第230話 食事は皆で



「はぁ……コル! いい加減にしなさい! 我が儘ばかり、自分の事ばかり! 貴方の行動一つでどれだけ皆を危険にさらすと思っているの!? そんな事じゃキマイラを倒すどころか、勇名を轟かせるなんて……寝言は寝てから言いなさい!」

「ぐっ!」


 喚き散らすコルネリウスさんを、フィネさんが溜め息一つ吐いた後に一喝。

 キマイラと戦う前もそうだったけど、フィネさんが怒ればコルネリウスさんは押されて、言う事を聞くんじゃないかな……? フィネさんの迫力はすごいし。

 いやまぁ、怒るのはエネルギーを使うし、本来のフィネさんはそんな事をしたくはないのかもしれないけど。


「申し訳ありません、リク様。コルの失礼な物言い……重ねてお詫び申し上げます」

「いやいやフィネさんが悪いわけじゃないから、謝らなくても大丈夫だよ。それに、フィネさんには言いにくいんだけど……あんな事を言っている人を気にしてもしょうがないからね……」

「すみません……」


 コルネリウスさんを黙らせてから、俺に謝って来るフィネさん。

 その後ろでカルステンさんも頭を下げてるけど、二人は悪くないしね。

 それに、もっと直接こっちに色々して来るならまだしも、勝手な事を喚き散らしてるだけだから、放っておけばいい事だしね。

 フィネさんに言葉を掛けると、身を縮めてもう一度謝る。

 ……仕えてる人の事だから、自分の事のように恥ずべき事なのかもしれないなぁ。


「まぁ、そんなところであれこれ言っててもしょうがないでしょ。ほら、お腹が空く頃よ? スープはどう?」

「は……確かに空腹は感じておりますが……」

「ほらほら、遠慮しないで。食事は楽しくするものよ」


 モニカさんがフィネさんにスープを渡し、背中に回って押しながら、焚き火の傍に座らせる。

 それと一緒に、怒られて押し黙ってしまったコルネリウスさんや、カルステンさんも座る。

 モニカさんの言う通り、食事は皆で楽しく……が良いよね。

 ……こういう所、段々マリーさんに似て来たのかな?


「申し訳ありません、助けて頂いたうえに食事まで……」

「良いのよ。多めに作ったからね。こちらは余裕もあるし」

「そうだね。エルサのおかげで、普通の旅より多く荷物を持っていられるし」


 食事をしながらも、恐縮しきりなフィネさんとカルステンさん。

 コルネリウスさんは、偉そうに何かを言おうとするたび、フィネさんに睨まれて抑えられてるから、特に問題も起こらない。


「先程から気になっていたのですが……その生き物は……?」

「……犬?」


 暖かいスープをすすりながら、窺うように視線を向けるフィネさんとカルステンさん。

 そう言えば、エルサの事は何も言って無かったね。

 ずっと頭にくっ付いてるだけじゃなくて、飛んでユノの所まで行くのを見てるから、多少の説明は必要かな。

 そう考えて、キューをモキュモキュ齧ってるエルサを膝の上に置き、一緒に食事をもりもり食べてるユノの方へと視線を向けた。


「……? エルサ? エルサはね、ド……」

「ちょーっと待ってねユノちゃん」

「もがもが」


 俺の視線と、フィネさん達の視線に気付いたユノが、元気よくエルサの紹介をしようとしたのを、フィリーナが横から手で口を塞いで止めた。

 俺も同じような説明をしようとしていたから、もしかしたらユノじゃなく俺がフィリーナの手で止められてた可能性も……と考えたところで、アルネが手をワキワキさせてるのが見えた。

