第236話 魔法具改造



「ふむ……成る程ね……どう、アルネ?」

「ちょっと待ってくれ、今詳しく調べているところだ。……ここがこうで、こっちが……」


 皆で宿に落ち着いて、各自の割り当てられた部屋に荷物を置いて、改めて皆で集合。

 集合した場所は、宿の中にある食堂のような場所。

 センテにあった宿のように、食べ物屋が隣接してそこで……というわけではなく、ただ広めの部屋にテーブルと椅子をいくつか用意しただけの場所だ。

 そこに、宿の主人が作った料理を持って来てもらって、夕食となった。


 今は、夕食に満足しつつ、モニカさんとソフィーがアルネとフィリーナに武器を預けて、魔法具の研究中だ。

 料理は素朴な味で、王都の料理とかと比べてしまうとどうしても見劣りするけど、心を込めて作ったのがわかる物だった。

 野営をした時に食べる、携帯食よりは、よっぽどおいしかったからね、満足だ。

 一部、エルサがキューを要求してうるさかったけど、そこは持って来ていた少しのキューと、王都に帰ったらたらふく食べさせると約束して、事なきを得た。


「そうか……ここが……こっちもこうして……」

「……ちょっと、緊張するわね」

「自分の命を預ける武器だからな。どうなるのか気になるのは当然だな」

「任せて。色々と効率の悪い部分があったようだから、もっと良くなるのは間違いないわ」


 モニカさんとソフィーは、それぞれの武器を見て、緊張している様子。

 アルネは、二人から借りた武器を、何やら柄や鍔、剣身を指でなぞっている。

 微弱な魔力を感じるから、魔法具としての仕組みを色々見たり弄ったりしているんだろう。

 しかし、調べる所までは一緒だったのに、弄るのは全てアルネ任せなんだな、フィリーナ……。

 それで何故、そこまで自信があるように胸を張るのか。


「よし、できたぞ。わりと古い魔法式だったからな、解析に手間取ったが……効率の悪かった部分を直したから、効果は上がってるはずだ」

「本当!? ありがとう、アルネ!」 

「そうか、助かる。ありがとう」

「どう変わったの?」

「リクも、興味あるの?」

「まぁね。俺に魔法具をいじるのはできないだろうけど、武器がどう変わったのか、興味があるよ」


 男の子だもの。

 武器が強くなったりって、やっぱりワクワクするよね。


「ははは、リクは強力な魔法が使えるからな。魔法具をいじる必要はないだろう」

「そうね」


 アルネが笑って、フィリーナが頷いている。

 まぁ、餅は餅屋……って言葉があるように、こういうのは専門家に任せた方が良いよね。


「それで、この槍はどう変わったの?」

「こっちの剣もだ」

「あぁ、説明が必要だな。……モニカの槍は、魔力の広がりが何かに引っかかって不十分だったからな、それを取り除いた。これで、発動した魔法は、より広範囲に広げられるようになるだろう。もちろん、威力も多少増しているはずだ」

「そうなのね……ありがとう!」


「ソフィーの剣は、魔力の変換効率が悪くてな……。それを改善した。これで今までより少ない魔力で、発動させる事ができるはずだ。モニカと違って、ソフィーの方は保有魔力が少なそうだったからな、発動回数を上げる事を重要視したんだが……どうだ?」

「それは助かる! 私は魔法が使えないが、代わりに魔法具で補おうと考えているからな。発動回数が少ないのは悩みだったんだが……それが改善されるとは……」


 モニカさんは、範囲と威力。

 ソフィーは、発動回数ってところか。

 モニカさんの方は、マリーさんに習った魔法が使えるはずだから、それと織り交ぜて使うことで、色々な戦闘方法が模索できそうだ。

 ソフィーの方は、少ない発動回数を、どの場面でどう使うか……と考えるのが難しそうだったけど、これで多少はやりやすくなったと思う。


「それと、ソフィーの方も威力は上がってるぞ? ほんの少し、だがな。……例えば、今まで人間相手に使うと、足の下部分までしか凍らせる事ができなかったはずだ。今は足の甲から足首くらいまでは、凍らせる事ができるはずだ」

