第211話 祝勝パレードも決定
翌日、朝食後はゆっくりとユノやエルサと過ごす。
マックスさん達の見送りには、昼食を食べた後で間に合うだろうからね。
何かしら旅の準備をすると言っていたから、さすがに朝早くに王都を発ったりはしないはずだ。
「はい?」
「りっくん、私よ」
「姉さん?」
「どうぞ」
ソファーでまったりしていると、ノックの音が聞こえ、外から姉さんの声が聞こえた。
ヒルダさんがドアを開けてくれて、部屋の中に姉さんが入って来る。
「どうしたの姉さん。こんな朝に?」
「昨日りっくんに伝え忘れてた事があってね」
「伝え忘れた事?」
何だろう……?
姉さんが俺に伝える事といえば、多分昨日の会議の事なんだろうと思うけど、他に重要な事ってあったっけ?
「大通りが魔物に破壊されているのは知ってるわね?」
「うん、まぁね」
魔物達は、城を目指していたらしいから、被害自体は大きくないらしいけど、それでも屋台が壊されたりなどで、今はそれらの対処で封鎖されているはずだったね。
観光のために見ておきたかったんだけど……。
「その大通りの修繕が、数日で終わる見込みなのよ。そこから準備をして……今日からだとあと1週間くらいね」
「1週間後に何かあるの?」
「会議で決まった事だけど、りっくんの祝勝パレードをやる事になったわ」
「え……?」
祝勝パレードって何……?
いや、パレードは知ってる、うん。
祝勝と言うのも、この間魔物達が襲って来たのを倒したからだろうとは思うんだ。
まぁ、結構な危機だったから、それを祝うためにパレードを行う……というのも納得できる。
……でも、俺のって……何?
「何とぼけた顔をしてるの? りっくんがいたからこの王都……城は守れたのよ? それくらいやるのは当然でしょ?」
「城を守ったのは俺だけじゃないんだけど……。それよりも、何で俺がメインなの? 姉さんとかが出た方が良いんじゃない?」
「もちろん私も出るわよ、女王だしね。でも、今回はりっくんがメインなの。救国の英雄ってやつね」
「……一体何でそんな事に……」
会議で決まった事だって言ってたけど、重要な会議でなんで俺をメインにパレードをやるなんて決めてるの?
目立つ事はあまりしたくないんだけどなぁ……。
「会議ではほとんど満場一致だったわよ? もちろん私も賛成したしね」
「姉さんまで……止めてよ……」
「何を言ってるのよ。私の弟……りっくんを皆に自慢できるのよ? この機会を逃す事はできないわ!」
姉さんもそうだけど、この国の貴族達が参加した会議なんだから、貴族でも無い俺がメインのパレードを行う何て事、誰か反対する人はいなかったんだろうか……?
ほとんど満場一致と言ってるけど、こんな事に賛成する貴族と女王様……なんとなくこの国の行く末が心配だ。
「でも、皆俺が姉さんの弟だって知らないわけでしょ? 自慢しても……」
「まぁ、そこはね……広く知られるわけにはいかないと思うけど。それでも、りっくんがすごいんだって皆に認知されるのは良い事よ!」
「はぁ……」
昔もこんな事があったような気がするなぁ……。
何だっけ……あれは確か、俺が運動会の徒競走で1等になった時だ。
あの時はしばらく姉さんに連れられて、ご近所さんに自慢して回ってたっけなぁ……。
小さい時の事ながら、俺は恥ずかしかった思い出しかない。
……姉さんが喜んでくれるのは、嬉しいんだけどね。
「だから、基本的に自由に行動しても良いけど、1週間後……そうねぇ、準備もあるから……6日後から数日は予定を開けておいてね」
「……はぁ……わかったよ。……何でこんな事に……」
「それじゃ、りっくん。マックスさん達によろしくねー」
「……はいよ」
そう言って姉さんは笑いながら部屋を出て行った。
何度も言うようだけど……本当、何でこんな事に……。
「リク様、おめでとうございます。王都でパレードが開かれるとは……」
