第239話 次の目的地の前に野営で一泊



「これと……これも……っと。アルネ、フィリーナ、そろそろこの辺りで良いかな?」

「そうだな。これくらいあれば、明日の朝までもつだろう」

「こっちも大丈夫よ。綺麗な水だから、ある程度確保できたわ」


 木陰で薪代わりの枝を拾い、アルネ達に確認する。

 俺もアルネも、両手いっぱいに太目の枝を持ってるから、焚き火には困らないだろう。

 これもあるから、木の近くで休憩するのは楽だね。

 燃料が無い現地調達の場合、枝とかが落ちて無いと、焚き火をするのも一苦労だろうしなぁ……燃やしやすそうな枝を選んでくれる、エルフがいるのもありがたい。

 ……俺、この世界に来て本当なら地味に苦労するような事を、皆に助けてもらってるな、感謝しないと。


「リク、どうした?」

「いや、なんでもないよ」


 特に意味のない事をつらつらと考えていると、アルネに声を掛けられた。

 どうやらボーっとしてしまっていたみたいだ。

 アルネと二人、テント設営していた場所へ戻り、火をおこす。

 フィリーナは飲み水確保の他に、モニカさんが料理するために必要な水を確保、川と野営場所とを往復してた。

 ソフィーとユノは、二人がかりで男女別のテントを設営、モニカさんは食材の下ごしらえだ……と言っても、食材が限られてるから、大層な事はできないみたいだけど。


「さぁ、できたわよー」


 モニカさんの言葉で、皆が焚き火のもとへと集まる。

 モニカさんの作った、具沢山のスープと、温めて食べやすくした携帯食、それと……。


「これは?」

「それはね、モジャラの肉よ。毛を剥いで、中の肉を焼くと美味しく食べられるの。……毛が多くて、手間が少しかかるし、採れる肉もあまり多くないんだけどね」


 モニカさんはいつの間にか、村の森で戦ったモジャラから肉を取っていたようだ。

 以前は魔物の肉を食べる事に、少し躊躇していたけど、今は大分慣れた。

 村の人達がモジャラから取った肉を扱っていたのか、それともモニカさんが戦った時密かに取っていたのかわからないけど、美味しいというなら、ありがたく頂こうと思う。

 こういう時、携帯食ばかりになりがちだから、しっかりしたお肉を食べられるのは嬉しいからね。

 ……しばらく食べてない、獅子亭の料理もそろそろ恋しくなって来たなぁ……今ヘルサルに戻って食べに行くと、マックスさんから「もう戻って来たのか! 根性が無いな!」とか言われて叩き出されそうだけど。


