第242話 ワイバーンを運んで王都へ



「やっぱりリクに任せるのは間違いだったのだわ!」

「ごめん、ごめん。次はちゃんとやるから」

「……信じられないのだわ……」


 どうやら、鼻をぶつけた痛みで、俺の信用はゼロになってしまったらしい。

 まぁ、気分良く飛んでいて、いきなり目の前に壁を出現させられ、さらにそこに激突したら、エルサでなくても怒るか……俺には空を気持ちよく飛ぶ感覚はわからないけど。


「えーと、エルサが動くのに合わせて、結界も動くように……」

「……移動してる物と結界を線で繋げて、内側から結界を押すイメージなのだわ」

「お、ありがと、エルサ」


 怒りつつも、ちゃんとイメージを教えてくれるエルサ。

 成る程……内側から棒を突き出して、それで動かすイメージか。

 箱の中にある物が動いても、まず棒状にした物が先に当たるから、中にいる物がぶつかる事はないんだな。

 えーと、結界自体が風船のように動くようにイメージして……。


「……エルサちゃんとリクさんが、何を言ってるのか理解できないわね」

「私達とは、根本的に魔法の考え方が違うみたいだからな」

「イメージで魔法って、本当になんなのかしらね?」

「人間はもとより、エルフ達でも理解はできんだろうな……魔法の理から外れている」

「リクとエルサが特別なのよ!」


 イメージしてる最中、皆の声が聞こえて来たけど、そこまで理解できない事なのかな?

 まぁ、ドラゴンの魔法……という事だから、人間やエルフとは全く別物何だろうけど。

 そもそも、ユノが神様の時に作ったエルサ……ドラゴンだから、ユノが言う特別、というのも間違いじゃないのかもしれない。


「……イメージし直して、結界!」

「……今度は大丈夫なのだわ?」


 皆の話し声を聞きながら、イメージを固めて、再度結界を張り直す。

 さっきの結界は、二度目の発動と同時に消しておいた。

 二度目がうまくいっても、そっちが残ってたら、また激突するからね。


「大丈夫だと思う。エルサ、動いてみて?」

「……わかったのだわ……そ~なのだわ」


 先程結界にぶつけた鼻が、余程痛かったのか、エルサは空中で器用に手を前に出しながら、ゆっくり移動する。


「ぶつからないのだわ。これなら、大丈夫なのだわ?」

「大丈夫そうだね。それじゃ、改めて王都へ行こう」

「わかったのだわー」


 しばらく移動した後、何にもぶつからない事を確認したエルサは、安心した様子で王都へと再度、飛んで向かう。


「今度は、息苦しい事はないわね?」

「そうだな。いつも乗ってるのと変わらない感じだ」

「浮遊感は多少なりともあるから、やっぱりまだ慣れないけどね」

「だが、息ができないという事はないからな。それだけでも十分だ」

「風があまり感じられないの……」


 皆の方も、さっきと違い、風が遮断されて快適になった事で、安心したようだ。

 呼吸困難はつらいだろうからね……数分なら耐える事ができても、王都までは数時間かかる。

 その間ずっと苦しんでたら、王都に付く頃には疲労困憊だ……下手したら命が危ないからなぁ。


 ユノだけが残念そうだったけど、だからと言って結界を解いたりはしないからな?

 いつか暇な時にでも、結界が無くても大丈夫な俺と二人で、エルサに乗って風を楽しみながら空を楽しむ……というのも良いかもしれないな……。

 俺も、実はちょっとだけ、強く吹き付けて来る風が気持ち良かったからね。


「そろそろ王都ね……」

「遠目に城が見えて来たなぁ」

「……いつもより、飛ぶ速度が速いのではないか?」

「……かもね。エルサ?」

「どうしたのだわー?」

「いつもよりスピードが速い気がするんだけど、どうなんだ?」

「今回はリクの結界があるのだわ。だからいつもより速度を出しても、リク達に影響が少ないのだわー」

「そういう事か……」


 王城が薄っすらと遠くに見え始める頃、いつもより速度が出ていた事に気付いた。

 エルサに聞いてみると、俺が結界を張ったかららしいが……まぁ、飛びながらエルサが結界を張るよりは、しっかりした結界になるのは当然か。


 ワイバーンにも結界を使ってるから、全力じゃないんだろうけど、それでもいつもよりスピードが出ているため、今日はどこかで野営をして、明日の昼くらいに王都に到着する……と何となく考えていた予定も、前倒しになったようだね。

