第223話 目的地の近くには人がいた



「この辺りなら良いかな?」

「王都からは、城壁に阻まれて見えないだろうから、大丈夫だろう」


 西門を出て、10分程街道を外れて歩いた先、人気のない場所で立ち止まって確認。

 ちなみに西門を出る時、身分確認をしたら俺の名前に反応した衛兵さん達が、盛大に見送ろうとしたけど、それはさすがにお断りした。

 ただの冒険者が依頼のために王都を出るだけで、それは大袈裟過ぎるからね。


「じゃあ、エルサ。頼むよ」

「わかったのだわー」


 エルサを頭から離して、大きくなってもらう。


「久しぶりに見たけど、やっぱり近くで見ると圧巻ね」

「そうだな。ドラゴンを見ていると、我らエルフが矮小な存在に思えてくる程だ」

「久しぶりに大きくなったのだわー。気持ち良いのだわー」


 大きくなったエルサを、フィリーナとアルネが感心した様子で見ている。

 二人はエルフの集落で何度も見ているし、この前の魔物が襲撃して来た時にも見ているから、そろそろ慣れても良いと思うんだけどね。

 それに、エルフが矮小に見えて来るなんて……エルサは単にキューが好きで暢気なドラゴンなだけだよ?


 久々に……といっても数日ぶりくらいか……大きくなるエルサは、気持ち良さそうにモフモフな翼を広げて伸びをしているような感じだ。

 そんなエルサに、それぞれが持って来ていた荷物を載せ、自分達も乗り込み準備完了。

 一応、荷物が落ちないように紐で各自の体に括り付けてある。

 ……エルサの結界が張られてるだろうから、荷物が落ちたりはしないと思うけど、念のため。


「まずは西……街道に沿って西だね」

「ええ。馬だと2日程西に移動した先にキマイラが陣取ってるらしいわ」

「そのようだな。街道そばの林に住み着いて、街道を通る者を襲うようだ」


 馬で2日というと、ヘルサルよりは少し近いようだ。

 そのあたりで、キマイラが通行する人達を襲うようになって、人が通れなくなってる……という事だね。

 依頼書と地図を確認しながらモニカさんの指示で、西へ向かう。

 ふわりと重力を感じさせないように浮かび上がったエルサは、地上から数十メートルの位置で静止、そこから西へ向かってすごいスピードで移動を始める。

 ……今までよく考えなかったけど、プロペラも無いのに垂直に浮かび上がるって魔力が無いと無理な事だよな。

 ワイバーンが飛ぶのに魔力を……という話だったけど、エルサを見ても魔力が必要なのは当然の事だったね。


「エルサ、あそこの木の陰が良いかな。近くに降りてくれ」

「わかったのだわー」


 しばらく飛んで西へ移動したあたりで、地上に人がいないのを確認する。

 木の陰を見つけたので、そこに降りてもらい、少しだけ休憩。

 空を飛んでるエルサはこれくらい大丈夫と言うだろうけど、乗ってる皆も含めて休憩は大事だからね。

 モニカさんに聞くと、時間的にも余裕はあるみたいだから、休憩できる時はしっかり休憩しておきたい。


「ふぅ……エルサに乗るのは快適だが、少々疲れるな……」

「普通は馬での移動だから、空を飛ぶなんて慣れていないものね」

「私達は慣れたわ。ね、ソフィー」

「そうだな。リクといると、移動は必ずエルサに乗る事になるからな。空の旅というのも悪くない」


 フィリーナとアルネは、エルサから降りて荷物を降ろした後、木の陰まで行って腰を下ろす。

 空を飛ぶという事に慣れてなければ、疲れるのも当然だよね。

 モニカさんやソフィーは何度もエルサに乗っているから、もう慣れたみたいだけど。


「落ち着くのだわー。大きくなるのも気持ち良いのだわ。けどやっぱりここが一番落ち着くのだわー」


 乗っていた人も荷物も全て降ろし、いつものように小さくなったエルサが頭にドッキング。

 なんだか、エルサが小さい事に俺も慣れてしまって、大きい時よりもこうして頭にくっ付いている時の方が、普通になってしまってる。

