第222話 西門で合流と付いて来ようとする人達の対処法
翌日、西門集合は昼食後のため、部屋でのんびりエルサのモフモフをいじりながら時間を潰す。
とは言っても、装備の確認は怠らない。
……戦闘中に剣や鎧に不備があったらいけないからね。
「そうは言っても、手入れの方法とかあまりよく知らないんだけどね……」
このあたりは、いずれマックスさんに詳しく聞こうと考えていたんだけど、ヘルサルに戻っちゃったからなぁ。
そのうち、武具店とかで聞いてみる事にしよう。
「それにしても、この鎧を着るのも久しぶりだ」
ヘルサルから王都へ出発する前に、イルミナさんの店で買った革の鎧。
王都へ来る時は着ていたのだけど、さすがに授与式では着ていなかった。
そのまま姉さんが捕らわれたり、魔物が襲ってきたりで、着ている暇も無かったからね
考えてみると、せっかく買った革の鎧も、まだ実用されてなかったんだなぁ……剣は十分に活躍してるけど。
「よし、こんなもんかな」
「準備できたのだわ?」
「あぁ。昼食は……」
「ご用意致します」
「お願いします」
「キューも用意するのだわ!」
準備が終わったところで、ヒルダさんにお願いして昼食。
いつものようにエルサがキューを要求するけど、もう慣れたヒルダさんは言わなくても用意してくれると思うぞ?
「リク様……つかぬ事をお聞きしますが……」
「はい?」
昼食を食べている途中、いつもは控えて静かに待機しているヒルダさんが話しかけて来た。
「陛下がどこにいらっしゃるかご存じでは無いでしょうか?」
「姉さん……? いえ、今日は一度も会ってないので……」
「そうですか……」
「姉さんがどうしたんですか?」
ヒルダさんから、姉さんがどこにいるのか聞かれたけど、俺は今日ほとんど部屋から出ていないし、姉さんも部屋に来たりはしていないから、何処にいるのかなんて知らない。
「いえ……昼前くらいから姿が見えないと……陛下付きの侍女が探していたもので」
「姉さんが……何か事件ですか?」
「そういう事ではないと思われます。……以前から、時折姿をくらませて仕事を放っておく事があったので……今回もそれではないかと」
姉さんの悪い癖のようなものなのか、以前からたまに姉さんは仕事をサボって何処かへ行く事があるようだ。
それで良いのか姉さん……。
「陛下と親しいリク様であれば、何か陛下の行先をご存じかと、念のため聞いた次第です」
「そうですか……俺にはわかりませんね……探しますか?」
「いえ、いつもと同じなら、いずれ戻って来るでしょう。戻って来た時に、溜まった仕事に悲鳴を上げるのはいつもの事ですから」
「……そうですか」
まぁ、仕事を放って何処かへ行ってるんだから、帰って来たら溜まっているのは仕方ないだろう。
自業自得ってやつだね。
「……それに、思い当たる事もあるので」
「それは?」
「リク様はお気になさらなくても大丈夫ですよ」
ヒルダさんがそういうのなら、俺が気にしなくても良い事なんだろう。
気にはなるけど、仕方ないね。
「よし、それじゃ行ってきます」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「キューが美味しかったのだわー」
昼食を食べ終え、ヒルダさんに挨拶をして部屋を出る。
キューを食べて満足気なエルサは、感想を暢気に言っているけど、キューって場所によって味の違いとかあるんだろうか……?
新鮮さでの違いとかはあるかもしれないけど……まぁ、エルサだから気にしないでおこう。
「えーっと、西門へは……」
頭にエルサを乗せ、のんびりと西門までの道を歩く。
これも、マックスさん達に地理を教えてもらっていたおかげで、迷う事はない。
むしろ多少の近道を使うくらいにはなっている。
「マックスさん達には感謝だね」
そんな事を考えながら西門手前、馬を止めたりする広場のあたりでフィリーナとアルネを発見した。
「フィリーナ、アルネ」
「リク」
「早かったな」
フィリーナとアルネに声を掛け、合流。
二人は、荷物を背負うようにしており、それなりに量が多い荷物を持っている。
「まぁ、準備は早く終わったからね。そっちは?」
「私たちも準備に時間はそんなにかからなかったわ。王都に来るまでの荷物を持ってくるだけだったしね」
「そうだな。王都に来るよりは少ない日数で済みそうだから、量は減らしてある」
荷物を背負ってる二人を見る限り、持てる限界まで持ってるという様子なんだけど、これでも減らしてあるようだね。
王都に来る時は馬に乗ってだろうから、そちらに荷物を積んでいただろうから、本当はもっと多くの荷物だったんだろう。
「あとは、モニカさんとソフィーとユノだね」
「リクさーん!」
「お、噂をすれば……だな」
モニカさん達が来たら皆集合と考えて、名前を出した直後に名前を呼ばれる。
聞き慣れた声、モニカさんだ。
振り向いて通りの方へ体を向けると、モニカさんとソフィーとユノがそれぞれ両手に荷物を持ってこちらへ向かっていた。
エルフの集落へ行く時よりは少なめに見えるけど、それでもやっぱりそれなりの量になったみたいだ。
ユノが持ってるのは、モニカさんと同じような食材かな? 布の袋から、野菜のような物がはみ出して見えるから、きっとそうなんだろう。
……俺だけほとんど荷物を持って来てないんだけど……これで良いのかな?
