第235話 エルフ二人の提案
「随分長く戦ってたけど、大丈夫?」
「そうね……ここまで長い戦いは初めてね」
「なんとか、大丈夫だ」
体感でしかないが、戦っていた時間は3時間以上になると思う。
その間中、ずっと魔物への警戒をし続けて、体を動かし続ける……というのは、相当疲れる事だろうと思う。
アルネとフィリーナも、魔法を使い続けてたから、そろそろ魔力も危なそうだ。
「でも、良い経験にはなったわ」
「途中でリクが出て来ようとした時は、焦ったがな」
「いや、皆疲れて来てたからね……」
「あの時はごめんなさい、思わず叫んでしまって」
「気にしてないから、大丈夫だよ。最初に手出しは無用と言われてたのに、出て来ようとした俺が悪いんだしね」
モニカさん達が疲れて来て、動きが鈍って来たら危ないかも……と考えてだったんだけど、その必要は無かったみたいだ。
魔法具もあるし、もう少し皆を信じて待ってあげるべきだったと思う。
「でも、リクさんが見ててくれたおかげで、良い経験になったわ」
「そうだな。魔物自体は弱いが……これだけ戦い続けた経験は、無駄にならないだろう」
「それなら良かった」
今回の依頼は、モニカさんとソフィーの成長のため、という事だったから、成果があるような俺も嬉しい。
弱い魔物相手とはいえ、戦い続ける事で持久力も鍛えられるだろうし、戦闘でのペース配分も学べる。
最後は、魔法具に頼っていたけど、それだってちゃんと使えるのは持ち主の実力だ。
「魔法具の剣と槍、役に立ってたね?」
「そうね。ヘルサルで買っていて良かったわ」
「これが無ければ、まだ戦い続けてただろうな。下手をするとスタミナ切れで、危険に陥ってたかもしれん」
俺がそう言うと、二人は自分の持っている武器を誇らし気に持ち上げた。
命を預けることになる武器だから、良い物だと自分の事のように嬉しいのはわかる。
俺も、ヘルサルで買った剣が、凄い切れ味で驚いたけど、その分良い買い物をしたと嬉しかったのも確かだしね。
「そういえば、集落にいた時とは違う武器だな」
「王都で戦ってた時もそれだったわよね?」
「ええ。集落からヘルサルに帰った後、装備を新調する事になってね。その時に買ったの」
「リクの戦いを見ていたからな。剣や槍をただ使うだけじゃなく、魔法を織り交ぜて戦えたら……と考えたんだ」
「成る程ね、それで魔法具なのね」
「威力はリク程でなくとも、相手を牽制したり、今回のように群がって来る魔物相手には有効だな……」
考えてみれば、モニカさんとソフィーが武器を変えたのは、集落から帰った後だから、フィリーナ達が見覚えなくて当然だね。
モニカさんとソフィーは、自分達の武器に関して、エルフの二人に説明している。
エルフは魔法に造詣が深いから、二人の話を感心した様子で聞いているみたいだ。
「ふむ……そうね。モニカ、ソフィー。その武器……私達に預けてみない?」
「どうしたの、フィリーナ?」
「預ける……とは? この武器が無いと戦いが……」
「あぁ、ずっと預けるとか、取り上げるとかじゃないから安心して。どういう仕組みで魔法が組み込まれているのか、見るだけだから」
二人に魔法具となっている武器の話を聞いた後、何事かを考えていたフィリーナが、二人の武器に興味を持ったようだ。
「でも……」
「しかしな……」
「安心して、壊したりはしないから」
「それは心配してないんだけど……」
「私とアルネ……特にアルネね。魔法具に詳しいの。もしかしたら、もっと効率の良い魔法運用ができるかもしれないわよ?」
「本当?」
「そうなのか?」
「あぁ、まぁな。俺は元々、実戦で魔法を使うよりも、魔法の研究を集落ではしていたんだ。その成果を売るために、人間達の村や街に行く事が多かったがな」
アルネは実戦向きではなく、研究向きとの事だ。
エルフは、人間より魔法に対して造詣が深いから、人間が使う魔法の呪文なんかも、エルフが作ってるって話だったか……。
