第220話 依頼をこなす順番
「りっくんが皆に認めれてるようで、姉さんはうれしいわ。これでパレードが行われたら、国民中にりっくんの素晴らしさが伝わるのよ!」
「……姉さん、そこまでしなくても良いんだけど……」
素晴らしさはともかく、国中に色々伝わるのはなぁ……今日も人に囲まれて大変だったし。
「よし、これで行きましょう」
「お、モニカさん。順路は決まったの?」
「ええ」
皆から色々と言われて、妙に恥ずかしくなった俺は、声を上げたモニカさんが救いの神のように見えた。
本人にはそのつもりはないだろうけど、いいタイミングだと思う。
問いかけると、モニカさんはしっかりと頷いてくれた。
「どういう順番で行くんだ?」
「えーとね、まずはリクさんの依頼……キマイラ討伐に向かうわ……そこから……」
ソフィーさんも話しに加わり、モニカさんが決めた順路を聞く。
まずキマイラを討伐するために西へ向かい、そこからさらに北西へ。
モニカさんが確認して来た依頼は、王都から馬で北西に数日の所らしい。
そこで俺とユノを除いたメンバーで、魔物の群れを討伐……もし危ない場合は俺やユノが参戦という条件だ。
自分達の成長と経験のためという事らしいけど、俺も魔物の群れに対する経験をしたいと言ったら……。
「リクさん、今まで散々魔物の集団を相手にして来たのに、今更必要無いでしょ?」
とモニカさんに言われ、皆頷いている。
……俺も、魔法の威力調節とか、練習したい事があったんだけどなぁ。
キマイラの討伐は、俺とユノ、エルサがメインだからと言われて、一応納得しておく事にした。
「最後に、東へ行ってリクさんがワイバーンを飛ばした北の山ね」
「……ワイバーンを最後にしたのは何故だ?」
「目的が素材収集でしょ? 荷物になるから、最後に運べば良いと思ったのよ」
「成る程な、納得できる理由だ」
「でも、ただでさえ魔物の襲撃から数日経ってるのに……早く行かないと腐ったりしない?」
ワイバーンの皮を収集するのは、最後に回したようだけど……死んだ魔物から素材を剥ぐのに腐ってしまってはいけないだろう。
確かに荷物になるから、それを持って他の場所に行くのは大変かもしれないし、場合によっては一旦持ち帰って、また別の依頼へ……という事になるかもしれないけどね。
「目的はワイバーンの皮だからね。多少腐っても問題ないわ」
「肉が目的じゃないからな。皮なら、ワイバーンの魔力で腐るのは遅いだろう。……聞く話によると、1カ月程度は大丈夫だそうだ」
「……そうなんだ」
ワイバーンは、飛ぶときに羽だけでなく魔力も纏って飛んでるんだそうだ。
言われてみれば、ワイバーン程の大きさで体も重そうなのに、羽の力だけで飛ぶのは不自然かもしれない。
ワイバーンは空を飛ぶために魔力を使う事に長けた魔物なのか。
エルサなんかも、もしかしたら魔力を使って飛んでるのかもしれない……そういえば、初めて会った時も飛び過ぎて魔力が尽きたとか言ってたっけ。
「ワイバーンの皮だけど、もし荷物に余裕があったら、こっちにも持ち帰ってくれるかしら?」
「姉さんも? 何かに使うの?」
「ワイバーンの皮と言えば上質な素材だからね。兵士達の防具に加工したいの。……さすがに全員に行き渡らせて標準装備にはできそうに無いけど」
ワイバーンの皮と聞いて、姉さんからの提案。
確か、ワイバーンの皮は刃を通しにくく熱に強いと聞いたから、防具にしたら良い物ができるんだろうと思う。
魔物の襲撃や帝国のきな臭い動きといい、有事に備えたいという事なのかもしれないね。
「もちろん、ギルドとは別に報酬も用意するわよ」
「というか、大量に北の山に吹き飛ばしたけど、軍で回収したりしないの?」
報酬は別に、俺は気にしないんだけど、それよりもワイバーンを吹き飛ばして放ったらかしの北の山の方が気になった。
俺は、国が人を派遣して回収したりするものだと思ってたからなぁ。
