第246話 ギルドに続いて姉さんにも報告
「それで、りっくん?」
「ん?」
「ワイバーンの皮はどうなったの? 出発前に頼んでたと思うけど……」
「あぁ、その事ね。とりあえず剥ぎ取った皮は、全部冒険者ギルドに納品したよ」
「なんで!? こっちにも回してって頼んでたじゃない! もしかして私の言う事を忘れてたの!?」
持って帰って来た皮は相当な量があったけど、さっき全てマティルデさんに渡したからね。
野営中にでも、ギルドに納品する皮と、姉さんに渡す皮を分けようと思ってたけど、エルサが急に帰ろうとするもんだから、そんな時間はなかった。
それに、納品した皮の分、報酬も増えたみたいだから、ギルドに納品する量は多いければ多い程良いんだと思う。
とはいえ、姉さんは俺が忘れてたと考えてるようで、憤慨してるね。
「いや、違うんだ姉さん。忘れてたわけじゃないんだ」
「じゃあなんで、ワイバーンの皮を持って帰って来てないの!?」
「そのワイバーンなんだけど……王都の近くに大量に持って帰って来てるから……」
「へ? ワイバーンを……? 皮じゃなくて?」
「うん、バラバラになったワイバーンそのものを」
エルサが持って帰って来たのは、まだ皮が剥ぎ取られていないワイバーンの体全てだからね。
そこから皮を剥ぎ取れば、姉さんが欲しがってる分も、十分以上に取れるはずだ。
俺は、姉さんにバラバラになったワイバーンをまとめて、王都の近くに持って来たことを伝えた。
「……どうしてそんな事に?」
「キューが切れたから、としか言いようがないね。持って行ったキューが無くなったら、エルサが帰るって聞かなくて……それで魔法で、残ったワイバーンを全て運びだしたんだ」
「そうなのね……さすがドラゴン、という所かしら」
二人で、キューを頬張って幸せそうなエルサを見ながら話す。
キューを食べてる姿からは、とてもじゃないけど大量のワイバーンを、まとめて運んで来るような事が出来るとは思えないけどね。
あ、そうだ。
「姉さん、ワイバーンの事でお願いがあるんだけど、良いかな?」
「なぁに? りっくんのお願いなら、女王の権限を使ってでも聞くわよ?」
「陛下……」
俺からのお願いとあって、姉さんは女王様権限も使う事を厭わないと言ってるけど、さすがに冗談だろう。
ヒルダさんが、姉さんに咎めるような視線を向けてるけど……さすがに冗談だよね、姉さん?
「えーと……ワイバーンの皮を剥ぎ取るのを、手伝える人を貸して欲しいんだ。数が多いからね……俺達だけだとすぐには終わらないだろうし……」
エルサが運んだワイバーンは、腕や足も含めて全てだ。
山で剥ぎ取ってたのは、胴体からで他の部位からは剥ぎ取ってなかった。
胴体だけでもあれだけの時間がかかったんだ、俺達だけで処理をすると考えると、相当な時間がかかると思う。
姉さんに言って、何人かそう言うことに慣れた人を貸してもらえば、多少は時間を短縮できそうだからね。
「成る程……ワイバーンの処理に……ね。わかったわ。元々、皮が欲しいのはこっちの事情だから、それくらいの事には力を貸せるわ」
「しかし陛下……今はパレードの準備や、魔物達の襲撃で損傷した物の修繕などで、人手は……」
「なら、手の空いている兵士を使えば良いでしょ? ワイバーンの皮は、兵士達の防具に使おうと考えて、りっくんにお願いしてるのよ? これくらいの事は引き受けないと」
「それは……そうですね。畏まりました」
「大丈夫なの?」
「大丈夫よ、りっくん。兵士への支給品になるのだから、その兵士達に働かせるわ」
魔物達の襲撃、俺のパレードの準備なんかで、人手はあまりないみたいだ。
確かに、俺が今日ここへ帰って来る時、城門付近はまだ傷跡が残ってた……ほとんど俺が付けたようなものだけど……。
ヒルダさんの苦言に、姉さんは兵士を使えば良いと言う。
心配して聞いた俺にも、笑って大丈夫と言う姉さん。
まぁ、自分達の装備のため……という事なら、兵士さん達を動かすのも悪くくない事かもね。
ワイバーンが大量に処理されず残ったままだと、魔物が来てしまうかもしれないから、それの対処……という事にでもするのかもしれないし。
「それじゃあ、明日はワイバーンの処理ね。ヒルダ?」
「畏まりました。伝達して参ります」
姉さんに声をかけられたヒルダさんが、了承して部屋を退室する。
……余計な仕事を増やしちゃったかな?
