第237話 リクの剣は改造不可



「掛かっている魔法は……鋭剣と頑剣……? 珍しいな、魔法で攻撃をするわけじゃないのか……だが……」

「二つの魔法が掛かってるのよね……? これ、この魔力効率だと……」

「あぁ、人間が扱える剣ではないな。……それどころか、エルフにも扱えるかどうか……」


 アルネとフィリーナが険しい顔で、置かれた俺の剣を観察してる。

 モニカさん達の時とは違い、何やら話しながら悩んでいる様子だ。


「リク、この剣はどこで手に入れたんだ?」

「えっと、ヘルサルの武具店で……」


 剣を買った場所を聞かれた俺は、ヘルサルの武具店、イルミナさんの店で買った事をアルネに教える。


「ふむ……おそらくこの剣は、エルフの……それも相当腕の立つ魔法技術を持った者が作ったのだろう」


 そういえば、この剣を買う時イルミナさんが、エルフが作った物だって言ってたね。

 高名とは言ってたのに、名前を聞いてなかった……イルミナさんが知ってるかどうかは、わからないけど。


「本来一つの道具には、魔法は一つに限られる。だが、この剣は二つだ」

「魔力が複雑に絡み合っているわ。正直……私達じゃどうにもできないわね」

「そんなに凄い物なのか?」

「あぁ。これを作ったエルフは、相当な技術を持っていたんだろうな。二つの魔法を掛け、さらに二つが干渉をしてしまわないよう調整されている。この技術、今のエルフには……無いかもしれんな」

「そんなに凄いの?」


 アルネが険しい顔で説明する内容に、モニカさんが疑問の声を上げた。

 この剣を作ったエルフは、今も生きているのはわからないが、アルネやフィリーナが知っているエルフではないようだ。

 まぁ、エルフが集まって住んでいる場所は、アテトリア王国以外にもあるだろうから、どこか別の所に住んでいるのかもしれないね。

 長寿という事を考えて、今も生きているとしたら、だけど。


「本来、一つの道具に二つ以上の魔法を掛けると、互いが干渉しあってしまうんだ。……良くて効果が無くなる。悪い場合だと、道具ごとドカンッ! だ」

「そんな事が……」

「……う?」

「ごめんね、ユノちゃん。寝てて良いからね?」


 無理やり二つ以上の魔法を、一つの物に重ねてしまうと、そんな事になってしまうのか……。

 アルネが大きな声を出した事で、ほとんど寝ていたユノが体をビクッとさせて起きかけたが、フィリーナが頭を撫でながらもう一度寝かせる。

 ……良いんだけど、できれば部屋に戻ってベッドでゆっくり寝た方がいいのになぁ。


「……すまない。まぁ、とにかくだ、通常では魔法を二つ以上掛けることは出来ないという事だな」

「じゃあ、なんでその剣は二つ掛かってるの?」

「そこがこの剣を作ったエルフの凄いところだな。互いの魔法を干渉させないよう、複雑な経路を作って、交わらないようにしてある。……その分、魔力の浪費が激しいがな……」

「そうね。もしこの剣を、本気で人間が使ったら最悪、数秒から数分で魔力枯渇を起こす事になるわね」

「そんなに……?」

「あぁ。我々エルフのような、元々の魔力量が多い者でも、1時間持つかどうか……どう考えても、戦闘に使える物じゃないな」


 アルネとフィリーナが、俺の剣について色々説明してくれる。

 ……そこまで凄い物だったんだ……イルミナさんの店で、よく考えずに買った物なんだけどなぁ。

 俺の魔力量なら大丈夫だろうと、気軽に考えてた事だからね。


「すまないがリク、俺にはこの剣をいじる事はできない」

「気にしないで良いよ、アルネ。もしかしたらできるかも……というだけだったし。それに、知らなかった事がわかったからね」

「やっぱり、これを普通の剣のように使えるリクって、どこかおかしいわよね……?」

「まぁ……今更だな」

「ええ、そうね。リクさんの魔力量がおかしいのは、今までの事でわかってた事だしね」


 むぅ……俺の魔力量が多いという事は、今までの魔法使用や、ユノの説明で知ってた事だけど……おかしいと言われる程のものかな?

