第241話 キューを欲するエルサの強行



 フィリーナとアルネが、モニカさん達の意見に反対し、どうするのかを悩む事になった。

 皆、エルサのキューのために、そんなに真剣に悩まなくても良いと思うんだけどなぁ

 とりあえず今は、俺の頭にくっ付いているから、それをさらに上から押さえて、暴れないようにしてる。

 ……まぁ、もしエルサが大きくなってキューを求めて暴れたりしたら、地形が変わるくらい大きな事になってしまう……という考えも、もしかしたらあるのかもしれないけど。


「痛いのだわ、リク! 離すのだわ!」

「あ、こらエルサ!」


 押さえつけていたエルサが、もがいて俺の頭から離れる。

 すぐに体を大きくしたエルサ……何をする気だ?


「そんなにワイバーンが欲しいなら、全て持って行ければ良いのだわ! こうしてやるのだわ!」


 皆が急に大きくなったエルサに驚いているうちに、巨大な体をワイバーンが山積みになっている方へ向ける。

 そこへ向け、叫んだ瞬間、魔法を発動するのを感じた。


「エルサ!?」

「これで全て持って帰れるのだわ!」


 エルサがワイバーンに向けて発動した魔法は、結界。

 俺達が皮を剥ぎ取り、別の場所へ置いていた物以外を全て結界で包み込み、それを浮かばせる。


「結界……こんな使い方ができたのか……」

「これで、簡単に持って行く事ができるのだわ!」


 結界で浮かばせたワイバーンの塊……全て包み込まれているため、中は鞄に無理矢理詰め込まれたようになっている。

 それを浮かばせたうえで、こちらへ移動させて来たエルサ。

 ……結界は、外側と内側を隔てる壁を作る事で、外部からの攻撃全てを防ぐ物だとばかり、俺は考えていた。

 確かに以前、エルフの集落で使った時は、中から誰かが触れても、外へ突き抜ける事は無かったけども……。

 結界を動かしたり、部分的に薄くしたり穴を開けるなど、応用は効くのは知っていたから、目の前で行われたエルサの使い方も、見てみると納得できる。


「エルサちゃん……そんなにキューを求めて……」

「好きな物を求める欲求による行動……ドラゴンも人間も、本質は変わらないのかもしれないな」

「そんな、遠くを見る目で……」


 モニカさんとソフィーは、エルサの行動に対し、明後日の方を見て呟いている。

 何かを諦めたような、達観したような、そんな雰囲気だけど……エルサのやった事ってそこまでの事なのかな?


「魔法の応用ね。……もしかすると、エルサ様は私達エルフよりも、魔法の使い方を知っているのかもしれないわね」

「うむ。勉強になるな」


 エルフの二人の方は、エルサの行動を見て頷いているけど……ただキューが欲しいだけだから、褒められた行動には思えないのは俺だけなのかな……?


「カチカチなの!」

「ユノ、止めてなのだわ! せっかくの結界が壊れるのだわ!?」


 ユノが楽しそうに剣の先で、ワイバーンを包んでいる結界をツンツンして楽しそうだ。

 それを見てエルサが叫んだけど……結界ってそこまで簡単に壊れたりしないんじゃないだろうか?

