第231話 エルフの二人と会話
翌日、日が昇ったあたりで起き出してテントを出る。
ユノはまだ寝袋に入って寝たままで、エルサは俺と一緒に付いて来ている。
「おはよう、アルネ、フィリーナ」
「ふわぁ~。おはようだわ」
「おはよう、リク」
「早いな。おはようリク」
テントから出てすぐの場所で、火の番をしているエルフ二人に挨拶をする。
エルサも、以前は俺以外に挨拶することは無かったけど、最近は挨拶くらいはするようになった。
皆に慣れて来たという事なのかな?
最初の見張り当番から順に交代し、最後の明け方から朝までの時間はまたアルネとフィリーナが見張りだった。
本当は3組に分けて、夜から深夜、深夜から明け方、明け方から朝に分けようとしたんだけど、アルネとフィリーナが2回担当する事で、俺達の見張り時間を減らしてくれた。
曰く、無理を言って付いて来ているだけだから、これくらいは協力させて欲しい、戦闘では後ろから魔法を使うくらいだから、多少寝不足になっても問題ない、との事。
魔法も集中力が必要だから、しっかり休んで欲しかったんだけど、二人はそう言ってきかなかったため、甘える事にした。
おかげで、俺もモニカさん達もしっかり休めたと思う……まだ俺以外起きて来ないけど。
「問題は?」
「特になかったな」
「静かな朝だったわね。人が通る事も無し、魔物が襲って来る事も無し」
「キマイラがいた場所だからな。皆警戒して近づいて来ないのだろう」
見張りをしていた間に何かあったか聞くと、何も無かったようだ。
昨日までキマイラがここにいたから、魔物達は近づいて来ないだろうし、人もコルネリウスさん達のような例外を除いては、ここにいる事が知られているのだから、わざわざ危険に近付いてこようとはしないだろう。
まぁ、夜だったから、そんな時間に街道を通る人も少ないのもあるかもね。
「それにしても、二人はエルフの集落に帰らなくてもいいのか?」
「何だ急に」
「まぁ、ふと思ったんだよ。それに、今まであまりこの三人で話す事なんてなかっただろ?」
「それは確かにな」
「そうねぇ。モニカだったりソフィーだったり、ユノちゃんだったり……リクの周りには常に誰かがいたものね」
別に誰かが近くにいても問題は無いと思うんだけど、何となく他の人がいないこの状況でふと思いついたからね。
王都に来てから数日、アルネ達は王都まで来るのにも時間を掛けてるから、集落を離れてから結構経つはずだ。
それなのに、帰る様子もなく、俺達の冒険者依頼に付いて来るなんて事をしている。
集落からあまり出ないという、俺の勝手なイメージのエルフとは違うからね。
「そうだなぁ、エヴァルトからもそうなんだが、俺達は集落の外に出て見聞を広めて来る……というのも一つの目的だからな」
「もちろん、リクの勲章授与を祝うという目的もあるわ。けど、エルフの集落は人との交流が希薄よ。だから、集落を出て、色々な物や人を見る……という事が大事なの」
「そうなんだ。じゃあ、王都に来て良かったんだね」
「あぁ。見る物のほとんどが集落にいたら見られなかった物ばかりだな」
「代わりに、王都の人達も珍しいエルフを見て来るけどね。……獣人は普通にいるのに、エルフだからってそこまで珍しいのかしら?」
「それは二人がエルフだからじゃないかな? エルフじゃない人から見れば、街中にエルフがいるのはやっぱり珍しいと思うからね」
エルフの集落に行くまでは、エルフを街中で見かける事なんて無かった。
獣人は確かにちらほらと見かけたけどね。
それと、珍しいのと二人はエルフだからなのか、はっきりと目を引く美形だから、というのもあるかもしれない。
街中で美男美女が歩いてたら目を引くからね。
「そういうものかしら。確かに私達にとって自分もそうだし、今まで生活して来た場所も考えると、エルフなんて珍しくもないのだけどね」
