第208話 冒険者の関与



「バルテルが集めていたのは精鋭……つまり戦える者よ。そう考えると冒険者は都合が良かったんでしょうね」

「冒険者は兵士ではありませんが、日常に戦闘をしていますから。……その冒険者達なのですが、一つの共通点があったのです」

「共通点? それは……?」


 冒険者が全員戦う事を目的としているわけじゃないけど、一般の人達より戦えるのは確かだ。

 戦闘に関する試験もあるくらいだからね。

 ランクが上がれば上がる程、強い魔物と戦うような依頼が増えるから、戦闘に関してスペシャリストになって行く……らしい。


「全ての冒険者が帝国のギルド出身だったのよ」

「帝国の? しかしあそこは……」

「ソフィー殿は知っているようですね」

「帝国の冒険者に何かあるんですか?」

「帝国では、軍が冒険者に似た行動……魔物討伐を率先してやっているからな。冒険者ギルドが他の国よりも機能していないんだ。数は少ないが、いないわけじゃないし、それなりのランクにまでなる強者もいると聞いたが」


 姉さんやハーロルトさんの代わりに、ソフィーさんが説明してくるれる。

 帝国だと、軍が魔物討伐をやるから、冒険者が活躍する場が少ないという事なのかもしれない。

 魔物が少なければ、討伐依頼も少ないし、依頼が少なければ冒険者が稼いだりする事もできない。

 国民も、国が魔物を排除してくれるのなら、余程の事が無い限冒険者に頼ろうとは思わないはずだ。


「帝国の中でも、少数ながら活動していた冒険者達がバルテルの所に集まっていた……と見るべきね」

「バルテルが自ら集めたのか、帝国から勧められたのかはわかりませんが……」

「冒険者本人達からは?」

「それが、仲介する者がいたそうで、皆その者からの紹介でバルテルに雇われたとの事です」

「冒険者達は、自分達が何に加担しているのか知っていたのですか?」

「仲介する者にそれとなく教えられるそうです。その時、誓約書を書かされるそうです。それを破ると別の冒険者か他の者に命を狙われる事になる……と」

「だから、一度請け負った以上、抜け出せなかった……と?」

「そのようです」


 冒険者なのだから、誰かから依頼されてそれをこなすのは当たり前だ。

 だけどバルテルは、そこに誓約書を追加して裏切らないようにしていた、という事か。

 ギルドを通していないと思われる依頼だから、一度請け負えば逃げ出す事はできなかったんだろう。


「それじゃ、冒険者の人達は被害者では?」

「いえ、それがそうでもないのです。中には自分から参加した者もいるようで……」

「帝国ではまともに依頼で稼げないから。金払いの良い依頼に飛びついたんでしょうね」

「高ランクになっても、生活に困窮する者がいるくらいだからな。帝国の冒険者は厳しいという話はよく知られている」

「成る程……でもそれなら何で他の国に行ったりしないんですか? 帝国以外でも冒険者として活動できるでしょう?」

「それはそうなんだが……」

「帝国……というより生まれ育った場所への愛着等、理由は様々あるようです」

「それぞれ何かしらの理由があって帝国を離れられないってわけ」


 自分が生まれ育った場所に愛着が、というのはわかる。

 それに、家族がいる人もいるだろうから、苦しくても帝国を離れないのに理由があるんだろう。

 冷静に考えれば、確かにそうだね。


「救いは、冒険者の中にアテトリア王国の者が混ざっていなかった事ね」

「他国の冒険者も、ですね。全て帝国からの冒険者です。これも帝国からの関与を疑う要因にもなりますな」

「そうね。まぁ、それでも、事を起こした人の中に冒険者が混じってた事で、冒険者ギルドには問い合わせる必要があるわ」

「そう言う事なら、確かにそうだね」


 この国の冒険者が関わっていないということであっても、冒険者が関わっていた事なんだ、国としてはギルドに問い合わせる……というより、問い詰めるのは当然の事だと思える。

 冒険者ギルドが国に属さず、中立を保ち、複数の国に広がる組織であるから尚更だ。


「これに関しては、この王都にある中央ギルド……統括に問い合わせてみたわ。……今は返答待ちね」

「マティルデさんに……」


 マティルデさんがこの件に関して、何か関与しているとは考えたくない。

 でも、ギルドとして繋がっている事だから、もしかしたら何か知っているかもしれない。


「そういえばりっくんは統括に会った事があるのよね?」

「Aランクに昇格する時にね」

「そう、なら……それとなく探りを入れてもらえないかしら?」

「探り?」

「陛下……それは……」

「冒険者として、すべき事ではないのはわかるわ。だから、軽く聞いてみるだけで良いの。今回の事で、他国の冒険者が関わっているのを聞いた……とかね。りっくんならこの程度の情報を知っていても、ギルドの方がおかしく思う事もないし」

「んー……ギルドを疑う事はしたくないけど……まぁ、世間話程度なら……」

「それで良いわ。これで重要な情報が得られるとまでは、あまり期待してないしね」


 姉さんの物言いはともかく、重要な情報を得られないのは間違いないだろう。

 Aランクとはいえ、一介の冒険者にギルド組織の内情を話したりはしないだろうからね。


「会議の内容としてはこんなものね」

「ええ、リク様の叙爵に関する事、バルテルのと帝国の関係……この場所で先日話されていた事は、ほとんど確認だったため、省かせてもらっています」


 この部屋で、帝国からの使者に関する事、第1皇子の事なんかは、会議ではほとんど確認で終わったみたいだ。

 まぁ、帝国に確かめるわけもいかないから、それくらいしかできないよね……あとは推測するくらいか。


「会議のほとんどの時間が、りっくんへの褒賞だとか、叙爵だとかの話だったわね」

「それ、皆が集まってする重要な会議で議題とすべき事なの?」

「だから私はりっくんに参加して欲しかったのよ。りっくんが実際に断れば、時間も少なくて済んだはずよ?」

「それは……ごめん」


 姉さんには素直に謝る。

 でも、自分の事で、会議のほとんどの時間が取られるとは想像できないと思うんだ……。

 貴族の人達を助けたのは本当だけど、そこまで感謝されたり、貴族になる事を乞われたりするなんてなぁ。

 俺が窮屈な会議を嫌って、ヴェンツェルさんと訓練に逃げたのは確かだからね。


「まぁ、それは良いわ。もう終わった事だしね。……それで、皆はどう思う?」


 姉さんが皆に、今まで話し合っていた事の意見を求めるように視線を巡らせた。


「陛下……私達が意見をしても良いのでしょうか?」

「構わないわ。外部からの意見は大事だしね」

「とは言え……既に話し合われた事……有効な意見が出せるかどうかは……」

「それも構わないわ。今は確証がなく様々な推測が飛び交っている段階よ。参考になるかどうかはともかく、色んな意見が聞いてみたいだけだからね」


 モニカさんとアルネは、意見を求められて戸惑っている様子だ。

 ここまで黙って話を聞いていたけど、だからといって良い意見が出るとは限らないのは当然だね。

 二人共……俺も含めて、皆政治だとかそういった事に縁遠い生活をしてきた人達ばかりだから。



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