第238話 魔物討伐の依頼終了



「ええ、そうね」

「自分達を成長させないといけない……という焦りがあったのかもしれないな。パーティメンバーを頼るのも、立派な冒険者だ」

「そうそう。じゃあ、そういうわけで、探査の魔法を使うよ?」

「お願いね」

「ああ」


 王都を出発する時より、少しだけ表情が柔らかくなった二人が頷き、俺は瞬間の集中と一緒に、探査魔法を発動させた。

 この魔法も、エルフの集落で散々使ってたから、慣れて来たなぁ。

 森に魔力を広げて魔物の位置を探りながら、ちらりと見たモニカさん達は、肩の荷を下ろしたような安心した顔になっていた。

 ……もしかすると、俺だけAランクになって、自分達はまだCランクという事に、何か重荷のような物を感じてしまっていたのかもしれない。



「こっちね……やっぱりリクさんの探査魔法は便利だわ」

「そうね。さすがに森の事がわかるエルフでも、ここまで詳しく調べられないわ」


 探査魔法で調べた結果を皆に教え、残った魔物を倒すために森へ入る。

 エルフの集落の時と同じで、離れた場所に点在していたため、二手に別れての行動だ。

 俺と一緒なのは、エルサとモニカさんにフィリーナ。

 もう片方は、ユノとソフィーにアルネの組み合わせだ。


「はぁ! せい!」

「カッター!」


 二人が前に立ち、魔物を倒す様子を見る。

 昨日と違って数は少ないし、魔物も弱い魔物ばかりだ。

 特に危なげなく、二人が魔物を倒して、俺達の担当場所を回り終える。


「さて、それじゃあ村に戻ろうか?」

「そうね」

「あっちは村に近い場所だったから、先に帰ってるでしょうね」


 残っていた魔物を全て倒し、村へと帰る。

 村の入り口では、様子を見に出ていたテオルさんと、村人数人、それとソフィー達がいた。


「ただいま。森の魔物は全て倒して来たよ」

「おかえり、リク」

「お帰りなの!」

「おぉ、おぉ、なんとお礼を言って良いのか……!」


 皆に近付きながら言った言葉に、集まっていた村人数人と、テオルさんから歓声があがる。

 弱い魔物と言っても、戦える人が少ない村にとっては、十分脅威だったんだろう。

 昨日戦った数がいるのであれば、尚更だね。


「一応、森の中にはもう魔物はいませんが、もしまた魔物が大量に出るようなら……」

「わかっております。また王都の冒険者ギルドへ依頼させて頂きます」

「はい、お願いします」

「その時は、また貴女方に受けて頂ければ幸いですな」

「ふふ、それは私達が依頼を見つける事ができれば、ですね」


 テオルさんは何度も感謝しながら、次もし依頼を出すようなら、また俺達に受けて欲しいと思ってるんだろう。

 指名依頼は、普通の依頼報酬に加えて特別報酬も必要らしいから、小さな村からは難しいかもしれないけど、もしまた、この村からの依頼をタイミング良く見つける事ができたら、また受けたいね。


