第205話 何が大きいかは内緒です



「モニカ……大きい……」

「きゃ! ……ちょっとソフィー……いきなり触……」

「ほぉ、これは中々……」

「……ヒルダもそれなりに……」

「あっ! ちょっと……ユノ様! そこは……」

「……ふかふか……気持ち良い……」


 のんびりしていると、さっきよりもさらには大きな声が聞こえて来た。

 聞こえる内容は断片的だけど、健全な俺には色々と想像力を掻き立てるような声だ。


「……あまり長居はしない方がいいな」

「もう出るのだわ?」

「これ以上聞いていられないからな。エルサも出るか?」

「存分にプカプカしたのだわー。あっちの皆も存分に遊んでるのだわ」


 俺が立ち上がると、エルサもお湯から上がってふわりと浮き上がる。

 ……エルサの聴力なら、あっちで何の会話がされてるのか聞こえてるんだろうけど……聞かない方が良いよな。


「モニカは一番大きいらしいのだわ」

「その情報は言わなくて良いんだよエルサ!?」


 体を適当に拭いて脱衣場に向かう途中、エルサが余計な事を言ったので、顔が赤くなるのを我慢しながらエルサに突っ込む。

 ……何が大きいのかはさすがに聞けないっ!


「はぁ~、やっぱり気持ちいのだわ~」

「ここで寝るんじゃないぞー」


 脱衣場に出てすぐ、何故かこみ上げる恥ずかしさを誤魔化しながら服を着る。

 その後端にいくつか並んでる木で編まれた和風の椅子に座って、火照った体を冷ます。

 ……恥ずかしい情報のせいじゃなく、お湯で温まっただけだからな。


 その前にある小さなテーブルに乾いたタオルを敷き、その上にエルサを乗せてドライヤーの魔法。

 気持ち良さそうに温風を浴びてるエルサに一応注意はしておく。

 まぁ、小さいから持ち運ぶのは楽だけど、ここで寝るよりは部屋に戻って寝た方がいいだろうしね。


「……気持ち良くて眠いのだわー。ご飯まで寝てるのだわー」

「はいはい、おやすみー」


 部屋に戻ると、エルサはふわふわと飛びながらベッドへ向かう。

 眠気からか、いつもよりフラフラしてるように見えるけど、無事ベッドに到着してすぐに寝入った。


「リク、戻ってたのか」

「アルネ、お疲れ」


 エルサが寝るのを見守っていると、風呂場からアルネが出て来た。

 ほかほかと湯気を上げてるから、しっかりお湯に浸かっていたみたいだ。

 俺達が大浴場に行ってからすぐと考えると、けっこく長い時間だな……アルネも割と風呂好きっぽいな。

 まぁ、男だから誰かと一緒に入るのを楽しみにすることはないんだろうけど。


「はぁ~中々楽しかったわ」

「陛下……さすがに大浴場でお戯れは……」

「気持ち良かったわねぇ」

「最高の贅沢だな」

「汗も流せたし、満足ね」

「いっぱい泳げたの!」


 アルネと二人で待ったりしていると、女湯ではしゃいでいた女性陣が帰って来た。

 風呂上がりの皆は、髪がまだ濡れていて、いつもより色気が増している気がする。

 ……顔が熱くなるのを何とか抑えながら、皆に声をかける。

 しかしユノ……やっぱり泳いだんだな……まぁ、皆が気にしてないなら良いんだけど。


「お帰り。皆満足したようだね」

「ただいま、リクさん」

「りっくん、先に上がってたのね。……ちゃんと体を洗ったの? 清潔にしてないと女の子に嫌われるわよ?」

「姉さん……さすがに子供じゃないんだから、ちゃんと体は洗ったよ。あの石鹸、姉さんが?」

「良い匂いでしょ? 直接作ったわけじゃないけどね」


 やっぱりあの良い匂いがする石鹸は姉さんが作らせた物らしい。

 女性陣も、あの石鹸を気に入ったのか、頷いて満足気な表情だ。


「お湯から上がった後も、良い匂いがしますね」

「でしょう?」

「これに慣れると、他では風呂に入れんな……」

