第210話 王都滞在決定
「私は、リクさんと依頼をこなせるのなら、王都が良いと思うわ」
「マックスさん達とは離れる事になるけど、良いの?」
「確かにそれは寂しいけど、今生の別れというわけでもないしね。それに、冒険者としての経験を重ねたいなら、王都の方がチャンスは多いでしょ?」
「確かにね。ソフィーさんは?」
「私も王都に滞在するのに賛成だな。ヘルサルは居心地は良いが、自分達の成長を考えるとそこにとどまっておくわけにはいかないだろう」
モニカさんは、冒険者の経験も考えて王都にいたいという意見だ。
マックスさん達と離れても、もう会えないわけじゃないしね……いざとなったらエルサで簡単に行き来できるか。
ソフィーさんの方も、王都に滞在するのに賛成らしい。
訓練だとか特訓だとか、自分を高める事に興味があるソフィーさんらしい意見だ。
「リクさんは、どうしたいの?」
「そうだな、リクの方はどうなんだ?」
「俺は……俺も王都にいたいと思う」
ヘルサルの居心地が良いのは確かで、王都にはまだ不慣れな部分が多い。
けど、ここには姉さんがいるからね……もう会えないと考えていた相手に会えた事が、やっぱり大きな理由だと思う。
「陛下がいるからね」
「そうだな、陛下だな」
モニカさんとソフィーさんにも、俺が考えている事はバレバレらしい。
ちょっと恥ずかしいけど、こればっかりは仕方ないよね、うん。
「……結局、全員王都にいる事に賛成って事で良いんだね?」
「そうね」
「うむ」
「じゃあ明日、マックスさん達を見送る時に伝えよう」
全員一致で王都にいる事に決まった。
それなら意見を聞く必要も無かったかなとも思ったりするけど、皆で話をしたという事が大事な事もあるから、これはこれで良いのだろうと思う。
「私は、先にギルドを回って知り合いをあたろうと思う」
「さっき話してた事ね?」
「こういうことは早い方が良いだろうからな。マックスさん達には悪いが……」
「父さん達は気にしないわよ。その分、リクさんとしっかり見送って来るわ」
「そうだね」
情報を集めるのなら、早い方が良いだろうからね。
それに、マックスさん達を見送ったら、俺もマティルデさんあたりに話を聞きに行こうと考えているし、依頼を探す事も考えてる。
「リクさんは、父さん達を見送ったら中央ギルドね」
「マティルデさんに話を聞かないといけないからね。まぁ、突っ込んで聞く事もできないだろうけど」
「それは仕方ないだろうな。情報が出たら幸運……というくらいだな」
「私はどうしようかしら……?」
俺がマティルデさんに話を聞こうとしている事は、モニカさんにはわかっていたみたいだ。
姉さんが言っていたように、世間話程度に聞いて、何か情報が得られればラッキーと思うくらいにしようと思う。
冒険者ギルド全体が悪事を……というわけでもないからね。
「モニカは、ギルドを回って良い依頼が無いか確認してもらえないか?」
「私が? 統括ギルドマスターに直接話せるりくさんでもいいんじゃない?」
「いや……リクだとな……」
ソフィーさんがモニカさんに、依頼の確認をお願いしてるけど……俺もモニカさんと一緒で、マティルデさんに聞けば良いようなきがするんだけどな?
「基準がリクになるとまずいだろう。リクはAランクだしな」
「……それもそうね。わかったわ。父さん達を見送った後は、依頼を確認する事にするわね」
「……俺基準だと何かまずいんだろうか……?」
「いや、Aランク基準で選ばれるとな……私とモニカはまだCランクだぞ? それにリクはAランクにとどまらない実力だしな」
「そうねぇ……私達にはできない依頼でも、リクさんなら簡単にこなしそうだから……リクさんには物足りないかもしれないけど」
「……わかったよ。物足りないという事は無いと思うから、それで良いと思う」
確かに、俺がAランクだからとそれを基準に依頼を選んでしまったら、モニカさんやソフィーさんにとって難しい依頼になるのかもしれない。
まだまだ経験が足りないから、ソフィーさんに敵う気がしないと思ってるんだけどなぁ。
「それとリク、話は変わるんだが」
「どうしたんですか、ソフィーさん?」
「それだ。その丁寧な言葉遣いを止めて欲しいんだが」
「え? でも、ソフィーさんは年上だし、冒険者の先輩だし……」
ソフィーさんが急に話を変えて、俺に丁寧な言葉遣いを止めて欲しいと言って来た。
けど、俺としては、年上で先輩冒険者のソフィーさんを相手と考えると、当然の事だと考えていた。
「……年上なら私もなんだけどね……まぁ、私は今の方が良いから良いけど」
「モニカさん?」
「なんでもないわ」
「確かに私の方が色々と経験はして来ているんだろうが、パーティだからな。リーダーに丁寧な言葉で話されるというのもな……それに、丁寧に話されるのはむず痒い」
モニカさんが何やら呟いているけど、よく聞き取れなかった。
それはともかく、ソフィーさんの方は、丁寧に話されるよりも普通に話してる方が良いらしい。
同じパーティだから、そういった遠慮に繋がる事は避けたいのかもしれない……勝手な想像だけど。
「わかりまし……わかったよ。ソフィーさん」
「さんもできれば止めて欲しいな。モニカもそうだが、フィリーナやアルネを相手にするのと同じようにしてくれればいい」
「わかった、ソフィー」
「うむ、よろしくな、リク」
ソフィーさん……ソフィーに丁寧に話しかけるのを止める事にして、二人で軽く握手をする。
俺の勝手な考えだけど、少しだけソフィーとの距離が縮まった気がする。
……そう考えると、やっぱり丁寧な言葉を使う事で、どこか遠慮があったのかもしれないね。
「さて、方針も決まった事だし、そろそろ良い時間ね」
「少し遅いくらいの時間だな。それじゃ、私達は帰るぞ」
「わかった、二人共、また明日」
「ええ、また明日。父さん達の見送りの時に」
「私は、ある程度話を聞いたらまた夕方頃にここに来る事にする」
夕食を食べてから、かなりの時間が経ってる。
完全に暗くなっているだけでなく、もうそろそろ皆寝静まるくらいの時間だ。
部屋から退室する二人を見送って、ヒルダさんの淹れてくれたお茶が冷めてしまった事を申し訳なく思いつつ、一口。
「淹れなおしましょうか?」
「いえ、このままでいいですよ」
そのまま冷めたお茶を飲んで、ソファーを見た時に気付いた。
「……またユノがこのままか……」
まぁ、寝ていたユノを、二人に連れて帰ってもらうのも手間だから仕方ないね。
毛布を掛けられて健やかに寝ているユノを抱き上げて、ベッドに寝かせる。
その隣に、いつの間にか俺の頭にくっ付いて熟睡しているエルサを降ろす。
「それでは、私はこれで」
「はい、ありがとうございます」
ずっと静かに控えてくれていたヒルダさんにお礼を言う。
一礼して隣室へと戻ったヒルダさん。
「皆がいなくなるとやっぱり静かだね」
俺一人で使うには広すぎる部屋を見渡して、ポツリと呟く。
ベッドにはユノやエルサが寝ているけど、その寝息が聞こえる以外は何も聞こえない部屋は少し、寂しい気がした。
「余計な事を考えないで、さっさと寝よう」
変に考えてしまうと、寂しさが込み上げて来てしまいそうだったので、すぐにベッドに横になる。
エルサのモフモフに癒されながら、広いベッドでそのまま就寝した。
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