第234話 魔法具発動



「はぁ……はぁ……」

「さすがに……はぁ……疲れて来たな……」

「そうね……魔法も結構使ったし……」

「王都での戦いよりは……マシ……だが……」


 4人共、息を荒くしながらも戦い続ける。

 戦い始めて、大体2時間くらいが経った頃だろうか。

 その間、ずっと休むことなく襲い掛かって来る魔物を相手に、気を緩める事なく戦い続けるのは、身体的にも、精神的にも疲れると思う。

 冒険者ギルト側は、こんなに魔物がいるとまでは、さすがに把握していなかったと思うけど、この量の魔物を相手にするとなると、確かにCランク以上の依頼になるのも無理はないね。


「……まだ出て来る……のっ!」

「まだまだいるようだ……ブレイド!」

「終わるような気配はない……なっ!」

「そうね……カッター!」


 荒い息を吐き、話しながらも迫って来る魔物を倒す4人。

 ……えーと。


「手助けした方が、良いかな?」

「皆辛そうなの。助けるの!」


 ユノに呟くと、あちらはやる気満々のようだ。

 皆が辛そうにしているのがわかって、助けたくなってるだろう、俺もそうだしね。


「……モニカさん、ソフィー、手助けを……」

「大丈夫よ! リクさんは後ろで見てて!」

「そうだ! これは私達の戦いだ!」

「……わかった」


 手助けをしようと声を掛けたら、モニカさんとソフィーには強い口調で止められた。

 辛そうには見えるけど、まだ戦えるようで、限界ではないようだ。

 もしかすると、王都に行く前のヘルサルでの特訓のおかげかもしれない。


「リクさんにばかり……ふっ! 戦わせてたら……はぁ!」

「何のための……パーティなの……かっ! わからない……からなっ!」

「私達は、パーティじゃないけど……カッター! それでも、リクにばかり良い恰好はさせないわ……カッターダブル!」

「そうだな……ブレイド! リクには敵わないが、俺達だって……戦えるん、だ……ブレイドトリプル!」


 4人は、俺が声を掛けたことで、さっきまでより真剣に魔物を倒し始めた。

 さっきも真剣だったけど、今は弱い魔物と侮る事を止め、王都での戦いと同じように強い魔物と戦うような雰囲気だ。

 ……多分、これなら大丈夫……かな?

 もし、誰かが怪我を負ったり、危ない事になれば、即座に助けるつもりだけど。


「……しつこいわね! はぁ! はい! たぁ!」


 モニカさんが頭上から飛びかかって来るエアーラットを、槍を横に振って2体叩き落す。

 さらに手元に槍を引いて重なってた2体をまとめて貫き、もう1体を穂先にエアーラットを付けたまま、横に振って一緒に地面へ叩き付けて潰す。


「こっちもいるのか……ブレイド! ブレイド! ブレイドトリプル!」


 アルネの方は、背後からモニカさんに襲い掛かって来ていたエアーラットの処理だ。

 1体、2体と不可視の魔法で突き刺した後、3体をまとめて風の魔法で真っ二つに斬った。


「もう……まだいるのね。カッター! カッターダブル! カッターダブル!」


 フィリーナは木の幹や地面に擬態しているモジャラを担当。

 擬態して見えにくい相手を、ソフィーが見逃してしまわないように、不可視の刃で1体を排除。

 その後、地面の2体、ソフィーの左右にある木にそれぞれ不可視の刃を放って、真っ二つにする。


「援護助かる! リーチは短いが、こちらの方が切れ味が良いん……だっ! はぁ! ふん!」


 ソフィーはフィリーナに例を言いつつ、並んでいたコボルトの体を2体同時に切断。

 その後ろから襲い掛かって来た、ウルフのお腹に剣を突き刺し、そのまま別のコボルトに剣を振って突き刺さったウルフを飛ばす。


「ソフィー、このままじゃ埒が明かないわ!」

「仕方ない……この程度の魔物に使いたくは無かったが……」

「数が多過ぎるわ! 使わないとこっちが疲弊するだけよ?」

「わかった」

「……お?」


 何か狙いがあるのかモニカさんはソフィーに声を掛け、仕方なくそれに頷くソフィー。

 どうやら、コボルトやエアーラットといった、低ランクの魔物相手には使いたくなかった事みたいだけど、何か奥の手とかがあるのかな?