「モジャラは初めて食べたが、こんなに美味しかったのか……」

「あまり知られてないのよねぇ。毛に覆われてるから、面倒で肉を取らない事も多いみたいだし……」

「旅をする者の中に、料理ができる人物がいると言うのは良いな。食事が豊かになる」

「……それ、料理が苦手な私に対する当てつけ?」

「……フィリーナ、料理できなかったんだ」

「おいしいの!」

「キューと一緒に食べるとなお良し! なのだわ」


 皆それぞれ、焼かれたモジャラの肉を食べて満足そうだ。

 俺ももちろんそうだけど、アルネの言葉に少し引っかかった。

 以前、エルフの集落に行った時、フィリーナが大量に料理を持ってきたりしてたけど……フィリーナ自身が料理してるわけじゃなかったんだな……。


「おやすみなさい」

「おやすみ、だ」

「「「おやすみー」」」

「おやすみなのー」

「おやすみなのだわ」


 野営の準備と料理、その後の食事が終わる頃には、辺りはすっかり暗くなり、そろそろ寝る時間になって来た。。

 見張り当番を決めて、各自がテントへ行きながら、挨拶をする。

 今日の見張り当番の最初は、俺とエルサだ。

 ユノはモニカさんに連れられて一緒にテントで寝るようだ。


「前はアルネ達が多く見張りをしてくれたから、今回は、俺が一番多く見張らないとな」

「暇なのだわ。寝てるから、何かあったら起こすのだわー」


 今回は、昨日魔物達と戦った疲れも残ってるかも、という事で、俺が一番見張りの時間を多くしてある。

 前と同じようにアルネとフィリーナが、見張りを多くやると言ってくれたのだけど、今回は俺が押し切った形だ。

 昨日、俺は戦ってないから、あまり疲れてないしね。


「寝ちゃったか……エルサ」


 ぼんやりと焚き火を眺めながら、エルサとのひと時……と思ったが、早々に俺の頭にくっ付いたまま寝てしまった。

 一人になると、焚き火にくべた枝が燃える音以外、ほとんど何も聞こえなくなる。

 風の音や、木の葉が揺れ、川が流れる音くらいだ。

 考えてみると、こうして外で一人になる事って、あまりなかったなぁ……エルサが頭にくっ付いてるけど。


 思い出されるのは、エルサと出会う前のセンテの森での事。

 あの時はエルサを助けに行く事しか考えていなかったから、よく考えてなかったけど、今考えると結構危ない事をしてたんだなぁ、と思う。

 今みたいに、風に揺れる葉音とか、川の水が流れる音なんて、聞く余裕も無かったしね。


「でも、やっぱり一人は寂しい……」


 話し相手になってくれると思っていたエルサは、もう既に夢の中。

 こんな事なら、ユノも一緒に見張りを……と考えたけど、ユノもすぐ睡魔に負けて寝そうだ……。


「ま、仕方ないか。のんびりしながら、ゆっくりと見張りをしよう」


 そう考えて、ぼんやり焚き火を眺め続ける。

 何故かはわからないけど、こういうのを見ているだけでも、落ち着けるよね。

 いつまででも見られそうだ。



「おはよう」

「おはよう、リク」

「リクさん、おはよう」


 翌朝、途中でアルネ達と見張りを交代し、テントの中でゆっくり休んで早朝。

 ……結局あれから何も無かったし、エルサはずっと寝たままだったな……焚き火を見てたら時間を忘れられたから、良いんだけど。

 朝の支度をし、出発の準備を整える。

 今回は川が近いから、タオルで体を拭いたり、顔を洗ったりできるから便利だね。

 今度から、木陰と川がある場所をできるだけ探すようにしよう……見つからない場合もあるだろうけど。


「それじゃ、行こうか。エルサ、頼んだ」

「わかったのだわー」


 朝食を頂き、野営の片付けを終えて、大きくなったエルサの背中へ。

 朝食に関して、もう決まったかのようにモニカさんが担当になっている。

 まぁ、一番料理ができるのがモニカさんだけ、という事もあるんだけどね。

 かといって、任せっきりは良くないから、俺もできる事は手伝ったりしている。

 料理を楽しそうにするモニカさん、いつもありがとうございます。


「ここからどうするのだわ?」

「えーと、確かあの時は……あぁ、そうだ。少しだけ西に行ってくれ」


 山に近付き、エルサに指示を出す。

 一緒にワイバーンが飛んで行くところを見ていたはずだけど、エルサはどこに飛んだかをあまり覚えていないようだ。

 もしかすると、俺の魔法から身を守るのに、精一杯だったのかもしれない……。


「すまない、エルサ。もう少し東だ……そう、そこ。よし、もう少し北に行ってくれ」

「わかったのだわー」

「結構、高い場所に飛ばしたんだな」

「そうだね。人のいる所に落とさないように……って考えてたから」


 エルサに細かい指示を出しながら、ワイバーンを飛ばした場所へと向かう。

 結構高く飛んでくれてるから、山の上り坂も関係なく移動できるがありがたい。

 ふと、ソフィーがエルサの背中から、地上を見下ろしながら言う。

 あの時は、余裕が無かったわけじゃないけど、とにかく地上で戦ってる兵士さん達や、モニカさん達の所も含め、人に被害が出ないように考えるだけだったからね。

 まさか自分でそれを回収する事になるとは……あの時はそんな事考えてなかったからなぁ。


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