第219話 皆へパレードの話



「フィリーナやアルネも協力してくれるのか? 魔法が使える二人がいてくれると心強いな」


 俺を置いてモニカさんと二人で依頼の相談をしていたソフィーが、こちらに声を掛けて来る。

 依頼の方はもう良いのだろうか?


「ソフィー、私達も連れてってくれる?」

「ああ。私は剣くらいしか使えないからな。モニカも魔法が使えるが……」

「私の魔法はあまり期待しないでね。母さんに特訓させられたけど、まだ十分じゃないから。……相手の意表を突くとか、それくらいしかできないわ」

「成る程な。それなら私達が後方から魔法で援護……という形が良いのだろうな」


 エルフの集落でよくやってた戦法だね。

 モニカさんとソフィー……場合によってはユノも加えて前衛を担当し、後方からフィリーナやアルネが魔法で援護する、と。


「そうだな。以前にも経験があるから、大丈夫だろう。モニカと話した依頼もこなしやすくなる」

「何か目ぼしい依頼はあったんですか?」

「まぁ……リクの受けて来た依頼とは別にな。モニカが確認して来た依頼なんだが」

「緊急性のあるものじゃないんだけどね。王都から少し離れた場所で、複数の魔物が集まってるらしいの。強い魔物はいないと報告されてるみたいなんだけど、結構数が多いからCランクからBランクの依頼になってたのよ」


