第240話 皮の剥ぎ取りとキューの不足



「あそこなのだわ?」

「……あぁ、そうだな」

「上空からだと、よくわかるな……」

「ワイバーンの重量もあるんでしょうけど……」

「やっぱり、リクの魔法の威力のせい……よね?」

「そのようだな。空から墜落しただけでは、あんな事にはならないだろう」


 エルサが発見した場所、そこは山の山頂近くにあった。

 離れた場所からでも、その場所に何かがあったとわかるくらい、そこだけぽっかりと山の木々が無くなっていた。

 無くなってる、というよりも……あれはなぎ倒されてる……だね。


「あそこの近くに降りてくれ、エルサ」

「了解したのだわー」


 皆が話しているのを聞きながら、エルサに指示を出して近くに行ってもらう。

 近づいて見るとよくわかるけど、木がへし折れてたり、地面に穴が開いていたりと、結構な自然破壊になってしまっていた。

 ……今度からは、自然が少なそうな場所を目標にしようと思う。


「これはまた……大量だな」

「そうね……さすがに全部持って帰る事はできないでしょうけど」

「全て持って帰れたら、これだけでひと財産ね」

「まぁ、荷物には限界がある。持てるだけ持って行こう」

「大量、大量、なの!」


 エルサから降り、皆が目の前の惨状に唖然としながら、話している。

 そこには、バラバラのワイバーンが山積みにされていた。

 腕部分だったり、翼部分だったり、顔だけだったり……結構グロいね、これ。

 飛ばされている途中に、あらかた血を吹き出したのか、あまり血生臭くないのが救い……かな。

 それでも、多少は流れている血を避けながら、ワイバーンへと近づく。


「ワイバーンの皮は、どの部分でも良いが……できれば、胴体の背中と腹部分が良いそうだ」

「成る程、わかった。それじゃ、その部分を中心に皮を剥ぎ取ろう」

「これだけあるんだもの、腕や足からわざわざ剥ぐ必要は無さそうね」


 各自、刃渡り数十センチ程度のナイフを持ち、ワイバーンの胴体を探して、皮の剥ぎ取りに掛かる。

 全部持って帰るならまだしも、持てる皮にも制限があるから、贅沢に一番良い皮を選んでお持ち帰りだ。

 これが、ワイバーン1匹から……とかだったら、無駄にしないよう全ての皮を剥ぎ取るんだろうけどね。

 ちなみにナイフは、料理に使ったり、枝を切るために使ったりと、色々と用途があるから便利だね。

 この世界に来るまで、サバイバルはした事がなかったけど、1人1本持っておくと、こういう時も含めて何かと便利な事を知った。


「これだけ取っても、まだまだあるのね……」

「そうだな。……リクはどれだけのワイバーンを倒したのか……」

「本当、おかしい強さよね。普通なら、1体でも飛ばれるからかなり苦戦するはずなのに……」

「そもそも、CランクやDランクの寄せ集めじゃ、倒す事も難しい……と言われているはずだ」


 モニカさん、アルネ、フィリーナ、ソフィーと、ワイバーンの胴体を探し、皮を剥ぎ取りながらそれぞれ話してる。

 ……エルサが倒したワイバーンもいたし、最初は俺も剣で斬ってたから、本当はもっといたんだけどね。

 呆れられる可能性があるから、黙っておこう。


「あはははは、楽しいのー!」

「こら、ユノ。遊んでないで皮を剥ぎなさい」

「はーいなの」


 ユノがナイフでは無く、剣を鞘から抜いて、転がっているワイバーンの一部を、剣の腹で打ち上げ、落ちてくるまでに切り刻む……なんて遊びをしていた。

 ……死体蹴りならぬ、死体斬りは止めてあげなさい。

 注意すると、素直に皮を剥ぎ取り始めるユノ。

 その手にはナイフでは無く、いつもの剣が握られてるけど、そんな刃の長い物でも器用に……というか綺麗に皮を剥げるって……俺にはできそうにない。


