第245話 報酬を受け取り城へ
「あれを持って来て」
「はい!」
「……あれ?」
「報酬よ。依頼を達成したのだから、報酬が必要でしょ?」
マティルデさんが受付の女性に声をかけ、それを受けて部屋を出て行く女性。
何の事か聞くと、報酬の事だったらしい。
あんまり考えて無かったけど、冒険者として依頼を達成したのだから、報酬をもらうのは当然か。
「お待たせしました」
「はい、ありがとう。リク君、これが今回の依頼達成の報酬よ。……パーティ分で分けてあるけど、大丈夫?」
「えーと……はい、大丈夫です」
受付の女性が持って来た、ずっしりと重たい革袋を受け取り、中身を確認する。
いつもはこれをするのって、モニカさんに任せてたけど、今回はいないからね。
少し時間がかかりながらも、しっかりと中身の確認。
後で、アルネやフィリーナ、それにユノにも分け前を渡さないと……。
「Aランクの依頼を、こんなに早くこなせるなんてねぇ……これは本当にSランクになる日も近いわね」
「ははは、そんな……まだAランクになったばかりですよ? それは気が早いです」
「そうでもないわよ? リク君はしっかり、しかも確実に依頼を短期間で二つも達成させた。このまま順調に行けば、Sランク間違いなしだわ」
「……そう、なんですかね……?」
Sランクを目標にしているわけじゃないし、自分がそうなるとはあまり思えないけど、マティルデさんが言うなら、そうなんだろう。
まぁ、のんびりやって行けばいいかな。
モニカさん達の方のランクに、見合った依頼もやりたいしね。
「さて、今日はリク君と話せて楽しかったわ」
「俺もですよ。それじゃ、ありがとうございました」
「ええ、こちらこそ。それじゃあね」
報酬も受け取った事だし、エルサ達の紹介も終わった。
特に用も無くなったので、マティルデさんにお礼を言って、部屋を出る。
帰り際、チラッとカウンターを見ると、時間が遅いために空いてる場所があったのを見つけて、また依頼を聞いてみようかと思った。
けど、キマイラの依頼を受けた時、帰ってモニカさん達に叱られたからね……俺一人の独断で依頼を受ける事は止めておこう。
「それではな、リク。また明日」
「リク、また明日ね」
「うん、今回は手伝ってくれてありがとう。それじゃ」
「またなのー」
「またなのだわ」
中央冒険者ギルドを出て、城へと帰る途中、宿が別のアルネ達と挨拶を交わし、別れる。
城へは、俺とエルサとユノだ。
ユノだけじゃなく、エルサもちゃんと挨拶するようになって、ちょっとだけ感慨深い。
最初の頃は、俺以外にあまり興味を示したり、挨拶する事は無かったんだよな……。
「お帰りなさいませ、リク様!」
「ただいま帰りました。ご苦労様です」
時間も遅く、もうすっかり暗くなった道を歩き、城門にたどり着く。
見張りをしていた兵士さんに挨拶をして、中に通された。
……ここでも顔パスなんだよなぁ……まぁ、楽で良いんだけど。
「帰りました」
「帰ったのー」
「帰ったのだわ」
「お帰りなさいませ、リク様、ユノ様、エルサ様」
「おかえりー、りっくん! 待ってたわよぉ!」
「……姉さん?」
城内に入り、用意されている部屋へと戻る。
そう言えば、ずっと俺の部屋として使わせてもらってるけど、城の大事な部屋だろうに、良いんだろうか……まぁ、良いか。
部屋に入りながら、ただいまの挨拶をすると、中にいたヒルダさんが一礼をして迎えてくれる。
それと……何故か部屋にいる姉さんが、俺に駆け寄って来ながら歓迎してくれた。
歓迎してくれるのは嬉しいんだけど……なんでそんなに興奮してるの?
「りっくんがいない間、暇だったわ。ヒルダが仕事をしろってうるさいし……」
「いや、それは当然なんじゃ……」
俺は姉さんの暇潰し相手なのだろうか?