「これで、明日は私も暇じゃなくなるわ。楽しみね、久しぶりに王都の外に出るわぁ」
「……いや、姉さんは一緒に来たら駄目でしょ。女王様なんだから」
「どうして!?」
意味が分からないとでも言うような姉さんだが、当然の事だと思う。
こんな事で、女王陛下が直々に外に出てたら、国の政治が立ち行かなくなってしまいそうだ。
……俺がそう考えるだけで、実際は大丈夫なのかもしれないけど……この場にヒルダさんがいてくれたら、俺の意見に同意してくれたはずだ。
その後、ヒルダさんがついでに夕食の準備もして戻って来た。
夕食を食べる間中、ぶーぶー言ってる姉さんをなだめつつ、数日の旅を終えて、疲れを癒すために床へ就いた。
移動中は、お風呂に入れなかったから、しっかり体を洗ってエルサも洗い、汚れを落としてから、だけどね。
――――――――――――――――――――
翌日、朝の支度を済まし、以前も行った西門へと向かう。
「おはよう、リクさん」
「おはよう、モニカさん、皆」
俺が西門手前の広場になっている所に到着すると、他の皆は既に準備を終えて待っていた。
「……リクさん、後ろにいるのは?」
「あぁ、知っての通りの人だよ」
「はっはっは、今日は陛下の使いでな。リク殿に協力する事になった」
俺の後ろにいるのはヴェンツェルさん。
俺よりも大きな体だから、当然気になるよね。
一緒に来たがった姉さんはもちろん、ヒルダさんによって止められ、代わりにヴェンツェルさんが来る事になった。
さらに後ろには、この機会に新米兵士さん達に魔物の素材剥ぎ取りを教えるため、8人ほどの人が控えている……初めての事だから、ちょっと緊張してるみたいだ。
「昨日、城に帰ってから姉さんに頼んだんだ。俺達だけじゃ時間がかかるからね。それで、ヴェンツェルさんを始め、数人の兵士さん達が手伝いに来てくれたってわけ」
「成る程ね。今日はよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む。とは言え、本来私達軍の兵士への防具支給の素材だと聞いた。どちらかと言えば、私達が行わなければならない事のはずだしな」
兵士さん達への支給品にならるのだから、ヴェンツェルさんを始めとした軍の人達が主導するべき……という事だろう。
「まぁ、俺達が頼まれた事ですからね。最後までやり通しますよ」
「リク殿は律儀だな。だが、マックスにも似ていて好感が持てる」
マックスさんに似てるかな?
尊敬する人の一人でもあるから、嬉しい事ではあるんだけどね。
「それでは、ここで話していても時間が過ぎるだけだろう。早速その場所へ案内してくれ」
「わかりました」
ヴェンツェルさんの言葉で、俺達は西門を出て昨日ワイバーンを隠した場所へ。
俺、モニカさん、ソフィー、フィリーナ、アルネ、ユノがひと塊になって、ヴェンツェルさんは新兵さん達を連れている。
何やら、行きがけにワイバーンの皮を剥ぎ取る方法なんかを教えてるみたいだ。
新人教育って大事なんだなぁ。
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