「私達からすると、人間を見るのが珍しい、という感覚と同じなんだろうな。ある程度は仕方ないか」
「そうだね」
「おはよー」
「良い朝だ。おはよう」
「モニカさん、ソフィー。おはよう」
「おはようなのだわ」
アルネやフィリーナと話していると、モニカさんとソフィーが起きて来た。
そろそろ次の目的地に出発するために、支度をしないといけないか。
とにかく、エルフ二人は見聞を広めるため、しばらくは集落へ帰らなくても良い事がわかって良かったかな。
いつ帰るのだろうと気にしてたら、何かを頼む事もできないしね。
さて、朝の支度をしながら、朝食の支度を始めるモニカさんを手伝うとしよう……あ、ユノを起こさないと。
「じゃあ、エルサ。頼むよ」
「わかったのだわー」
ユノを起こして朝食も終わり、焚き火を消したり、テントを片付けて出発の支度が整った。
キューや携帯食をたらふく食べて満足していたエルサに頼んで、大きくなってもらい、荷物と一緒に皆で乗り込む。
「モニカさん、次の目的地は北西で良いんだよね?」
「そうよ。真っ直ぐ進めばいいわけじゃないから、細かい指示はその時にね」
「わかった。それじゃエルサ、行こう」
「了解だわー」
地面から垂直に浮かび上がり、ある程度の高度になったところで、方向を修正。
北西へ向かってエルサが飛び立つ。
やっぱり、空を飛ぶって気持ちが良いね……まだ日も高くない時間というのもあるかもしれないけど。
「そこを少しだけ右に行って……えーと、そこからもう一度左に修正ね」
「細かいのだわ……」
モニカさんの指示で、進行方向を少しづつ修正しながら、目的の場所へ近づく。
そろそろ日も高くなって来たから、一旦休憩して、昼食を取るべきかな?
「エルサちゃん、止まって」
「わかったのだわ」
「どうしたの、モニカさん?」
休憩するべきか考えていると、モニカさんがエルサに停止を指示。
空中で静止して浮かんでるだけになった。
「ほら、そこに村が見えるでしょ?」
「あー、うん、そうだね」
空を飛んでるから特に見やすいけど、遠くに家が複数建っている村が見えるのがわかった。
「あの村に寄って、話を聞こうと思うの。依頼はあの村からだから」
「そうなんだね、わかった。それじゃエルサ、近くの人から見られない……木の陰にでも降りてくれ」
「了解したのだわー」
どうやら、魔物討伐の依頼をこなす前に、村に立ち寄る予定のようだ。
遠くに見える村が、魔物に困って依頼を出したらしいからね、事情を聞くのも必要な事なんだろうと思う。
……そういえば、俺……今回モニカさんが受けた依頼の内容を、詳しく知らないんだけど良いんだろうか……?
まぁ、モニカさんとソフィーが主に戦闘をすると言っていた依頼だから、良いのかもしれないけど、なんとなくパーティのリーダーとして不甲斐ない気分。
「降りるのだわー」
「はいよ」
微妙な気分になったくらいで、エルサが人目に付かなさそうな木々を発見。
そこに降りて、荷物を降ろし、小さくなったエルサが俺の頭にコネクトする。
「それじゃ、村まで歩きましょ。ここからならそんなに遠くないわ」
「わかった」
上空から見た村は、もうすぐ近くに見えたけど、空を飛んでたからちょっと距離感は怪しい。
まぁ、1時間も歩かないくらいで到着するだろうけどね。
しばらく皆で、人が二人並ぶのがやっとのような道を歩く。
王都から続いていた、馬車も軽々通れるような大きな街道では無く、細い道だ。
あまり人通りは多くないから、大きな街道を作る必要もないのかもしれない。
道の両側は、木々が立っていて、林の中を木を切り倒して作った道を歩いてる感じだ。
ちょっとだけ、昔遠足で行った山道を思い出した。
あの時も、細い道を周りが木に囲まれてたっけな……山と違って、今は平坦な道だけど。
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