「アルネ、フィリーナ! しばらくエアーラットは任せたわ!」

「何か考えがあるのね。わかったわ」

「了解だ!」

「剣よ! 奴らを凍らせろ!」


 モニカさんがアルネとフィリーナに声を掛け、それを了承した事で、しばらく頭上から来るエアーラットは、魔法で処理される。

 その後、ソフィーが剣を顔の前に持って来て、力を込めながら叫んだ。


「おぉ!」


 ソフィーが叫んだ瞬間、剣から放たれた魔力……魔法により、コボルトやウルフを始めとした、地面に足を付けている魔物の足先が凍る。

 凍らされた魔物は、足を動かそうとしてもがいている。

 思わず声が出てしまった……。


「今だ、モニカ!」

「ええ! お願いね……炎よ! ついでにこれも……フレイム!」


 今度はソフィーがモニカさんに声を掛け、モニカが頷く。

 自分の持っていた槍を魔物達に向けたまま体を制止させ、足が凍ってすぐには動けない魔物達へ叫ぶ。


「おぉー!」


 こっちも思わず声が出てしまった俺。

 モニカさんが叫んだ直後、槍の穂先から炎が迸り、動けない魔物達を焼き始める。

 さらに、それだけでは足りないと思ったのか、モニカさんが追加で火の魔法を発動。

 ……多分、これはマリーさんとの厳しい特訓の成果だろうね。


「「「GIGYAAAA!」」」 


 悲鳴を上げて焼かれて行く魔物達。

 さっきより、余程魔物を倒す速度が速く、数も巻き込めるているようだ。


「よし、いけるわね」

「これくらいの魔物相手なら、当然だろうな」

「やるわね……こっちも負けてられないわ、アルネ。……カッター!」

「そうだな。ブレイド!」


 モニカさんんとソフィーが魔法具の武器と魔法を使い、魔物達を殲滅し始めたのを見て、ソフィーとアルネも奮起。

 二人で頭上から来るエアーラットを漏らさず処理している。

 ……チームワークもできてるし、これなら、任せていても大丈夫かな?


「俺達が行かなくても、大丈夫そうだな」

「……戦いたかったの」

「ユノはキマイラの時、存分に戦っただろ? 今回は我慢だ」

「仕方ないの」


 この調子なら、俺が手助けをする必要はなさそうだ。

 最初の頃よりも、魔物が奥から出て来る数が減って来てるから……そろそろ打ち止めになると思うしね。

 俺は戦えなくて軽く拗ねるユノの頭を撫でながら、安心してモニカさん達の戦いを見ている事にした。


「はぁ……ぜぇ……はぁ……」

「終わった……か……はぁ……はぁ……」

「そう……みたい……ね……ふぅ……」

「さすがに……そろそろ……魔力も……限界だ……はぁ……」


 森の奥から魔物が出て来なくなって少し、4人は乱れた呼吸を整えながら、まだ辺りの警戒をしている。


「……もう……来ないみたい……ね……はぁ……」

「そう……だな……」

「終わった……のね……?」

「みたい……だ……」


 しばらく警戒して、魔物が出て来ない事を確認した4人は、終わりを確信したようで、警戒を解いて地面に座り込んだ。


「終わったー!」

「今回はさすがに疲れた!」

「はー、あんなにいるなんてねー!」

「集落の時程では無いが、それでも多かったな!」


 座り込んでそれぞれが声を上げる。

 皆の顔は、やり遂げた満足感で笑顔だ。


「皆、お疲れ様!」

「リクさん、ありがとう」

「すまない、助かる」

「あぁ、生き返るわぁ」

「ん……はぁ……助かった」


 俺は、疲れて座り込んでいる皆に、荷物の中から取り出したタオルと水筒を渡す。

 皆汗だくだから、汗を拭いて水分補給をしないとね。



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