 ……それだけ、エルサが早くキューを食べたい、という現れなのかもしれない……いつものスピードも今も、流れて行く景色の速さに目が追いつかないから、気付かなかった。


「……リクさん、このまま王都に行くのは不味いんじゃない?」

「ん? どうして?」

「いえ……エルサちゃんはまだしも、大量のワイバーンを持って来てるし……」

「あぁ、そうかもしれないね……」


 エルサは、以前の魔物達の襲撃の時、一緒に戦ってるのを見てる人達もいるだろうから、王都の近くに降りて、誰かに見られても問題は少ない。

 全くないとは思わないけどね。

 でも、バラバラになったワイバーンを、大量に持って来てるのを見られたら、城下町の人達を驚かせてしまうかもしれないね。

 特に、見張りをしている兵士さん達とか……。


「それじゃ……そうだな、近くで隠せるような場所があると良いんだけど……」

「ワイバーンの皮は高価な物だからな……おかしな連中が接触して来る事も考えられる。かくして見つからないようにした方が良いだろうな」

「エルサ、もう少しスピードを落としてくれ」

「わかったのだわー」


 ワイバーンを隠すための場所を探すため、上空から辺りを見下ろしながら、スピードを落としてもらう。

 できれば、街道から離れた場所で、人に見つからない場所が良いんだけど……?


「あ、リクさん。あの辺りが良いんじゃない?」

「ん、どれどれ……? ……そうだね。あそこなら見つかりにくそうだね」


 モニカさんが見つけ、指を差し示した方角を見ると、そこは王都から離れ過ぎず、近過ぎずの場所で、さらに街道からも離れている。

 それなりに木々があって、目隠しになるから、何も知らずに近くを通っても見つかりそうにない……と思える場所になってるね。


「よし、エルサ。あの木がいくつかある場所に降りてくれ」

「わかったのだわー」


 エルサに指示を出して、モニカさんが見つけてくれた場所に向かう。


「ここなら、しばらくは見つからないかもしれないな。……あまり長い時間置いておけないだろうが……」

「そうだね。一度王都に戻って、明日にでもまた来よう」

「疲れたのだわー」


 ソフィーと話しながら、ワイバーンを木の陰に隠す。

 エルサが結界を解いたら、バラバラになって崩れたから、ちょっと大変だったけど……。

 そんなエルサは、結界でワイバーンを運びながら空を飛んだからなのか、疲れたと言って小さくなり、俺の頭へコネクト。

 魔力も使っただろうからね。


「エルサちゃん……まだ王都までは少しあるんだけど……?」

「疲れたから、もう飛べないのだわー。キューがないから飛べないのだわー」

「……エルサ」


 モニカさんが、王都までの距離を確かめながら、エルサに聞いても、俺から離れたり大きくなる気はないようだ。

 キューがないからって……ドラゴンらしい我が儘……なのかな?


「仕方ないわね。ここまで飛んで運んでもらっただけでも、ありがたいわ」

「だな。ここからは、歩いて行っても良いだろう」

「……はぁ……そうね。今度から、キューを絶やさないように気を付けないと」

「あはは、そうだね。俺ももう少し持って来てれば良かったよ」


 フィリーナとアルネは、歩いて王都に戻る事を提案。

 まぁ、エルフの二人は、まだエルサに乗って飛ぶことに慣れていないからだと思うけどね……。



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