第247話 運んだワイバーンの皮を剥ぐ作業



「ここです」

「ほぉ、ここが……話には聞いていたが、少々多過ぎでは無いか?」

「まぁ、本当は全部持ってくるつもりは無かったんですけどね」

「いや、それはその分素材が手に入るから、助かるのだが……」


 木々の陰に隠されているワイバーンの体を見て、ヴェンツェルさんは少し驚いたみたいだ。

 新兵さん達も、これだけの量があるとは知らなかったのか、驚いて……と言うよりも、ちょっと引いてるみたいだ……大量の魔物の死骸を見慣れて無いからかな?

 そういえば、ヴェンツェルさんは魔物達が襲撃して来た時、バルテルの策謀で動けなくなってたんだっけ。

 襲って来たワイバーンを実際に見ておらず、話に聞いただけだったから、これ程の量だとは思わなかったのかもしれない。

 ……これでも、3分の2くらいに減ってるんだけどね。


「さて、始めますか。ヴェンツェルさん、よろしくお願いします」

「……わかった。この量に驚いてばかりもいかんな。おい! 教えた通り、ワイバーンの皮を剥ぐぞ。2人1組だ、もし少しでもわからない事があれば、すぐに私に聞け。適当に扱って、素材の質を落とすわけにはいかんからな」