 いや、まぁ……エルフどころかドラゴンのエルサよりも多い……という時点で、普通じゃないのはわかるけどね。



「それじゃあ、また明日」

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみ」

「今日は魔法もかなり使ったし、疲れたわ。おやすみー」

「おやすみ、だな」

「おやすみなのー」

「おやすみなのだわ」


 全員で挨拶をして、それぞれの部屋へと戻る。

 部屋割りは、俺とユノとエルサ、モニカさんとソフィー、兄妹のアルネとフィリーナで3室だ。

 アルネは俺の剣を見た事で、研究心がくすぐられたらしく、ブツブツ言いながら部屋へと戻って行った。

 それと、椅子に座って寝ていたユノは、眠い目を擦りながら、エルサと一緒に皆へ挨拶して、俺と一緒に部屋へ。


 部屋へ戻ってすぐ、エルサを抱いたままベッドへ入り込み、すぐに寝息を立て始めた。

 ……ちょっと下敷きになってるエルサが苦しそうだけど、ユノは軽いから大丈夫だろう。

 寝入ったユノを余所に、お湯にタオルを浸して体を拭く。

 さすがに、ここには大きなお風呂とかないからね。

 体を綺麗にした後は、ユノとエルサの寝ているベッドへ入り、就寝した。



―――――――――――――――――――――



 翌日、諸々の準備を終えて、宿の外へ集合。


「森の魔物は、どれだけ残ってるのかしらね?」

「そうだな……昨日あれだけ倒したんだ。あまり多くは残っていないと思うが……」

「……森の広範囲に広がっているみたいね。まとまっている数じゃないから、詳しい場所の特定は難しいわ」

「そうなのね……」


 モニカさん達が顔を突き合わせて、森に残っている魔物の事を相談している。

 今回は、全部モニカさんに任せているから、俺はほとんど見ているだけだ。

 ……ちょっと疎外感があるから、少しくらいは何かしたいんだけどなぁ。


「仕方ないわ。時間も多く取れないし……村の人達を危険にさらしておくのはね……」

「そうだな。早く村の脅威を取り除かないと、住んでいる人達は落ち着かないだろうからな」

「そうね……えっと……リクさん?」

「ん? どうしたの?」


 相談しているモニカさん達を見ながら、少しだけボーっとしていた俺に、モニカさんが声を掛けて来る。

 ……もしかして、俺ができる事があるのかな?


「今回は、できるだけ私達だけの力でこなしたかったんだけど……ごめんなさい、探査の魔法を使って欲しいの」

「探査の魔法? それくらいなら全然大丈夫だよ。それに、俺はモニカさん達と一緒のパーティなんだから、謝る必要はないんだよ?」

「そうか……そうだな」

「……そうね。私達、リクさんに頼らず全部自分達でやろうとしてたわ。依頼をこなして、早く成長しないと……リクさんに置いて行かれそうで……」

「ははは、俺が皆を置いて行く事なんてしないよ。パーティなんだから、一緒に依頼をこなして行こう?」


 モニカさん達は、もしかしたら俺が先にAランクになった事で、焦ってしまっているのかもしれない。

 ソフィーは俺が冒険者になるよりも前に、モニカさんは俺と一緒に冒険者になった。

 そこから、俺はすぐにCランクからBランクへ……そして先日のAランク昇格だ。

 モニカさんも、初期のDランクからCランクには上がったけど、俺に置いて行かれるなんて勘違いをしていたのかもしれないね。


 俺が、皆を置いて行く事なんてあり得ないのに。

 せっかく、皆と一緒にいるのが楽しいのに、置いて行ったりするもんか……というか置いてどこに行けば良いのかもわからないくらいだ。



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