という言葉が相応しいヴェンツェルさん、ハーロルトさんに後で説明してもらうようだ。

 ハーロルトさんの苦労が偲ばれる……。


「では、リク殿が魔法を使い、観衆を魅せる場面については後程。続きまして、パレードの手順ですが……」


 その後、パレードの行程とは別に、進行中の手順や出発時の手順なんかを確認して、打ち合わせは終了となった。

 俺が魔法を使う場面は、また今度決まるらしいけど……恐らくパレードの開始直後か終了間際の、大通りを通ってる時だろうと思う。

 こういうのは、一番大きな場所で、一番盛り上がる場面で使うに限るからね。


 打ち合わせが終了となり、各自で今話した事などを確認しながら部屋を出て行く、軍関係者達を見送る。

 それとは別に、貴族の人達が入れ替わり立ち代わり、俺に挨拶を……と殺到した。

 途中で、陛下……姉さんの静止で渋々部屋を出て行った貴族さん達……機会があれば、全員と話してみたいとも思うけど……今は疲れもあるからね、また今度だ。

 何人かは挨拶したけど、顔と名前が一致しないなぁ……覚えてるのは、フランクさんくらいだ。



「はぁ……ようやく終わった……」

「お疲れ様、リクさん」

「私達も参列するが、ほとんどリクに関する事ばかりだったな」

「まぁ、リクのために行われるパレードだからねぇ」

「リクがメインな以上、それに関する事なのは当然か」

「私、寝ないで話を聞いてたの!」

「……お腹空いたのだわぁ」

「思ったより、りっくんもちゃんとしてたわね。貴族達がお礼を言いたいと言い出した時は、あわあわしてたけど……」

「陛下、リク様、それと皆様。お疲れ様でございます」


 皆でぞろぞろと部屋に戻って、ソファーに座り、ヒルダさんに淹れてもらったお茶を飲みながら、一息吐く。

 馬の練習から始まり、鎧の着せ替え、偉い人達が集まっての打ち合わせと、今日1日だけで結構気疲れする事が多かった。

 特に、打ち合わせはなぁ。

 姉さんがクスクス笑ってるけど……慣れない場で、国の偉い人達が急にお礼を……とか言い出したら、一般人の俺があわあわしても仕方ないと思うよ……。


「すぐに、夕食の準備を致しますか?」

「そうですね……エルサもお腹が空いてるようですから、お願いします」

「キューもお願いするのだわ!」

「畏まりました……」


ヒルダさんに夕食の支度をお願いして、皆でソファーにてくつろぐ。

 すかさずキューをお願いするエルサにも、頷いて出て行ったヒルダさん……いつもありがとうございます。


「しかし……エルサも周囲の事を、考えられるようになったんだなぁ……」

「私なのだわ?」

「あぁ。さっきの打ち合わせで、俺が周囲の人間を巻き込んだら……って忠告したただろ?」

「確かにそうね。エルサちゃんがいきなり発言したから、他の者達も驚いてたわよ?」

「平静を装ってたけど、あの大臣ぽい人も、驚いてた雰囲気だったね」

「大臣ぽいって……あの人は宰相よ? 当たらずとも遠からずってとこかしら……」

「宰相……」


 夕食を待つ間、のんびりと話しながらエルサの事を考える。

 急に発言したから、あの場の人達は驚いてたけど……大臣ぽい人は宰相だったらしい。

 確か……国政を補佐する人……だったかな?

 まぁ、似たようなものか……詳しくないから、よくわからないけど。


「ともあれ、エルサちゃんの事ね。私は最近知ったからわからないけど、以前は違ったの?」

「前は……あまり人間の事を気に掛ける事は多く無かったかな……?」

「そうですね……リクさんに近しい人に対しては、一応接する事はありましたけど……他の人間に対しては、あまり興味が無かったようでした」

「キューをくれる人間か、くれない人間か……くらいにしか区別してなかったようにも見えたな……」

「父さんの名前、最初の頃は何となくしか覚えて無かったみたいだしね……」

「ははは、そうだったね。エルサ、何か心変わりでもしたの?」

「別に何か変わったわけではないのだわ。ただ……リクと接してて、人間も楽しそうだと思っただけなのだわ」

「ははは、そうか」


 照れ臭そうに、そっぽを向きながら答えるエルサのモフモフを撫で、それも変わったって事なんじゃないかなぁと思ったりする。

 まぁ、エルサ自体が否定しそうなので言わないでおくけどね。


「へぇーそうだったのね。でも、今は人間を気遣うようになった……と」

「そうだね。だからちょっと驚いたよ」

「別に、気遣ったわけじゃないのだわ。ただ、リクの魔法は威力が高すぎるから……だわ」

「まぁ、確かにリクの魔法は威力が高いわね」

「ワイバーンを蹴散らすときも、多少なりとも巻き込まれた者もいるようだしな……」

「あの時は驚いたの!」

「あははは……」


 確かにエルサの言う通り、俺の魔法は威力が高過ぎるのかもしれない。

 魔力量がおかしい……とはユノやエルサから言われた事だけど……そのおかげで少しだけ魔力を使って……という事が難しいんだよね。

 ワイバーンを斬り裂いて吹き飛ばす魔法の時は、地上にまで風の影響が出て、ユノを魔物の集団の真ん中まで飛ばしたというのは、反省しないといけないなぁ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る