第207話 バルテルと帝国の狙い



「でも、俺貴族にはあまり……」

「りっくんが貴族になりたがってないのは知ってるわ。ヘルサルの時もそうだったものね」

「ですが、もう一度考えて頂けないでしょうか?」


 姉さんとハーロルトさんは、俺に貴族になって欲しいと考えているようだ。


「……まぁ、りっくんが貴族をやりたくないのなら、無理にする事もないわ」

「陛下?」

「ハーロルト、貴族は嫌がる者に無理矢理やらせるものでもないわ。領地も管理しなくちゃいけないしね。……まぁ、やる気がないからこそやってもらいたい、というのはあるんだけど……」

「それはどうして、姉さん?」

「貴族になる事にやる気があるなんて、野心があってもおかしくないでしょ? 貴族になる事を嫌がる人なんて、普通はいないけど……そんな人だからこそ、欲を出さずに領地を平和に管理してくれると思うの」

「私も、陛下と同意見です」

「成る程……」


 やる気がある、イコール野心があるという理屈はわかる。

 全てがそういうわけじゃないと思うけど、何かしらの権力欲だったりがある人程、特権階級である貴族になりたいと思うものだろう。

 それが悪いわけじゃないんだけどね……領地をしっかり治めて、悪巧みをしたりしないのであれば。

 バルテルみたいにね……。


「まぁ、いきなり言われて、はいそうですかと貴族になるものじゃないわね。とりあえず、今は考えておいて欲しいの」

「個人的には、リク様に貴族になって頂きたいのですが……できれば前向きに考えて欲しいと思います」

「わかりました……」


 貴族になる気は今のところないけど、これだけ乞われているのだから、一度しっかり考えてみよう。

 冒険者として気ままに……というのとは別に、何かをしたいと思う時が来る可能性もあるからね。

 そういう時に、貴族になっておくのは悪い選択肢じゃない……窮屈そうだけど……。


「あまり長い時間は取れないけど、しばらく考えておいてね」

「わかったよ」


 どれだけ考える時間があるかわからないけど、保留という事で貴族の話は終わった。

 話が俺の事だからか、姉さんとハーロルトさん以外の皆は、黙って話を聞いている。

 フィリーナやアルネなんかは、俺が貴族になる事を期待している雰囲気が感じられるけど……エルフの関係で何かあるのだろうか?


「リク様には、貴族になる事を考えておいて頂くとして……バルテルの事ですな」

「そうね。短い期間だけど、バルテルの周囲を集中して調べる事で、わかった事が色々あったわ」

「バルテルは何を考えてあんな事を?」


 貴族になるかどうかの話を終えて、今度はバルテルに関する話だ。

 帝国との繋がりとか、何故あの時急に行動したのか、気になる事は色々ある。


「バルテルが何を考えていたか……確実な事は本人以外には計る事しかできませんが……軍事力……戦力を求めていたという事ははっきりしています」

「戦力ですか?」

「この国に属さない戦力を集めていたようね。私を捕まえて謁見の間にこもった時も、精鋭を連れていたでしょ?」

「うん。ユノには敵わなかったみたいだけど」

「……魔物の方が強かったの」


 バルテルは戦力を集めているとの事だけど、謁見の間に突入した時、だれ一人として連れていた精鋭とやらはユノに敵わなかった。

 実際に戦ったユノの感想としては、魔物の方が強いらしい。


「ユノちゃんと比べたらかわいそうよ。あれでも、この城の兵士数人で一人に対処できるかどうか……という強さだったわ。ヴェンツェルもいなかったしね」

「そういえば、ヴェンツェルさんは動けなかったんだっけ」

「ヴェンツェル様がいれば、精鋭にももっと対処できたでしょうが……それを狙って食事に一服狙ったのでしょう」

「そうでしょうね。この国の最大戦力を戦闘できないようにしておいてからの、謁見の間を占領……以前から計画していたんでしょうね」

「でも、何のためにそんな事を? この国を乗っ取ろうとでも考えてたの?」

「いえ、それは無理でしょう。陛下を捕らえたとて、王に成り代わる事はできないと思われます」

「国は王だけで成り立っているわけじゃないからね。国民が納得しないわよ。バルテルもその事はわかっていたはずよ」

「それもそうか」


 姉さんを殺すなりして、自分が王に成り代わろうとしても、他の人達が納得しないだろう。

 それこそ、貴族全てを排除したとしても、そんな事で無理矢理簒奪した王位なんて、民が離れて行くのは間違いない。

 結果、国力が弱まって他国に吸収されるか、謀反なりで王位を奪い返されるか……という方向に向かうだろうと思う。

 バルテルの政治力が凄いのであれば、もしかしたら……という可能性もあるけど、そんな人だったらそもそもあの時無理に謁見の間を占領したりはしないだろうしね。


「推測になりますが……バルテルは帝国と通じて、この国を明け渡すような算段だったのではないかと。集めた戦力で帝国側に付き、その功績で帝国の要職に入り込もうと考えていたと……」

「でも、頭に血が上りやすい性格だったからね。私にりっくんを利用する事を否定されて、短絡的に行動した可能性が高いわ」

「計画的に一服盛ったのに?」


「帝国の使者の時にも感じた違和感になるのですが、おそらく向こうはこの王都に魔物が襲撃して来る事を知っていたのだと思われます。食事に一服盛って、動ける兵士を減らし、魔物による襲撃で大打撃を与える……という事だったのではないかと」


「全部推測になるんだけどね。でも、ハーロルトが調べた情報には、帝国はこの国との国境付近まで軍を進めていたらしいの」

「軍を……攻めるつもりだったの?」

「その可能性が高いわ。バルテルの策謀と魔物の襲撃で大打撃を受けた王都……そこに帝国の軍による攻撃……ひとたまりもないわね」


 帝国は、そうやってこの国を乗っ取ろうという算段だったのかもしれない。

 状況による推測だから、確実ではないけど……以前聞いた第1皇子の性格を考えると、それが一番しっくり来る気がした。


「まぁ、帝国に軍を出していた事を問い詰めても、魔物の集結を察知して、それに備えていた……なんて言い訳をされそうね」

「そうでしょうな……確証が無いので、言い逃れられて終わりでしょう」

「……あとは、冒険者ギルドへ問い合わせて、何返って来るか……ね」

「冒険者ギルド? 何か関係があるの?」


 冒険者ギルドと言われて思い浮かぶのは、ヘルサルのヤンさんやセンテのベリエスさん。

 あとはつい最近あった、王都の統括ギルドマスターであるマティルデさんか……。

 あの人達が、今回の件に関わっているとはあまり思えないんだけど……?


「バルテルの私兵がね……ほとんど冒険者だったの」

「元冒険者から、現役の冒険者……それ以外にもいましたが……大半が冒険者でした」

「冒険者がバルテルに協力を? でもそれだとギルドの方が黙っていないのでは?」

「冒険者がそんな事に加担するなど……!」


 ギルドは、複数の国に広がる組織だ。

 そのため、街や人が魔物に襲われたりした時に、それを助ける行動というのは推奨されるけど、いずれかの国に加担するような事は許されていないはずだ。

 特に犯罪行為に近い事に関しては、厳しく見ている……とヤンさんに聞いた。

 姉さんを捕らえたり、貴族を殺したりなんて事を許すはずがない。

 ソフィーさんは、自分と同じ冒険者が加担していたと聞いて、憤っている様子で思わず声を上げた。


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