魔法具もほとんどエルフが作ってる物、という事だからね。
フィリーナやアルネに見せて、もし効果が上がるようにできるのなら、見せる価値はあると思う。
「でも……」
「さすがに今はな……」
「どうしたの?」
フィリーナからの提案に、モニカさんとソフィーは難色を示す。
まぁ、俺も今はどうかと思うんだけどね。
「ここにいる時にはさすがにね。いつまた他の魔物が襲って来るかわからないし……」
「そうだな。全ての魔物がいなくなった、というわけでもないだろう。もし武器を預けて、その後に魔物が襲ってきたりしたらな……」
「そうね。リクさんやユノちゃんがいるから、酷い事にはならないだろうけど、さすがにちょっと危険ね」
「あぁ、そうね。そういえば……。忘れてたわ、ごめんなさい」
「見るとしても、主に俺が担当する事なのに、何故フィリーナがそんなに興味を示しているんだ……?」
モニカさとソフィーの言う通り、今はまだ魔物と戦っていた森の中。
というか、さっきから休憩をしていて一切移動してないからね。
今の所、魔物が出てくるような気配はないけど、いつ襲って来ても不思議じゃない場所。
武器を預けて見てもらうのは、今じゃなくて、せめて村に帰ってからか、依頼を全てこなして王都に帰ってからが良いと思う。
「話してるうちに、結構休憩できたわね。そろそろ村に戻りましょう?」
「そうだな。報告もしないといけないしな。村の人達は魔物に怯えていたんだ、私達の報告を待っているだろう」
「そうね。それじゃ、落ち着いたら武器を見せてもらうわ」
「ええ」
「ああ」
「それじゃ、村に行こうか」
話しているうちに、皆息も整ったようだ。
さすがに、疲労が完全に抜けたわけじゃないだろうけどね。
俺が皆に声をかけ、来た道を戻って村へと向かった。
「おぉ、本当ですか!?」
「ええ。集まっていた森の魔物は、大半を討伐しました」
村に戻り、代表のテオルさんに魔物を討伐した事の報告。
ここもまた、モニカさんが担当している。
本来なら、パーティリーダーの俺が担当するべきなんだろうけど、今回はモニカさん達がメインの依頼だからね。
……俺も、依頼者と話したり、報告したりしたかったなぁ……。
「ですが、全て……というわけではありません。森が広いので……」
「それはそうですね。私達も、まさか1日で多くの魔物を討伐されるとは思っていませんでした。優秀な冒険者さんなんですね」
テオルさんから褒められるけど、今回は森が得意なエルフがいた事が大きいと思う。
まぁ、俺の探査魔法でも良かったんだけどね。
「ですので、森の魔物がまだどれだけいるのか……明日までこの村に滞在して、様子を見てみようと思います」
「おぉ、それは私共も歓迎するところです! まさかそこまで考えて下さるとは……。是非、今夜の宿も用意させて下さい!」
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
「いえいえ、村全体に関わる事ですからね。戦って下さる冒険者さん達は、丁重に歓迎しませんと!」
明日まで様子を見て、魔物が問題ない数まで減っているのかを調べる必要がある。
だからモニカさんは、今日この村に泊まって様子を見るつもりなんだろう。
最初から、今回の予定に入っていたからね。
……もし、村に泊まる場所が無ければ、適当な近場で野営しようと考えていたし。
結局、テオルさんの押しに負けて、この村で唯一の宿屋に皆無料で泊まる事になってしまった。
料金を払うと言っても、テオルさんを始め、宿の人達にも笑って断られてしまった……村を助けてくれる冒険者さんだから、と。
歓迎の証なんだろうけど、ちょっと気が引けるね……。
そうこうしながら、今日は村へと泊まる事になった。
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