「陛下は、この石鹸を普及する予定はないのですか?」

「そうねぇ、まだ試作段階だから……でも、いずれは国内に広く売り出すつもりよ」

「姉さん……女王なのに商売とか考えてるの?」

「りっくん……国の財政というのはね、いつも逼迫してるの……贅沢ばかりではいけないのよ?」


 皆あの石鹸の事が気になるようだ。

 確かに、あの石鹸と大浴場を経験して慣れてしまうと、一般のお湯に浸かる事のできないお風呂では満足でき無さそうだ……特にお風呂が好きな人はね。

 フィリーナの関心は石鹸が他で手に入らないかという事みたいだけど……多分、売り出されたらすぐに買うつもりなんだろうな……エルフの集落にもお風呂はしっかりあったし。

 姉さんは財政のやりくりのためなのか、自分の実益も兼ねてるのかわからないけど、いつか売り出す気はあるみたいだね。

 まぁ、国の財で贅沢をして、食いつぶすような気でいる女王じゃなくて良かったと思うべきなのかもしれない。


「夕食の方はどう致しましょうか?」

「そうね……皆は?」

「食べさせてもらえるなら、ここで食べたいな」

「大丈夫でしょうか?」

「ええ、それはもちろんです」

「皆で食べましょう、私もここで食べるわ」

「陛下と食事……エルフの長老達が聞いたら泡を吹きそうね」


 そろそろ皆お腹が減った頃だろう、夕食を食べるのにもちょうどいい時間になって、ヒルダさんが皆に質問する。

 姉さんも皆と食べる事を楽しみにしてるみたいだ。

 国の最高権力者が気軽に皆と食事をするのは良いのかと、少し心配になるけど、ヒルダさんは何も言わないし、本人が良いと言ってるから、良いんだろうと思う。

 フィリーナの言う長老ってあの自分の事しか考えないエルフ達の事なんだろうけど……あっちは放っておけばいいと思う。


「食事なのだわ!?」

「こういう事にはすぐ反応するな、エルサ……」


 食事の話になると、今まで気持ち良さそうに寝ていたエルサが反応して起きる。

 さすがは食いしん坊ドラゴンだ。


「エルサちゃん、悪いけどもう少し食事は待ってね。リクさん?」

「ん?」

「ドライヤーをお願いできるかしら? ここ数日あれが無くて……」

「あぁ~あれが無い風呂上りは少し物足りないな」

「久しぶりにリクのドライヤーね。あれは癖になるのよねぇ」

「りっくん……ドライヤーって?」

「私はもうやってもらったのだわー」

「エルサだけずるいの!」


 まだ髪がしっとり濡れている女性陣。

 ドライヤーの事を知らない姉さん以外は、あの気持ち良さが癖になっているみたいだ。

 それは良いんだけど……この人数を一度にやるわけには……。


「りっくん?」

「あぁ、魔法でね。ドライヤーを再現したもどきのような温風を出すんだよ。それで髪を乾かすってわけ」

「……何ですって……ずっと欲しかったものがここに!」

「……私は、夕食の準備をして参りますので……」


 姉さんに聞かれ、ドライヤーもどきの魔法の事を教える。

 どうやら、姉さんもドライヤーは欲しかったようだ。

 俺と同じような魔法を使ったり、似たような原理で髪を乾かす物はないみたいだから、仕方ないか。

 ヒルダさんはこの間に夕食の準備を始めるようで、部屋から退室した……まだ髪が濡れたままなのに……今度ドライヤーを体験させてあげよう。


「でも、さすがにこの人数を一度には……」

「リクさん、いつも片手でやってるでしょ? 両手ではできないの?」

「……両手かぁ。できるかも……」


 モニカさんの言葉に、少し考える。

 いつもは片手から温風を出して、エルサの毛をブラシで溶かしながらだから……それをブラシを使わずに両手でやれば、皆に行き渡るように温風を出せるかも……。



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