第206話 会議の結果を話し合う
「よし、試してみよう。皆並んで」
「はーい」
「うむ」
「ドライヤーがここでできるなんてねぇ」
「気持ちいのよねぇ」
「楽しみなの!」
「あ、さすがに自分の髪は自分で梳かすか、誰かにやってもらってね」
「「「「「はーい」」」」」
皆の元気良い返事を聞きながら、両手でドライヤー魔法を発動させる。
いつもよりほんの少しだけ魔力を使って、両手から温風が出て皆へ行き渡る。
考えていた通り、両手だといつもより広い範囲に温風を出す事ができるね。
まぁ、本来のドライヤーのように、温風を集中させたり、冷風に切り替えたりできないから、効率は良いのか微妙だけど……。
「はぁ……気持ち良かったわ」
「やはりこれが無いとな」
「エルフでもこれを使えるようにならないかしら?」
「……難しいな……リクだけが使える魔法と考えた方が良いだろう……研究するのは良いかもしれんがな」
「髪がさらさらなの!」
「りっくん……私の専属として雇われてみない!?」
「姉さん、それはちょっと……」
髪を乾かした後、皆は満足気な表情と共に、目をとろんとさせている。
そんな姿も男として何かくるものがあるけど、それに関しては全力で無視だ。
ともかく、皆が満足したようで何より……一部エルフが魔法を開発しようと検討してるけど……。
でも姉さん、さすがにドライヤーをやるだけの専属はちょっとどうかと……いや、まぁ、女王様の専属と考えると、職業として成り立つのかもしれないけどね。
「ちょうど良かったみたいですね。陛下、皆様、夕食の準備が整いました」
皆がうっとりとしていると、ヒルダさんが他のメイドさん達と部屋に入って来て、料理の載ったお皿を配膳し始めた。
「食事なのだわ! キューもあるのだわ!」
テーブルに置かれて行く料理に目を輝かせて興奮するエルサ。
皆もそれぞれドライヤーから戻ってきて各々座り、食事を始めた。
「はぁ……おいしかったのだわ……キューも食べられて満足なのだわ」
「城の料理といっても、そこまで贅沢ではないのね。……素材は良い物を使ってるみたいだったけど」
「もちろん、時と場合によって贅沢な料理というのもあるわ。けど、いつも贅沢をしてばかりだと費用が掛かって仕方ないでしょ? 一般の民よりは良い物を食べてるのでしょうけど、節制はしないとね」
「陛下の言う通りですね。ですが、私もモニカと同様、もっと贅沢な物を食べているのかと思っていました」
「そうね……人間の権力者がどれだけ贅沢をしているのか気になってたけど……」
確かに皆の言う通り、素材は良い物を使ってるとわかるんだけど、料理自体はそこまで贅沢に感じる物じゃない。
姉さんの言う通り、贅沢ばかりをしていられない……と言う事だろう。
何かの催しや、賓客を迎える時なんかには贅沢な料理を出すんだろうけどね。
「失礼します。陛下、よろしいでしょうか?」
皆が料理をお腹いっぱい食べて、食後のティータイムと洒落込んでいた頃、ハーロルトさんが部屋を訪ねて来た。
もしかしなくても、夕食を取り終わるのを待ってたんだろうと思う。
「ハーロルト、来たわね。それじゃ、始めましょうか。あ、畏まらなくても良いから、皆のんびりとね」
「何をするの、姉さん?」
「ハーロルトと今日会議で話し合った事のまとめね。りっくんに関係のある事もあるから、ここでするように指示していたの」
「皆がいるけど、それは良いのかな?」
「ほとんど先日の魔物襲撃や、帝国とバルテルに関する事よ。皆知ってる事だからね、聞いていても問題ないわ」
「むしろ、皆さんに聞いて頂き、外部からの意見というのも欲しいところですな」
「そう言う事なら……わかりました」
ハーロルト単が来た事で、少しだけキリッとした姉さんが場を仕切り始める。
どうやら、今日の会議の事をここで話し合うつもりらしい。
国家の重要事だから、部外者の俺や皆がいるのは良いのか気になったけど、それは大丈夫らしい。
元々関わってた事だから、という事だ。
まぁ、ここにいる人達は俺が信頼している人達だし、姉さんとしてもハーロルトさんにしても、信用に値すると考えての事なんだと思う……多分……姉さんの事だから保証できないけど……。
「それでは、まず……今回巻き込まれた各貴族、ですかな」
「そうね……りっくん。貴方、貴族になる気は無いの? 以前断ったのは知ってるけど」
「貴族? 急にどうしたの姉さん?」
まずは貴族の事からのようだ。
バルテルは姉さんと一緒に、王都に集まった貴族も巻き込んで捕らえていた。
その時、犠牲になった人もいたみたいだから、これも重要な事として話し合われたんだろうというのはわかる。
けど、何でいきなり俺が貴族になるという話になるのだろう?
「今回の事で、貴族のほとんどはリク様に命を救われました。それは陛下も同様です」
「皆、目の前でバルテルを打ち倒したりっくんの事を評価しているわ。人によれば、財産の半分を出して称えるという人まで出たくらいよ」
「助けたのは本当だけど……財産の半分って……さすがにそれは大袈裟じゃない?」
放っておいたら、掴まった貴族はもっとバルテルに殺されてた可能性は確かにある。
だけど、財産の半分も出して俺を称えるとか、大袈裟だと思うんだけど……。
むしろそんな事をして、お金を出す貴族の方は大丈夫なんだろうか? 領地経営とか傾いたりしないのかな?
「それだけりっくんに感謝してるって事よ。まぁ、それは国から褒賞を出すという事でなんとか収めたんだけど……」
「そう、なんだ。まぁ、あまり過剰な褒賞じゃ無ければ……」
「ですがリク様。あの時謁見の間に入ったリク様ならご存じの通り、何人かの貴族は……」
「……バルテルにやられていました、ね」
謁見の間に俺やユノが突入した時、すでに何人かの人は殺されてしまっていた。
抵抗したからなのかどうか、理由はわからないけど、転がって全く動かない人達は、一般の人よりも豪華な服装をしていたように思う。
全員かどうかはわからないけど、数人は貴族の人が混じっていた事は間違いないだろうね。
「貴族は世襲制なんだけど……世継ぎがいる家はまだ良いんだけどね……いない家もあったのよ……」
「その場合、別の有力者を貴族に任命し、その家が管理していた領地を受け継ぐことになります」
「バルテルのせいで、数家世継ぎがいない状況になったわ……」
「まだ家を継いで時間が経っていない者もいましたから……先代がいる所はまだマシでしょう」
「……それで、空いた貴族の所を俺に?」
「そういう事。有力者の中から爵位を授けるのにも色々手間がかかるのよ。その点りっくんなら信頼も置けるし、残ってる貴族達も反対する者は出ないわ」
「というよりも、救われた貴族達が推薦したがっている、という状況です」
今回の事で、世継ぎがいない貴族家は他の有力者に叙爵して交代せざるを得ないという事だ。
そこのうち、一つに俺を組み込むことで色々な手間を省こうとしているんだろう。
まぁ、叙爵をするのにも、その相手を探すのにも色々手間がかかるのはわかるし、信用ができる人が貴族になるのなら、それは歓迎するべき事だろう……とは思うけど。
前に一度爵位の話はあったけど、その時は断ったよなぁ……と考えながら、今度はどう断ったら良いのかを頭の中で考え始めた。
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