 ……アルネの手でふさがれるのは嫌だなぁ。


「えーっとね、このエルサちゃんは、リクのペットなの。ちょっと特別な生き物だけど、気にしないでね」

「はぁ……」

「私はペットじゃないのだわ!」

「喋ってる……」

「……喋る……犬?」

「あはははは」


 フィリーナがユノの代わりに乾いた笑いを浮かべながら、エルサの説明をする。

 ペットと言われた事に、キューに夢中だったエルサが反応して、喋る事にフィネさん達が驚いているけど、それすらも笑って誤魔化した。

 ……成る程、こうやって強引に誤魔化すというのもできるんだね……勉強になった……あまり使おうとは思わないけど。


「はぁ……はぁ……コルネリウス様ー!」

「む?」


 ワイワイと食事をしていると、暗くなった遠くから、コルネリウスさんを呼びながら駆け寄って来る人が数人……あれは確か、馬車の御者をやっていた人達か。

 キマイラに襲われそうになって、走って逃げてたんだっけ。

 様子を見に戻ったら、無事だったから声を掛けて来たんだろう。


「今頃戻って来たのか……」

「あの人達はただ御者をするだけですから。戦いはできません。事前にキマイラが出たら真っ先に逃げると決めていました」

「そうか。それなら仕方ないな」


 ソフィーさんが、雇い主であるコルネリウスさんや、フィネさん達を見捨てて一目散に逃げた御者の人達が今頃戻って来た事に眉をしかめるが、フィネさんのフォローで表情を緩めた。

 元々戦えない人たちだったみたいだね。

 それなら、キマイラなんて魔物を見たら、まずは逃げる事を考えないといけないから、仕方ないね。


「お世話になりました」

「ふん、王都に戻ったら覚えておけよ。僕に逆らった事を……」

「コル!」

「……なんでもありません」

「……助かった。ありがとう」

「いえいえ、お気をつけて」


 御者さんが戻って来た事で、コルネリウスさん達は馬車を動かす事ができるようになった。

 全力で逃げ出して、走って戻って来た御者さん達は、多少なりとも疲れが見えたから、モニカさんによるスープのおすそ分けで、一緒に食事兼休憩をしてから、出発となった。

 フィネさん達は、馬車に乗り、このまま街道を王都へ向かって移動し、途中にある村で1泊するのだそうだ。

 西側はまだしばらく村や街がないらしいから、俺達はここで野営する事になった。


「それでは~」

「またどこかで」


 野営の準備をしている皆の代わりに、俺がフィネさん達と挨拶して見送る。

 もうかなり暗くなっているけど、御者の人は慣れているらしく、しっかり馬を操って街道を東へ向かって行った。


「リク、こちらは準備できたぞ」

「ありがとう、ソフィー。手伝わなくてごめん」

「まぁ、今日一番戦ったのはリクだからな。私達は何もしていないから、これくらいはしないと。それに、見送りも大事なリーダーの仕事だ」

「そんなもんなのかな?」


 パーティのリーダーとして、出会った人の見送りだとかをやるべき、という事なのだろうか……?

 とりあえず、キマイラとの戦闘は短い時間だったし、あまり疲れてはいない。

 ……もしかすると、野営のテントを準備するという口実で、できるだけコルネリウスさんに関わりたくなかった……のかもしれないな。

 フィネさんがいなかったら、俺もあまり関わりたいと思わないしなぁ……仕方ない。


「さて、それじゃあ各自テントで休もう。えーと、見張りはどうする?」

「そうね……」


 焚き火を絶やさないようにする火の番と、魔物や夜盗が襲って来ないように見張る人を決め、それぞれのテントへ入って就寝だ。

 同じ男のアルネとは一緒のテントだ。

 それと、エルサとユノも一緒だね。

 女性陣はモニカさんとソフィー、フィリーナだから、こっちにユノを入れる事で、あまり広くないテントのスペースを確保したかったんだろう。


「それじゃあ、俺は見張りだな」

「うん。何かあったら起こして」

「わかった」


 最初の見張りはアルネとフィリーナだ。 

 俺の番はその次になる。

 まぁ、キマイラはもういないんだし、大した事は起こらないだろう。

 テントから出て行くアルネを見送って、寝袋の中に入り込んで寝る事にした。


「私も一緒に入るの」

「……さすがに狭いから、ちょっと無理かな……」


 エルサと一緒に寝袋に入って、モフモフしながらぬくもりと共に寝ようと思ったら、それを羨ましく思ったのか、ユノが同じ寝袋に入ろうとする。

 エルサくらいの小ささなら、多少のスペースの隙間に入り込めるけど、さすがに人ひとり余分に入る隙間は無いからなぁ。

 ちょっとむくれたユノをなだめながら、当番の時間までゆっくりと寝た。



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