そもそも、国を治めてるんだから、ちゃんと仕事をしてもらわなければ困る……。
「それで、予定より帰って来るのが早かったみたいだけど、依頼は順調だったの?」
とりあえず姉さんを落ち着かせて、ソファーに座り、ヒルダさんの用意してくれたお茶を飲みながら一息。
姉さんが、王都を離れてる間の事を聞きたがってるけど、学校での事を心配する親みたいだね。
「まぁ、概ね順調だったかな? ちょっと問題があったけど……」
「問題?」
「……キューをあまり多く持って行ってなかった事、かな。あ、ヒルダさん。エルサにキューをお願いできますか?」
「畏まりました」
「キューなのだわ!?」
キューが無くならなければ、まだ今頃ワイバーンの皮を剥ぎ取って、近くの場所で野営をしていた事だろう。
予定では6日くらいで帰る予定だったけど、それより2日早い。
まぁ、早い分には良い事かな……明日はエルサが運んで来たワイバーンの処理をしなくちゃいけないし。
そんな事を考えながら、姉さんに事情を説明しながら、ヒルダさんにキューをお願いしておく。
帰り道でも、エルサがキューを急かしてたからね……。
「キュー? キューってあの? よくここで、エルサちゃんがいっぱい食べてたのを見てるけど……」
「エルサはキューが大好物なんだよ。だから、キューが切れた事を知ったエルサが、早く帰るって言ってきかなかったんだ」
「へー、そうなのね。ドラゴンはキューが好き……か。……何か、歴史書に記される事になりそうだけど……」
「エルサ以外のドラゴンが、キューを好きかどうかはわからないけどね。俺が初めて会った時、エルサに食べさせて、それから気に入ったみたいだし」
そもそも、エルサ以外にドラゴンがいるのか知らないし、いたとしてもどれくらいいるかわからない。
ユノ曰く、神様の代わりにこの世界を見守る役目があるらしいけど……そう考えると、エルサは世界を飛び回らずに、俺にだけついていて良いだろうか?
契約者だから、一緒にいるんだろうけどね。
ドラゴンの事は、またいつかユノとエルサに聞いてみようと思う。
今は……長旅で疲れたのか、ユノはソファーに座ってうとうとしてるからね。
エルサは、キューを待ってソワソワしてるけど……どれだけキューが待ち遠しいんだ、この食いしん坊ドラゴンは。
「お待たせしました」
「キューだわ! キューが来たのだわ!」
「ありがとうございます、ヒルダさん。エルサ、落ち着いて食べるんだぞ?」
「わかってるのだわ! キューを大事に食べるのだわ!」
「……すごい食いつきね。それだけキューが好きって事なんだろうけど」
ヒルダさんが、大きなお皿に積まれたキューを持って来た事に、エルサがすぐに反応してテーブルに置かれた瞬間、俺の頭から離れてキューに飛びついた。
ヒルダさんにお礼を言いつつ、エルサを注意する。
すぐに全部食べ切ったら、夕食がはいらなくなりそうだしね……まぁ、今回の事で無くなってしまう事を恐れたのか、エルサは1本1本を大事そうに手で持って、少しづつ食べるようになってるけど。
姉さんの方は、エルサが食べる様子を物珍しそうに眺めながら呟く。
「早い時は、ここにあるキューを一瞬で食べるくらいの勢いがあるからね。まぁ、今は体が小さいから少しづつだけど」
「そうなのね……」
依頼の場所へ移動する間、一度だけ大きくなっているエルサにキューを食べさせてみた。
小さい体と違って、大きい体だと当然口も大きいから、キューの2,3本なんて一口だ。
しかも、大きいと食べられる量も多いのか、数本あげても全く満足してくれなかった。
……体の大きさに合わせて、食べる量を調節できるのは便利だな……それでも、俺達人間よりも多く食べるんだけどね。
大きい時にキューを食べさせたおかげで、持って行ったキューが無くなったのもあるしな……今度から気を付けよう。
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