「そうしたいのは山々なんだけど、すぐにはね……大通りの修繕やパレードの準備、集まってる貴族達の対応と、やる事が沢山なのよ」
「そうんなんだ。わかった、どれだけ持って帰れるかわからないけど……」
「余裕があるだけで良いわよ」
現状、他の事が忙しくてそちらにまで手が回らないという事なんだろう。
それなら、少なくなってしまっても、俺達が持ち帰る事で少しでも片付けられたらと思う。
大量にいたから、全てというわけにはいかないだろうけどね。
姉さんとの話を終え、モニカさんに向き直って予定の確認に戻る。
「それじゃ、ワイバーンは最後だね。まずはキマイラかぁ」
「そこでの戦いは、リクさんに任せるわ。正直、私やソフィーじゃ戦いにすらならないだろうしね」
「Bランクの冒険者でも、戦おうとするなら人数を用意して挑むような相手だからな」
「まぁ、そう言うなら俺とユノ……あとはエルサあたりで何とかするよ」
「戦うの楽しみなの!」
「私も戦うのだわ? 仕方ないのだわ」
キマイラとの戦いは、俺やユノ、エルサでやる事にしよう。
どうやら、Cランクのモニカさんやソフィーさんだとまともに戦えないらしいからね。
キマイラと戦える事に期待してるユノと、仕方なさそうに俺の頭で頷くエルサ。
……今までのエルサなら、面倒とか言いそうだったけど、今回はちゃんと戦ってくれるみたいだ。
「モニカ、いつ頃出発するの?」
「パレードまでに帰って来る事を考えると……明日にでも出発した方が良さそうですね。準備を考えて……明日の昼でしょうか」
「わかったわ。りっくん、気を付けてね。まぁ、りっくんには無用な言葉かもしれないけど」
「そんな事無いよ。ありがとう、姉さん」
いつ出発するのかモニカさんに聞いた姉さんは、そのまま俺に言葉を掛けてくれる。
心配を掛けたくはないけど、この世界で冒険者として活動している以上、危険もある程度は仕方ない事だと姉さんもわかってくれてるんだろう。
素直に心配してくれる姉さんに感謝した。
「それじゃ、私達は明日の準備が必要ね。……とは言っても、王都に来る時に十分準備していたから、それを持って行くだけだけど」
「そうだな。エルサ様に乗れるのであれば、荷物の選別もそこまで必要なさそうだ」
「私達は……準備しなくちゃね」
「ああ。ある程度は持って来ているが、野宿をする事もあるだろうからな」
「……モニカ……チャンスよ……」
「陛下!?」
フィリーナとアルネはそこまで準備する必要は無さそうだ。
まぁ、この王都に来るまでに10日以上の旅をしてきているのだから、それも当然か。
荷物はエルサに乗せて運ぶだけだから、かさばり過ぎるとかが無ければ問題は無いと思う。
馬と違って、乗せるスペースもあるし、重さもそこまで気にしなくて良いと思う……飛んでる時に落ちないよう、注意する必要はあるけど。
それとは別に、モニカさんとソフィーさんは準備が必要なようだ。
ヘルサルから王都に来る時はエルサに乗って来ただけだから、長期間外を移動するための荷物を持って来ていないからね。
エルフの集落に向かった時と似たような装備で良いから、時間はそんなにかからないだろう……初めての旅じゃないからね。
「モニカさん、姉さん?」
「りっくんは気にしなくて良いわ」
「そ、そうよ。リクさんは気にしなくて良いの……気にして欲しいけど……」
姉さんがモニカさんに言葉を掛けると、突然真っ赤になって慌てだした。
どうしたんだろうと二人に声をかけたけど、二人共気にしなくて良いと言ってる……その誤魔化し方は気になるんだけどなぁ。
モニカさんの後半の声も小さくて聞き取れなかったし……。
まぁ、気にしすぎると姉さんが怖いから気にしないように頑張ろうと思う。
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