 モニカさんが確認して来た依頼は、魔物の群れを討伐する依頼らしい。

 弱い魔物ばかりだとしても、数が集まれば脅威は高まるから、ランクは自然と上がる。

 Bランクでなく、Cランクでも受けられる依頼という事は、そんなに強い魔物はいないのだろう。

 それなら、数を相手に戦って来た経験も生きて丁度良い依頼かもしれないね。


「わかった、それじゃその依頼を受けよう」

「少し遠いから、リクさんの受けて来た依頼をこなしてからになりそうね」

「まぁ、移動はエルサに頑張ってもらおう」


 夕食を食べ終わって、ソファーでお腹を上にして転がっているエルサをちらりと見ながら言う。

 ここ数日食っちゃ寝してるから、エルサもそろそろ運動させた方が良さそうだからなぁ。


「それじゃ、依頼書を見て順番を決めるわね。……リクさんがワイバーンを飛ばしたのは、北の山よね?」

「そうだね。北の山ならワイバーンが飛んで来ても被害が少なそうだったからね」

「わかったわ。……じゃあ……北の山と西……それと私が確認した依頼の場所……と」


 モニカさんが、依頼書を見ながら地図を取り出し、見比べながら頭を悩ませ始める。

 効率良く依頼をこなす順番を決めるためだろう。

 どこへ行ってどう回るか……という事を考えてくれるのはありがたい。

 エルサがいるから移動は早いけど、俺はこの世界の地理に付いて詳しくないからね……時間を短縮できるのはありがたい。

 地理は苦手じゃないけど……この世界の地理に関しては不勉強だ……それは仕方ないんだけど、そのうち勉強する必要もありそうだ。


「りっくん、冒険者活動も良いけど……パレードも忘れちゃダメよ?」

「……そうだった」


 忘れたかったイベントを、姉さんがボソっと呟いて思い出した。

 確か、1週間後くらいに修繕が終わった大通りを使ってやるんだったね。


「パレード? 何の事ですか?」


 姉さんの呟きを聞いたフィリーネが、興味深そうに聞き返している。

 周りを見ると、依頼の順路を考えているモニカさん以外は興味がありそうだ。

 ……ユノは聞いていたはずなんだけどなぁ。


「大通りの修繕がもう数日で終わるのよ。それを使って、りっくんをメインにしたパレードをやる事が決まったわ」

「リクを、ですか?」

「ええ。りっくんは王都を救った英雄だしね。この機会に民へのお披露目と感謝を伝えるため……という名目ね。一番は貴族がりっくんを称えたいという思惑が大きいのだけど」

「貴族にリクは受け入れられているのね」

「実際に、命の危機にさらされた挙句、圧倒的な力で助けられ、さらに城に迫っていた魔物の脅威を軽々と退ける……なんてして見せたら反発する気も起きないでしょうね」


 貴族を助ける……という目的は特に無かったんだけど……あの時は姉さんを助けるのに必死だったから。

 助けられなかった人もいるけど、結果的に沢山の人が救われたのなら、良かったと思う。


「リクは、本当にすごい数の人を救っているわね」

「本当に。国の英雄と称えるのも当然ね。中には神のように称える貴族もいたわよ?」

「神様扱いはちょっと……」


 称えられたりするのは嫌じゃないけど、神様扱いはね……。

 隣に本物の神様もいるんだし……と思いながら隣で皆の話を聞いているユノをちらりと見た。


「リクはすごいの!」


 当の神様の反応はこれだからなぁ……。

 神という事を誇示せず、こういうところがユノの長所かもしれないけど。


「それで、そのパレードはいつ行われるんですか?」

「大通りの修繕が終わった後だから、約1週間後ね。今から急いで準備をして……という感じだから、多少は前後するかもしれないけど。王都にいる貴族が協力的だから、問題無く準備もスムーズに終わりそうよ」

「反発が無いという事は、貴族達への調整しなくても良いという事ですからね」


 パレ―ドの開催日を聞くソフィーさんに、姉さんが考えながら答える。

 その補足として、ヒルダさんが付け加えるけど、確かに反発されずにスムーズに準備が進む事だろうと思う。


「成る程。それでしたら、リクは1週間後までに戻って来れたら良いのですね?」

「そうね……あぁ、りっくんに対しての準備とかもあるから……明日から6日後には戻って来て欲しいわ」

「わかりました。そういう事らしいぞ、モニカ」

「わかったわ。それも考えて予定を考えるわね……エルサちゃんに乗るのなら移動時間を短縮できるから……」


 俺が王都へ帰って来なければいけない時期を聞いて、モニカさんに声をかけるソフィーさん。

 限られた時間で、全ての依頼を回るための予定を立ててるモニカさんは、うんうん唸りながら地図と依頼書を見比べている。

 移動はエルサに頼るとはいえ、魔物と戦ったりもするから、結構時間に余裕はないのかもしれないな。


「それにしても、リクは完全にこの国にとっての英雄になるんだな」

「突然何を?」


 フィリーナが、突然しみじみと言い始めた。


「リク、今までどれくらいの街を救って来たの?」

「え? えーと……俺だけの力じゃないけど……ヘルサルと、エルフの集落に……王都?」

「ヘルサルの時は、魔物の規模からして周辺の村やセンテも含めて救った事になるぞ」

「エルフの集落なんて、国における魔法技術に影響を及ぼしかねなかったしねぇ。そう考えると、国全体に影響するものを救ったとも言えるわね」

「さらに王都……国の中枢をも救った。まさに救国の英雄と言える存在だな」


 フィリーナの問いかけに、今まで行った街や戦った魔物の事を思い浮かべる。

 ソフィーさんが付け加え、姉さんも補足し、とどめにアルネが言葉を発する。


「そこまで仰々しくないと思うけど……」

「何を言ってるの? 今までのりっくんの活躍は皆認めているわ。そのためのパレードでもあるんだしね」

「まぁ……そうかもしれないけど」

「ふふふ、リクはこう言われるのはあまり好きじゃないのかしらね」

「いや、好きとか嫌いとかじゃなく、どう反応して良いのか……」

「もっと胸を張って誇っても良いと思うがな」

「まぁ、そうしないのがリクの良いところなんだろうな」


 俺は英雄様だ! とか言って自慢するのはあまり好きじゃない……というより何か嫌だ。

 俺一人の力じゃないと思うし、皆の協力があって成し遂げた事だと考えてるしね。

 でも、そんな俺を見て、最後にソフィーさんが言った事を皆が納得した様子だ。

 ……確かに誇らし気にしてる俺……というのは自分でもあまり想像できなかった。


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