第244話 エルフの紹介と依頼の報告
「エルフが長寿なのは、当然知っているけれど……二人は何年生きているの?」
「私は、今200と少しね……細かい数字は省略するわね」
「俺は316年だな」
「それだけ生きて、その若さ……羨ましいわ!」
フィリーナ達の年齢を聞いたマティルデさんは、突然二人に詰め寄って叫んだ。
……いやまぁ、人間がエルフと比べると短命で、老化が始まるのは早いっていうのはわかるけど……ねぇ?
「どうしたらその若さを保てるの!? 私にもできる?」
「いや、そう言われてもな……」
「そうねぇ。私達はエルフだし……貴女は人間でしょ? ……無理じゃない?」
「やっぱりそうなのね……」
人間だから、エルフのように長い間若さを保つ事はできない、というのは間違いない。
この世界に不老長寿とか、不老のための魔法や秘薬……といったものでも無い限り不可能だろうね。
落ち込んだ様子のマティルデさん。
どの世界でも、女性が若さを求めるのは変わらないんだなぁ。
「んんっ! ……ギルドマスター?」
「……おっと、話が逸れたわね。エルフの二人は、リク君が救ったエルフの集落から来たのね。遠い所をわざわざ……リク君への捧げ物?」
皮の選定を行っている男性職員とは違い、受付の女性が咳払いをして、マティルデさんを正気に戻す。
そのマティルデさんは、エルフの二人を見て俺への捧げ物とか……それはさすがに失礼では?
「そんな、この二人はそんなのじゃありません。ただ、俺に協力してくれてるだけです」
「あら、失礼したわ。エルフというと……あの老害……んんっ、長老達が頭をちらついてね。リク君との繋がりを持とうとするんじゃないかと、ね?」
「確かに、長老達は老害ね……この人が言ったように、若いエルフを供物のようにしようとしてたわ」
「そうだな。まぁ、リクがきっぱり断ってからは、何かに怯えるように引きこもってしまったが……」
俺がムッとして、マティルデさんに言う。
マティルデさんの方は、どうやらあの長老たちの事を知ってるみたいだ。
実際に会った事があるのかはわからないけど、統括ギルドマスターという役職に就いていると、そういう情報も入って来てもおかしくないね。
フィリーナとアルネは長老たちに対して辛辣だけど……俺もあの長老たちを庇う気にはなれない。
自分達以外、まるで物を扱うような感覚は、どうもね……しかし、どうして怯えてるんだろう?
「そうなのね? 長老達、もしかしてリク君を怒らせたとでも思ってるんじゃない?」
「ええ、リクに私達若いエルフを捧げる代わりに、自分達を守れって……勝手な事を言い出してたから……」
「リクが怒って断ったんだったな。あれで、リクを怒らせてしまう……つまり自分達の立場が危ういとでも思っているんだろう。……本当に危ういのは、その考え方で凝り固まってる事だとは理解せずに、な」
「ははは、あの時は、人間も同種族であるはずのエルフも物扱いだったからね。つい……」
「成る程ね……そんな事が。まぁ、エルフが他種族との交流を嫌う原因だったから、リク君が怒ってくれて助かるわ」
俺が怒ったから、それに怯えてとか……別に俺がこの先長老たちに直接、何かをするなんて事は無いんだけどなぁ。
自分達の事しか考えていないから、そういう事もわからないのかもしれないね。
「それと……あとはその……頭にくっ付いている……それがドラゴン?」
「はい、そうですよ。エルサ?」
「わかったのだわー」
「「飛んだ!?」」
エルサに声を掛けると、俺の頭から離れてふわふわしながら、テーブルに着地。
この姿で飛ぶとまでは考えていなかったのか、マティルデさんも受付の女性も驚いている。
「エルサなのだわ。ドラゴンなのだわー」
「……これがドラゴン……随分と可愛いけど、本当に? いえ、喋ったり飛んだりするだけで凄いのはわかるんだけど……」
「本当ですよ。この姿は、俺について来るために小さくなってるだけで、本来はもっと大きな姿ですから」
「大きな姿……?」
マティルデさんは、モフモフした小さなエルサの自己紹介に、半信半疑の様子だ。
ドラゴンと一緒にいる、というのは俺の情報として知っているんだろうけど、目の前にいるエルサの姿を見て、これがドラゴンだとは信じきれないようだ。
まぁ、俺も最初は犬かと思ったしなぁ……これよりもう少し大きかったけど。
何の情報も無く、このモフモフしたエルサが、ドラゴンだと一目でわかる人はいないのかもしれないね。
「大きくなるのだわ?」
「ここでは止めてくれ、建物が壊れるだろ?」
「大きくなれるのね? どのくらいの大きさかしら……?」
こんな所でエルサが大きくなったら、建物自体が壊れるし、その中にいる俺達も無事では済まないだろうからね。
さすがに、大きくなって見せようとするエルサを止めた。
マティルデさんは、どれくらい大きくなれるのかに興味があるようで、受付の女性と一緒に、テーブルに座っているエルサをマジマジと見ている。
「んー、そうですね……少なくとも、それなりの荷物を持った人を10人くらいは乗せられる大きさ、ですね」
今回、依頼をこなすためにエルサに乗ったのは、合計6人だけど、まだまだ余裕はありそうだったからね。
それに、ヘルサルの時の事を考えると、もっと大きくなれるようだけど、あれは特別と考えておこう。
エルサが大きくなればなる程に、魔力を消費して負担があるみたいだしね。
「そんなに……成る程、確かにそれなら先日のように魔物達が襲って来た時、リク君が空を飛んでワイバーンを駆逐した……というのも嘘じゃないわね」
「あぁ、そうですね。確かにあの時、俺はエルサに乗ってワイバーンと戦いましたから」
話だけ聞いてると、空を飛んで襲って来るワイバーンを、人間が同じく空を飛んで倒す……というのは中々信じられないだろう。
噂話って色々大きくなるものだから、実際に見ていなければ話が大きくなっただけ……と思っても仕方ないよね。
「ワイバーンの皮、確認出来ました! 全て良質な物です!」
「そう、わかったわ。ご苦労様」
マティルデさん達にエルサを紹介していると、男性職員達による、ワイバーンの皮の確認が終わったらしい。
皮をワゴンのような物に載せて、運び出して行く。
「Aランク依頼、達成ね。おめでとう、リク君」
「ありがとうございます。……それと」
「? まだ何かあるの?」
「いえ、もう一つ依頼を受けてまして」
ワイバーンの皮を取って来る依頼は、城を襲ったワイバーンから剥ぎ取れば良いと考えてたから、ほとんどついでのようなものだからね。
本命はキマイラ討伐だ。
「あぁ、そういえば……二つの依頼を受けてたんだったかしら。……この短期間で?」
「はい。キマイラを討伐して来ました。これが討伐証明部位です」
そう言って、マティルデさんにもわかるように、鞄から取り出した証明部位をテーブルに置く。
エルサは、自分の話が終わったからか、また俺の頭にドッキング。
「ふむ……確かに、これはキマイラで間違いないわね。……それにしても、この短期間でワイバーンの皮だけでなく、キマイラまで……移動だけでも時間がかかるはずなのに」
「そこは、エルサに乗せてもらって移動しましたから。馬より早く移動できますからね」
「ドラゴンに乗って……どれだけ早く移動できるかはわからないけど、リク君は本当に規格外ね……」
本当は、さらに別の……モニカさん達が受けた依頼へも行ったんだけど、それは言わなくて良いか。
あっちはあっちで、報告しているだろうしね。
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