「はぁ……ありがとうございます。……ヒルダさん、この国では頻繁にパレードが行われるんですか?」
「いえ、多くとも数年に1度……以前は陛下の即位の時でしたか。民へのお披露目も兼ねて行われました」
「そう、ですか……女王様の即位とか、その時くらいしか行われないパレードなのに……良いのかな……」
姉さんが部屋を出て行った後、黙って話を聞いていたヒルダさんが、俺にお祝いの言葉を掛けてくれるが、俺としては気分的にあまりおめでたい事じゃない。
ヒルダさんによると、パレードは数年に1度行われる程度で、姉さんが即位した時に行われて以来らしい。
そんな重要というか、珍しい催しなのに俺がメインなんてなぁ。
それからしばらく呆然としながら、朝食を食べて満足気なエルサのモフモフを撫でて心の平穏を保ちながら過ごした。
ユノの方は、パレードがどんなものかあまり理解していないようで、とにかく楽しい事が行われると思ってワクワクしている様子だった。
「おいしかったのー」
「満足なのだわ」
「はぁ……昼を食べたらなんとか落ち着いたな」
何もする事なく、ただボーっとしたまま昼まで過ごし、ヒルダさんに用意してもらった昼食を頂く。
ここ数日、何かで動き回っていたから、たまにはこんな時間も悪くないね。
……パレードの事が無ければ……だけど。
「さて、落ち込んでても仕方ない。マックスさん達を見送りに行くか」
「私も行くの」
「当然、私もなのだわ」
いつまでもソファーでだらっとはしていられない。
立ち上がって用意をしている俺に、エルサが頭にコネクト。
ユノも一緒に来るようだ。
「それじゃ、ヒルダさん。行って来ます」
「行ってらっしゃいませ」
ヒルダさんに挨拶をし、部屋を出る。
城の中をエルサとユノを連れて歩き、外に出た。
途中、すれ違った兵士達からは、敬礼をされたりもしたけどそれにも少しは慣れた。
……見覚えのある顔も増えて来たなぁ。
「ええと、俺達が来た門は確か南門だから……あっちか」
城から町へと移動し、そこから門を目指す。
王都へ来た時は、衛兵の隊長さんに案内されたから、詳しい道順は覚えていない。
しかもあの時は大通りを通ったしね……今は通れないから、道順を辿る事は出来ない。
けど、前にマックスさんとマリーさんの案内で、王都の地理を教えてもらっていたから問題なく行けるだろう。
「こうして見ると、やっぱり人が多いなぁ。さすがは王都だね」
「皆忙しそうなの!」
「もっとのんびりすれば良いのにだわ」
「ははは、まぁ皆やる事があるからな」
人が集まればお金も物も集まる。
そうなれば、忙しく働く人も増えるのかもしれない。
あと、脇道のような場所にも人が多く行きかっているのは、大通りが通行不可になってるからかもしれない。
俺は忙しなく行きかう人達を眺めながら、散歩気分で南門へ向かって行った。
「お、あれはモニカさんかな」
地理をある程度知っていたおかげで、迷うことなく南門にたどり着けた。
近道なんかも教えてもらっていたから、考えていたよりも少し早く到着したくらいだ。
「おーい、モニカさーん」
「モニカー」
南門の内側、馬や馬車を止めるためだろう、広場のようになった場所に一人佇むモニカさん。
何やら誰かと話してる様子だけど、俺達が声を掛けるとこちらに気付いたみたいだ。
「リクさん! ユノちゃん! エルサちゃんも」
「……私はついでなのだわ?」
「俺とセットみたいな感じだからじゃないかな?」
「それなら仕方ないのだわ」
こちらを見て声を上げるモニカさん。
ついでのように名前を呼ばれたエルサが、少し引っかかったようだけど、もう定位置になってしまった俺の頭にずっといるからね。
エルサとしては、俺とセット扱いされるのは構わないらしいな。
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