 いやまぁ、ユノなら全力でやれば、剣で結界も斬れそうだけど。


「ユノ、いじるのは止めなさい。しかしエルサ、このまま飛べるのか?」

「問題無いのだわ。ちょっと魔力を多めに使うくらいなのだわ」


 ユノを止め、エルサに聞いたけど、問題無く飛べるらしい。

 俺が以前結界を使った時は、移動とかできそうに無かったんだけどなぁ。

 使い慣れてる事と、あの時の俺は、集落全体を覆っていたから、規模が大きすぎた……という事もあるのかもしれないね。


「仕方ない。それじゃあこのまま王都に戻って、そこで皮を剥ぎ取る事にしよう」

「……そうね。それが良いわね」

「これ以上、エルサのキューをお預けすると、他に被害が及ぶかもしれんな……」

「凄い魔力の流れね……これを近くで感じるだけでも、学ぶことがありそうだわ」

「複雑な事と、魔力そのものの規模が違うから、俺達が使えるとは思えんがな」

「ふわふわ浮いてるのー」

「全員、早く乗るのだわー」


 皆に声をかけ、エルサに乗って王都に帰る準備。

 手早く食事の後片付けを済ませ、エルサに急かされてその背中へと乗り込む。

 全員が乗った事を確認したエルサが、ワイバーンを包んだ結界と一緒に、ふわりと浮かび上がる。


「いつもよりちょっと、揺れるし風がきついのだわ。我慢するのだわー」

「え、ちょ?」


 エルサがそう声をかけて来た瞬間、俺がどういう事か聞き返す時間も無く、浮かび上がったエルサが王都のある南へ向かった。


「きゃあっ!」

「ぐっ……これは……きついな……」

「息が……ちょっと苦しいわね……」

「むっ……結構揺れるな……」

「あははは、いつもより風を感じて気持ち良いの!」

「……正面からの風が強いね」


 エルサがいつものような速度を出しているけど、いつもと違ってすごい風が襲って来る。

 揺れる事もあって、皆しっかりエルサのモフモフした毛に掴まっているんだけど、風のせいで呼吸が辛そうだ。

 平気な顔をしてるのは、俺とユノくらいなものだね。


「エルサ、いつもより風が強く感じるのは、何でなんだ?」

「結界を他に使ってるからなのだわー。今は私のまわりにいつも張っていた結界が、かなり薄くなっているのだわー」

「あぁ……だからか」


 ワイバーンに結界のリソースを割いているため、自分達……俺達を風圧から守る結界が、今は薄くなっている、という事だろうね。

 それならいつもより風が強い事も、揺れを感じる事も納得なんだけど……皆の方を見ると、呼吸が思うようにできなくて、かなり苦しそうだ。

 ……俺はユノと同じく、ちょっと強めだけど、風が気持ちいいくらいなんだけどなぁ。

 これも、ドラゴンと契約して、身体強度とやらが上がったからなのかもしれない。


「……仕方ないね。俺が代わりに結界を張るよ、エルサ」

「……大丈夫なのだわ?」

「心配しなくても、俺だって魔力の使い方に慣れて来たんだからな?」


 俺が結界を使う事に、心配そうな声を出すエルサ。

 俺だって、色んな戦いをしてきて、色んな魔法を使って魔力の扱い方に慣れて来たつもりだ。

 きっと大丈夫……なはず……実はそんなに自信ないけど。

 でも、皆の苦しそうな表情を見ていたら、このままにはしてられないからね。


 風圧が強いと呼吸が苦しくなる……というのは俺も経験がある。

 日本で、とある施設に行った時、強風や暴風の体験……という事で巨大な扇風機の前で風に立たされた事がある。

 あの時も、皆と同じようにうまく呼吸ができなくなって、苦しくなったからね。

 何でああなるのか俺にはわからないけど、このままだと皆、呼吸困難になって危険かもしれない。

 ……速度を出して飛ぶって、危険なんだなぁ……と今更の事を考えながら、結界の魔法をイメージ。


「……結界!」

「ぶべ!?」

「あ……」

「はぁ……息ができる……けど、エルサちゃんはどうしたの?」

「はぁ……ふぅ……リクが何かしたのか?」


 結界を、エルサの結界に包まれているワイバーンごと、全て包むように張り巡らせた。

 イメージは、俺達が入り込めるくらい大きな箱だね。

 しかしその瞬間、俺の張った結界にエルサが顔からぶち当たった。

 皆、結界を張った事と、エルサが止まった事で、呼吸が普通にできるようになったようだけど……エルサは……。


「痛いのだわ! 鼻が折れ曲がるかと思ったのだわ! 何をするのだわ!」

「すまん……エルサの動きに合わせて、結界を動かすのを忘れてた……」


 エルサは飛んでいるのだから、当然それに合わせて結界も動かさないといけない。

 ただ結界をその場に張っただけだと、飛んで進んでるエルサがそれに激突するのは当然だね。

 幸い、思いっきり鼻をぶつけたエルサは、墜落する事無く空に留まってるけど……これも俺の結界に包まれてるからか……エルサの大きな体が乗ってる感覚があった。

 ……重いとは考えないぞ? 後が怖いから。



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