「それでは、お世話になりました」

「いえいえ、それはこちらの方です。本当に、ありがとうございました」


 昼過ぎ、村を出発する俺達を見送りに、結構な村人達が集まって来ていた。

 代表して前に出てるテオルさんに、お礼を言う。

 泊まる場所や食事を用意してくれたからね。

 それなりに美味しいと言っても、やっぱり味気ない携帯食を食べる事に比べたら、村の素朴な料理は本当にありがたい。


 テオルさんからもお礼を言われながら、皆で挨拶して、村を離れる。

 この村に来た時通った道を引き返し、周囲の木々が少なくなり、森が林になった辺りで止まる。


「ここなら、村の人達に見られそうにないかな?」

「そうね。木々もあるし……村に向かって飛ばなければ大丈夫だと思うわ」


 念のため、木の陰に隠れてエルサに大きくなってもらい、荷物と一緒に背中へ乗り込む。


「それじゃあ、次はワイバーンの所だ。エルサ、頼む」

「わかったのだわー」


 翼を出したエルサが、浮かび上がって行く。

 ……相変わらず、綺麗な翼だなぁ……ワイバーンの爬虫類っぽい翼よりもこっちの方が好きだな、モフモフだし。


「どっちに行くのだわ?」

「そうね……リクさん、ワイバーンは王都から北の山に飛ばしたのよね?」

「うん、そうだよ」

「それなら……とりあえず、このまま東の王都がある方へ行ってちょうだい」

「わかったのだわー」


 モニカさんの指示で、まずは東へ向かうエルサ。

 いつも通り、空中遊泳をしながら、しばらく進む。


「リクさん、ワイバーンの場所だけれど……」

「どうしたの、モニカさん?」

「ワイバーンが飛ばされて行く時、私達は地上で戦ってたでしょ? だから、あまり詳しい場所を知らないの。リクさんからは、北の山って言われたから、大体の場所はわかるけど……」

「そうか、それもそうだね。それじゃあ、山に向かう時は俺がエルサに指示を出すよ」

「お願いね」


 俺がワイバーンと戦った時は、エルサに乗って飛んだまま、姉さんと一緒に乗っていた。

 地上では、押し寄せる魔物を相手にモニカさん達は戦っていたんだし、戦闘に夢中でどこに飛んで行ったのか見えて無かったんだろう。

 大体の方角はわかっても、詳しい場所までは、ね。

 空から見ていた俺達と、地上から見ていたモニカさん達では見え方が違うのは当然だ。


「ここらへんなのだわ?」

「そうね……あの山がああで、あの街道が……」


 結構な時間、東へと空を飛び進めた後、エルサが速度を落として現在地をモニカさんと相談。

 モニカさんは、地図と睨めっこしながら、空から見える景色を見渡して、今いる位置を確認している。


「エルサちゃん、もう少しこのまま進んで……そう、その辺りね」

「わかったのだわー」


 エルサに指示を出し、位置の微調整をする。

 多分、北に行くために、まずは王都から真っ直ぐ北の位置へとエルサを誘導しているんだろう。

 そうする事で、ワイバーンの所へ俺が指示を出すのもやりやすくするつもりなのかもね。


「エルサちゃん、ストップ。この辺りが王都から真っ直ぐ北ね。リクさん、後はお願いね」

「わかった。それじゃエルサ、このまま方向を変えて、まずは北に向かってくれ。エルサも見てた、ワイバーンが飛んで行った場所に行くぞ?」

「リクがバラバラにして、吹き飛ばしたあのワイバーンだわ。わかったのだわー」


 エルサはあの時、俺と一緒にワイバーンを見ていたから、細かい位置も知っているかもしれない。

 俺達より目が良いようだから、それを頼るのも良いかもね。


「日が暮れて来たな……そろそろ降りよう。あそこの木陰が良いな」

「わかったのだわー」


 大分日も暮れて、薄暗く成って来た頃、野営のためにエルサが降りる場所を指示する。

 あそこなら、近くに川もあるし、水には困らないだろうしね。

 魔物と戦った村で、水なんかの消耗品は少し補給したから、まだ大丈夫だけど、こういうのはできるだけ消費いないように気を付けておきたい。

 あるかわからないけど、もしもの場合に備えて、ね。


「さて、野営の準備をしようか」

「そうね」

「テントは任せろ。リクとモニカは食事の用意を」

「……まだ足が不安定に感じるわ」

「多少慣れては来たが、これだけ長時間空を飛んでるとな……」

「食事なのー」

「キューはもちろんあるのだわ?」


 地上に降り立ったエルサから降り、荷物も降ろして野営の準備に入る。

 補給したとはいえ、王都を出発した時よりも荷物は少なくなって来てる。

 やっぱり、水や食料ってかさばるんだな。

 俺の頭にドッキングしながら、聞いて来るエルサには残念なお報せだけど、そろそろ持って来たキューの在庫が心もとない。

 ……少しおやつにあげるキューを減らさないと、帰るまでになくなりそうだ。



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