「「「はっ!」」」

「それじゃあ、私達も開始ね」

「単調な作業だが、しっかりこなさないとな」

「今日は、胴体以外からも皮を剥ぎ取って良いのよね?」

「あぁ、腕や足、顔も全て持って来ているからな」

「剥ぎ取るのー」


 モニカさん達もそれぞれ話しながら、ワイバーンが転がっている場所へ向かい、皮の剥ぎ取りを始める。

 俺も早速始めるとするか……新兵さん達は、ヴェンツェルさんが見てくれるみたいだからね。


「これだけあると、さすがにすぐには終わらんな……全てリク殿が倒したと聞いたが?」

「そうですね、すぐにとはさすがに。はい、俺が魔法を使ってバラバラにし、北の山へ吹き飛ばしました」

「……どれだけの魔法を使えば、それができるのか想像がつかんな……。後学のために、見ておきたかった」


 ひたすらワイバーンの皮を剥ぎ取っていたら、新兵さん達の様子を見ながらヴェンツェルさんが話しかけて来た。

 ヴェンツェルさんはあの時戦えない状態だったから、俺の魔法も見てないんだよね。

 別に、そこまで見て楽しい物でも無いと思うけどなぁ


「しかしこれは……皮を剥ぎ取った後の処理も大変そうだな……」

「……そうですね」


 そういえば、皮を取った後に残った部分をどうするのか一切考えて無かった。

 王都に近い場所だから、このまま放っておいて腐らせてしまうのはいけないだろうし……。

 王都付近で異臭騒ぎは避けたい。

 ……北の山に置いて来たのは……仕方ないか。


「燃やしますか?」

「それも一つの手だとは思うが……それだと、大きな火が必要では無いか?」

「まぁ、そうなんですけど……俺が魔法を使うので大丈夫ですよ」

「リク殿の魔法か! それは是非見てみたいな! 新兵達も良い刺激になるだろう! ……穴を掘って埋めるより、手間もかから無さそうだしな」

「わかりました。それじゃ、皮を剥ぎ取り終わったワイバーンは、一つの場所に固めておいて下さい」

「了解した!」


 ヴェンツェルさんにそう伝えて、俺はその場を離れる。

 皆にも、燃やして処理する事を伝えないといけないからね。


「わかったわ、できるだけ一つの場所に集めるようにするわね」

「了解だ。しかし……燃やした後はどうするのだ?」

「それこそ、穴を掘って埋めれば良いんじゃない? 燃やした後なら、量も少なくなって手間も少ないでしょ?」

「幸い、近くに植物も多い。良い栄養になってくれるだろう」

「わかったの。皆と一緒に運ぶの」


 モニカさん達にも伝え、皮の無いワイバーンは一つの場所へと運ぶ事を了承してもらった。

 モニカさん達も、残った部分の処理をどうするか疑問に思ってたみたいだね。


 ワイバーンの数は大量だ……それこそ、一つにまとめたら先日戦ったボスキマイラよりも大分大きくなる。

 元々が人間より大きなワイバーンだからね、皮を剥ぎ取ったくらいじゃ小さくならない。

 それを燃やそうとするなら、焚き火程度の火じゃとても今日中に終わりそうにない。

 けど、俺にはボスキマイラの時に使った魔法があるからね……確か、召喚魔法の一種なんだっけ?


「リク、お腹が空いたのだわ! キューを要求するのだわ!」

「……もうそんな時間か。結構集中してたな……わかった。皆、休憩しよう!」

「わかったわ」


 エルサがお腹が空いたと主張して来たので、皮を剥ぎ取る手を止め、空を見上げる。

 少し日が傾き始めた頃合いで、昼も結構過ぎてたみたいだ。

 このまま集中しようにも、お腹が減ったら効率が落ちるだろうからね、しっかり休憩しないとと思い、皆にも声をかけた。


「ヴェンツェルさん、俺達は少し休憩させてもらいますが、そちらはどうしますか?」

「そうだな……そろそろ良い頃合いか。わかった、こちらは交代で休憩を取らせよう」


 ヴェンツェルさんにも休憩する事を伝え、俺達は少し離れた場所で固まって休憩を取る。

 新兵さん達は、交代で休憩との事で、完全に手を止めることはないみたいだ。


「キューだわぁ、今日もちゃんとキューがあるのだわー」

「そりゃ、ちゃんと持って来たからな。……持って来ないとエルサがうるさいし」

「これで持ってこなかったら、また帰るとか言い出したんでしょうね?」

「だろうね。王都に近いから、一旦町へ行って、買い込んで来る事もできるだろうけど……」


 今日は簡単に携帯食を各々用意し、それを食べている。

 エルサはキューにしか興味が無いらしく、目の前に置かれたキューを夢中で齧ってる。

 ……ヒルダさんに用意してもらっていて良かった。

 一旦城下町へ帰って、どこかの店で食事をしてまたここに……というのでも良かったんだけど、往復する時間がもったいないからね。


「閣下、交代で休息を取り終えました」

「そうか。では引き続き作業に戻れ」

「はっ!」

「あちらも、休憩が終わったようだな」

「そうだね。それじゃこっちも再開しよう」


 新兵さんの一人がヴェンツェルさんに報告するのが聞こえ、俺達も休憩を終えるために片づけを始めた。

 あっちは交代でだけど、こっちは全員休んでたからちょっと休み過ぎかな?

 とも思ったけど、ヴェンツェルさんは何も言わなかったし、特に問題はないんだろう……今日中に全部処理できれば良いだろうしね。

 それはともかく、ヴェンツェルさんだけ一人新兵さん達と離れて休憩を取ってたけど……やっぱり新兵さんにとって、将軍というのは恐れ多くて近寄りがたいのかな? こっちにヴェンツェルさんを呼べばよかったか。


「さて、またワイバーンの皮を剥ぎ取りましょうか」

「うん、数も少なくなって来たから、もう少しだ。頑張ろう」

「そうだな」

「同じ作業の繰り返しは疲れるけど、頑張るわ」

「これも、経験と捉えよう」

「頑張るの」

「満足だわー。食後の休憩なのだわー」


 モニカさんの言葉で、片付けを終えた皆がワイバーンに向かって動き出す。

 皆やる気を出して頑張ろうとしてる中、エルサだけは食事休憩の後に休憩とばかりに、俺の頭にくっ付いて満足げだ。

 ……大量にキューを食べたから、お腹が重くなるのも仕方ないと思うけど、やっぱり暢気だねエルサは。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る