 暢気な声で言うエルサに、鞄の中からおやつ用にキューを取り出して食べさせつつ、俺自身もエルサのモフモフが頭にある事が落ち着くような気がした。


「モニカさん、目的地まではあとどれくらいかな?」

「そうね……この木々がここだから……あともう少しね。」


 モニカさんに目的地までの距離を聞くと、あともう少しとの事。

 地図と照らし合わせてるモニカさんの横から覗き込むと、確かにもう少し……4分の3くらいは来た所かな。

 体感で30分程休憩をした後、再びエルサに大きくなってもらって出発。

 幸い、飛ぶことに慣れていないエルフの二人も、乗り物酔いのような事にはなっておらず、このまま目的地まで飛んで行っても問題は無さそうだ。

 ……馬よりは揺れないからかな? まぁ、高所にいるという方が精神的に疲れるのかもしれないね。


「ん? あれは……」

「人かしら……?」

「馬もいるな……馬車か」


 目的地まで程近いところまで来た時、遠目に見え始めたキマイラがいるであろう林の近くに、人や馬、馬車と思われる姿が見えた。

 キマイラが襲って来るからと、ここらの街道は今あまり人が通らないはずなんだけど……。

 もしかすると、その事を知らない人達かもしれない……襲われてしまわないうちに、教えてあげないと。


「エルサ……あそこにいる人達から見えない場所……そうだな……あぁ、あそこが良いか。あの木の近くに降りてくれ」

「わかったのだわー」


 林の端っこ、街道から外れた場所に、背の高い気があるのを見つけた。

 あの木の高さなら、エルサが降りても街道からは姿をほとんど隠してくれるだろうと思う。

 エルサの事を知らない人が見たら、大きな魔物が来たと思われてしまうかもしれないからね。


「よし。エルサ、ありがとう」


 エルサが木に隠れるようにしながら地上に降り立ち、そこから皆が荷物を持って降りる。

 大きな木があるが、さすがにエルサの体全てを隠せていないけど、街道からは見えないだろう。


「どうするの、リクさん?」

「ひとまずさっき見た人達の所へ行こう。危険な場所だと伝えないと」

「そうだな。無警戒でキマイラに襲われたらひとたまりもないだろう」

「確か……馬ってキマイラの好物じゃなかったっけ?」

「キマイラにもよるがな。何の魔物が混ざっているかにもよるだろう」


 俺は知らなかったけど、アルネによるとキマイラは馬を食べる事もあるらしい。

 そういう魔物や動物が混ざっているキマイラであれば、馬は美味しい食材に見えるのかもしれない。


「馬が好物……だから街道近くに住み着いたのかもね」

「そうだな。街道だと人や馬、馬車が行き来するからな。それを狙っているのかもしれない」

「だったら、早く教えてあげないとね」


 モニカさんとソフィーがキマイラが林に住み着いた理由を推測している。

 その通りだとすれば、馬や馬車を引き連れているように見えた、街道にいる人達は狙われてしまう。

 一刻も早く教えて、ここから離れてもらわないと。

 歩く速度を少し早めて、街道に戻り、上空から見えた人達の所へと向かう。


「何者だ!」


 ある程度近付いて、お互いの顔が確認できるくらいの距離になった時、先頭に立っていた一人が俺達に向かって叫んだ。

 馬車は2台あり、それぞれ2頭ずつの馬がそれを曳いている。

 急いで移動していないのか、馬車に御者はいるけど、俺達に向かって叫んだ人を含め、3人程が歩いて馬車を先導しているようだ。


「えっと……怪しい者じゃありませんよ」

「リクさん……それじゃ怪しんでと言ってるようなものよ?」


 そうなのだろうか……怪しい人が自分から怪しいと言わないというのはわかるけど……こういう時、どう話して良いのかわからない……。

 モニカさんに言われて、どう答えていいのか悩む俺だった……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る