「おーい、こっちはもう一杯だー!」

「わかったー! ソフィーはどうだー?」

「こっちもそろそろだー。あと1,2体分と言ったところだー」

「こちらはまだまだ余裕があるわー!」


 各自でそれぞれ皮を剥いでいると、当然持って帰るための荷物がいっぱいになって来る。

 アルネはもう限界、ソフィーさんはもう少し、モニカさんの方はまだ余裕があるようだね。

 俺ももう少し持てるから、まだ皮を剥ぎ取れるな。


「そろそろ、ちょっと休憩しましょう」

「そうだな」

「わかったー」

「お腹が空いたのだわ!」

「お腹が空いたの!」


 しばらく皮を剥ぐことに集中していると、モニカさんが皆に声をかけ、休憩となる。

 空を見上げたら、結構日が傾き始めてるから、昼を大分過ぎた頃合いか……。

 にわかに騒ぎ始める食いしん坊達、エルサとユノを宥めながら、ワイバーンが積まれている場所から離れ、食事の支度をする。

 ……さすがに、ごろごろとワイバーンの死体が転がってる場所で、食事をするのはね。


「あ……」

「どうしたのだわ?」


 頭にくっ付いてキューを要求するエルサをおとなしくさせようと、鞄を漁っていて気づく。


「すまない、エルサ。もうキューがこれしかないんだ……」

「1本だけなのだわ!? そんな……なのだわ……」 

「モニカさんの方は?」

「私の方はもうないわね。料理にも使ったし……」


 モニカさんに聞いても、キューはもう持っていないとの事。

 みるからに落ち込んだ様子のエルサだが……他の物が沢山あるんだからそっちを食べれば良いのに……と思わなくもない。

 好物は、そういう物とは違うのかもしれないけどね。


「由々しき事態なのだわ! キューを補給するために、一旦帰るのだわ!」

「待て待て、まだ目的が達成されてないだろ?」

「でも、キューが無いのだわ! 緊急事態なのだわ!」


 残り一本になったキューを、大事そうに抱え、ちびちびと齧っているエルサ。

 だが、エルサはキューが無い事を緊急事態と言い、すぐにでも帰りたい様子だ。


「まだ荷物には余裕があるから……もう少し皮を取らないと」

「そんな事関係無いのだわ! すぐにでも帰るべきなのだわ!」

「……ギルドへの納品は、今取った皮でも良いだろうけど、陛下からのお願いがあるわよね?」

「うん。姉さんから頼まれた分も考えると、余分にワイバーンの皮を持って帰らないと」

「キューが! キューが無くなったのだわ!」


 ギルドに依頼された皮は、十分以上に取れているけど、姉さんにも頼まれたからね。

 日頃国のために働いている姉さんの頼みだ、できるだけ多くの皮を持ち帰りたい。

 最後だからと、ちびちびと食べていたキューがついになくなり、さらに騒ぎだすエルサ。

 ……どうしたもんかな。


「リクさんだけ、先にエルサちゃんに乗って帰る? 往復する間に、私達がワイバーンの皮をできるだけ剥いでおくから」

「そうだな。先にリクが一旦荷物を持ち帰り、またここに来れば多くの皮を持ち帰る事ができるだろう」

「でも、俺だけ帰るのはなぁ……」


 皆に作業を任せて帰る、というのも一つの案だとは思うけど……皆に任せるだけ任せて……というのに気が引けてしまう。


「私は、あまり賛成できないわねぇ……。ワイバーンの死体は、魔力を帯びてる事が多いから、魔物を呼び寄せる可能性があるわ」

「……そうだな。今の所、寄って来た魔物はいないが、リクがいない間に、強力な魔物が来たら……」

「それは……確かにそうね。私達だけで戦える魔物なら良いけど、敵わない相手だと……」

「こことは違うが、キマイラも出たばかりだしな……こちらにいないとも言い切れん」



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