一応、以前から使ってる鞄の中にヒルダさんに用意してもらった、エルサ用のキューは入れてあるけど、それくらいだ。
「モニカさん、ソフィー、ユノ。準備は?」
「食料も買ったし、十分よ」
「野営用の物も揃えたからな。これで夜も快適だ」
「大丈夫なの!」
皆、準備は万端なようで、早速と西門を出ようと動き始める。
エルサに乗って行くんだけど、さすがに町中で大きくなってもらうわけにはいかないから、門を出て王都を離れてからだ。
大きくなってもらい、皆で乗り込めば後はエルサに運んでもらうだけで楽々移動だね。
でも、その前に……
「皆ちょっと待って」
「どうしたの、リクさん?」
違和感を感じて皆を呼び止める。
その違和感は、俺しか感じていないらしく、皆呼び止めた俺を見て不思議顔だ。
違和感というかなんというか……はぁ……まったく。
「……えっと……ヒルダさん、いますか?」
「……はい」
「ヒルダさん?」
少しだけ考えて、後方にある茂みの方へ何となく声を掛けると、少し躊躇した様子でヒルダさんが出て来た。
それを見て、モニカさんが首を傾げてるけど……それも仕方ない事だね。
「……お願いできますか?」
「畏まりました……陛下、行きますよ。仕事がたっぷり溜まっておりますので」
「ちょ、ヒルダ。お願い、離してぇぇぇぇぇ!」
「……えーと……」
ヒルダさんにお願いすると、近くにいた人……質素な鎧とフルフェイスの兜を身に着けて、誰かわからないように変装した姉さんの首根っこを掴んで引きずって行った。
……姉さん……変装するのは良いけど、特徴的な金髪が隠せてなかったよ……。
女王様が冒険者にお忍びで付いて行こうとしちゃ駄目じゃないか、まったく。
「あー」
「リクは慕われているのだな」
「慕われてるというか、過保護というか……」
連れ去られて行く姉さんを見ながら、アルネがポツリと呟く。
他の皆は、女王陛下の突拍子もない行動に目が点になっている。
昔から、こういう所があったからね……違和感に気付いて良かった。
多分、ヒルダさんが気にしなくて良いと言っていた、思い当たる事とはこの事だったんだろう。
隠れて俺に付いて来るだろうから、さらに隠れて尾行すれば姉さんが見つかる……と。
「あ、ついでにハーロルトさん、よろしくお願いします」
「はっ。ヴェンツェル様……」
「な、まさか私まで見つかるとは!」
別の茂みへと声を掛け、ハーロルトさんによってフルプレートに身を包んだヴェンツェルさんが連れて行かれる。
フルプレートに姉さんと同じフルフェイスの兜だから、完全に身を隠せると思ってたんだろうけど、ごつすぎる筋肉と体型、暑苦しい雰囲気が隙間から見え隠れしてたからね……これは俺じゃなくてもわかると思う。
しかし……軍のトップと女王様の両方がこぞって一介の冒険者に付いて行こうとするなんて……この国は大丈夫だろうか……?
……駄目かもしれないな……。
「お待たせ。さぁ、出発しようか」
「リクさん……私、この国の行く末が少し心配になったのだけど……」
ようやく邪魔者がいなくなったところで、皆に声をかけて移動を始める。
モニカさんが心配そうに呟いて来たけど、その心配は皆してるだろう事だね。
もしかしたらこの国は、ちょっとズレた女王様や軍のトップを支える周囲の人達のおかげで、保たれてるのかもしれない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます