第243話 納品のために中央冒険者ギルドへ



「ここからなら、なんとか日が沈み切る前には、帰る事ができそうだな」

「そうだね。暗くなる前に帰りたいね」


 日が傾き始めた頃だから、もう少しで夕方ってところだろう。

 あと数時間で完全に暗くなるから、それまでには王都に帰り着きたい。

 ……ワイバーンが飛ばされた場所を発ったのが、昼過ぎで、そこから出発したのに、まだ暗くなってないうちに王都近くまで来れるなんて……エルサはどれだけの速さで飛んだんだ? スピード計で一度計ってみたいな……。

 そんな事を考えながら、ワイバーンを隠した木々から離れ、王都を目指して歩き始めた。

 皆で手分けして持った荷物が、少しだけ重い……。


「リク、王都に着いてからなんだが」

「どうしたの、ソフィー?」

「私とモニカは、すぐに依頼を受けたギルドへ、報告に行こうと思ってな」

「そうね。報告は早い方が良いし……明日はまたワイバーンの皮を取らないといけないしね」

「成る程。わかったよ。それじゃあ、王都に着いたら俺も一緒に……」

「リクには、キマイラの報告と、ワイバーンの皮を納品する仕事があるだろう?」

「あぁ、そういえばそうだね」


 俺が依頼を受けたのは、中央ギルド。

 でも、モニカさん達が受けたのは別のギルドだ。

 王都にあるのだから、別々のギルドじゃなく、同じギルドに報告すれば良いと思うかもしれないが、出来る限り依頼を受けたギルドで報告をするのが鉄則だ。

 事情があって、そちらへ行けない場合は、別のギルドで報告する事を許されるみたいだけどね。

 ……確か、その時は連絡の手数料として、いくらか報酬が差し引かれるんだったっけ……なんだか、口座を作った銀行とは別の銀行で、お金を引き出そうとするときと似てるなぁ……なんてね。


「リク様! お早いお帰りで」

「ご苦労様です。予定より、ちょっと急いで帰ったんですよ」


 王都に入る時、見張りをしていた衛兵さんは俺の事を知っている様子だった。

 ……ほとんどの王都の兵士に知られてるのかな?

 まぁ、気にする事も無いか。

 衛兵さん達に挨拶をしつつ、王都へと入る。

 顔を知ってもらっているから、顔パス状態だ……最初に来た時は、冒険者カードなんかで身分確認をされたのになぁ。


「それじゃ、リクさん。私達は……」

「わかった。また明日」

「あぁ、またな。報酬は明日にでも渡す」

「うん。こっちも同じく、だね」


 城下町をある程度歩いたところで、モニカさんとソフィーさんは依頼の報告のため別れる。

 俺とフィリーナ、アルネ、ユノの4人でワイバーンの皮を持って、中央ギルドへ、だ。


「やっと着いたわね……」

「荷物いっぱいに持ってるからな……やはり重い」

「……動きづらいの」

「ははは、それをギルドに渡したら軽くなるよ」


 中央ギルドまで、何とか4人で荷物を運ぶ。

 モニカさんとソフィーさんが持っていた分もあるから、少し重い。

 特にエルフの二人は、力仕事に慣れていないのか、重そうに荷物を運んでいた。

 ユノに関しては……重そうではないんだけど、体が小さいため、荷物に埋もれる格好になっていて歩きづらそうだ。


「なんだぁ、あいつら……?」

「さぁな……しかし……珍しいな、エルフだ」

「噂に違わぬ美形だな……どうする?」

「そりゃ……決まってるだろ?」


 ギルドに入ってすぐ、俺達の耳に何やら話し声が聞こえて来た。

 そこには、ガラの悪そうな男達が、お酒の入ったジョッキを片手に俺達をニヤニヤしながら眺めていた。


「おい、お前ら……」

「止めときな? アンタらじゃ、軽くあしらわれて終わりだよ。怪我をしないよう、おとなしくしとくんだね」

「何だと!?」

「お、おい。止めとけ」

「……ギルドマスターだと?」

「あ、マティルデさん」

「リク、お帰り。早かったんだねぇ」


 男達が、俺達の方へ声を掛けようとした時、横から女性の声がして止めてくれた。

 声がした方を向くと、そこにはマティルデさんが腕を組んで、大きなお胸様を押し上げるような格好で立っていた。


「エルサが、早く帰るために頑張ったんですよ」

「……話には聞いていたけど……その頭にくっ付いてるのかい?」

「ええ、まぁ」


 あれ? そういえば、マティルデさんにはエルサの事を、紹介してなかったっけ……?

 いつもここに来る時は、エルサをくっつけてたはずなんだけど、特に何も言われなかったから、紹介するのを忘れてたようだ。


「随分大きな荷物だね……依頼を受けたのは知ってるけど、もしかして……?」

「はい、ワイバーンの皮です」


 どさりと、マティルデさんの前に荷物を一つ降ろし、中を開いて見せる。


「……ワイバーンだと……?」

「あんな奴らがワイバーンなんて……」

「おい、待て……今ギルドマスターがリクって言わなかったか?」

「確かに……もしかして、リクってあのリクか!?」

「どうやら、ろくでもない奴らにも、名前が知れ渡ってるようだよ? しかしこれは……こんなに大量に持って来たのかい?」

「ははは。まぁ、ワイバーンは先日倒して吹き飛ばしましたからね。そこに行って、皮を剥ぎ取るだけだったので、楽でしたよ?」


 横の方で何やら男達がざわざわしているけど、それには構わず、マティルデさんと話す。


「ギルドとしては大助かりだよ」

「……リク……そろそろ限界なんだけど」

「すまない、何処か荷物を降ろせる場所は……?」

「前が見えないのー」

「あ、そうだね。マティルデさん、話よりもまず、皮の納品を……」

「そうだね。そっちの方が良さそうだ。ついて来て」


 荷物が重く、限界が来たんだろう……フィリーナなんかは腕がプルプルしてるから、相当きつそうだ。

 マティルデさんに案内され、奥の部屋へと通されて、そこでようやく荷物を置いて一息つく事ができた。

 ギルドに入ってすぐ、荷物を降ろしても良かったんだろうけど、ワイバーンと聞いて目が怪しく光った人もいるように見えたからね……もしかすめ取られたりしたら、と考えると降ろせなかった。

 まぁ、目の前にマティルデさんがいて、それを見てるんだから、迂闊な行動をする人はいないかもしれないけど。


「随分な荷物だねぇ……おーい!」

「はーい」


 荷物を見ながら、マティルデさんが部屋の外に向かって声を出す。

 その声に、見知った受付の女性と、男性が数人入って来た。


「ワイバーンの皮を納品だよ。しっかり検品しな」

「「「はい!」」」


 ギルド職員の男性は、俺達の荷物を開き、皮を取り出して品定めを始める。

 受付の女性は、俺達にお茶を淹れて来てくれたみたいだ、ありがたい。


「はぁ……重かったわ」

「何とか一息、と言ったところだな。体を鍛えるには良さそうだが……」

「前が見えるの!」


 フィリーナとアルネは、荷物を持たなくて良くなったため、肩を回したりして体が軽くなった事を実感している。

 ユノの方は、前が見える事を喜んでいるようだけど……前が見えなくて、ここまでよく歩いて来れたなぁ。

 ……持たせたのは俺だけど。


「それで、そっちのエルフも初めてね。紹介してもらえる?」

「はい。えーと……」

「私はフィリーナよ。アテトリア王国南端にある、エルフの集落から来たの」

「同じく、エルフの集落から来たアルネだ。フィリーナとは兄妹となる」

「成る程……見た目からわかってた事だけど、エルフねぇ……」


 マティルデさんに、フィリーナとアルネを紹介し、それぞれ自分で名乗ってもらう。

 二人をマジマジと見ながら、何となく羨ましそうな視線……どうしたんだろう?


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