「威力まで! 本当に助かる。ありがとう、アルネ!」

「なぁに、俺も久しぶりに魔法具を見られて楽しかったからな。お互い様だ」


 どうやらソフィーの方も、魔法の威力は上がっていたみたいだね。

 足の下部分から、足の甲や足首まで……というのは、微々たる変化かと思うかもしれないけど、それだけで敵の足止めの時間が数秒は変わる。

 その時間は、一瞬一瞬が大事な戦闘において、大きな影響だからね。


「久々に魔法具を見れて、楽しかったわぁ」

「そうだな。また色々と研究してみたくなった」


 エルフだからか、魔法に関する事を調べたり見たりする事が、楽しいみたいだ。

 それなら、だけど……。


「アルネ、フィリーナ?」

「どうしたの、リク?」

「何だ?」

「もし良かったら、俺の剣も見てくれるかな?」

「え? リクの剣って魔法具だったの?」

「剣から魔法を使っているようには見えなかったが……そもそも、リク自身が強力な魔法を使うから、魔法具の魔法は必要ないだろう?」

「まぁ、そうなんだけどね。でも、この剣は攻撃や牽制のために、魔法を発動させる剣じゃないんだ」


 剣の説明をしながら、今までアルネがモニカさん達の武器を見ていたテーブルの上に、腰に下げていた剣を置く。

 集落に行った時に使っていた剣と違って、今使っている剣は黒く、大きい。

 槍程長くはないけど、分厚い剣身で、重さは倍以上あるだろう。

 ドンと重そうな音を立てて置かれた剣に、アルネとフィリーナはすぐに目を見張って釘付けになった。


「これは……黒い剣……? いや、魔法で黒くなってしまっているのか……?」

「ちょっと待って……本来一つの武器、剣身に魔法は一つのはずよ? でも、これって……」


 二人は完全に俺が持っていた剣に夢中になって、周りの声が聞こえなくなている様子。

 王都にいる時も、この剣で戦ってたんだけど、エルフの二人は気付いてなかったみたいだね。

 まぁ、あの時は大量の魔物と戦うことに必死だったから、仕方ないのかもしれない。

 他の場面では、剣を抜く事なんてないから、鞘に入ってる状態で、剣に掛かっている魔法を見るのは不可能だろうしね。

 キマイラと戦った時は、離れて避難してたしなぁ。


「この剣……剣身が厚過ぎない?」

「そうだな……剣としての鋭さを殺している。リクの使い方から、丈夫さを重視したんだろうが……これでキマイラをあっさり斬っていたのか……信じられんな」

「まぁ、斬れたのは魔法のおかげなんだけどね?」


 モニカさんとソフィーも、俺が持っていた剣を見て信じられないという顔をしているけど……二人にはイルミナさんの店で買った時に説明したと思うんだけどなぁ。

 ……あれ? してなかったっけ?

 えーと……。


 ……あぁ、そうだ! あの時イルミナさんの店から帰ってきて、マックスさんには説明したけど、皆がいる所では説明してなかった!

 でも、あの時確か、モニカさんも一緒にいたはずだけど……マリーさんの特訓のあとだったから、疲れ果ててあまり聞いてなかったのかもしれない。

 あの時の事を思い出して、マックスさん以外に詳しく説明していなかった事を思い出した。

 ユノは一緒にイルミナさんの店に行ったから、知っているんだろうけど、今は満腹で眠気に襲われたのか、椅子に座って、同じく眠そうなエルサを抱いてうとうとしている。

 ……ぬいぐるみを抱いて寝ようとしている子供みたいで、ちょっと可愛い……見た目は確かに子供なんだけどね。



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