第204話 リラックスお風呂タイム
「一人は確かに、少し……寂しいな……」
「私がいるのだわ! 私をしっかり洗うのだわ!」
「あぁ、エルサ。こっちで良いのか?」
「リクを一人にはしないのだわ。それに、リクに洗ってもらった方がスッキリするのだわ」
いつも頭にエルサがくっ付いてるから、もうそれが普通になっているとは気付いてなかった。
モフモフが気持ち良いのは確かなんだけど、慣れ過ぎてしまってるのかもね。
……眼鏡の人が、眼鏡を掛けてるのが普通になり過ぎて、外すのを忘れるのと似てるかな?
「ありがとうな。じゃあ、今日はいつもよりしっかり洗ってやるからな」
「お願いするのだわー」
エルサは昨日の事があるから、俺を一人にしないようにしてくれたのかもしれない。
他の皆がエルサの毛の洗い方が荒いというのもあるのかもしれないが……まぁ、今回はエルサに感謝しつつ、しっかり洗わせてもらおう。
「それにしても、これだけの広さを一人で使うのは贅沢だなぁ」
「そうなのだわ? でも、私が大きくなれる程じゃないのだわ」
「そりゃ、エルサはな……人間一人で使うには大き過ぎると思うぞ」
脱衣場は、脱いだ服を入れる籠があり、その籠が細かく分かれた棚に置かれている。
その棚がいくつかあって、天井も高く広さもあるけど、さすがにエルサが大きくなれる程じゃない。
というか、この世界の人間が作った風呂場で、ドラゴンが入る事を想定して作った物なんてないだろうからね。
「籠とか棚とか……どこかの旅館みたいだな……広過ぎる事以外は」
「リクの記憶の中にある……日本? とかいう場所の雰囲気なのだわ」
籠や棚があるせいか、雰囲気は温泉宿の脱衣場のように見える。
……これは完全に、姉さんの趣味な気がする。
温泉とか好きだったからなぁ。
「よし、風呂に入るぞ」
「行くのだわー」
服を全て脱ぎ去り、籠の中に常備されていたタオルを持って浴場へ。
飾り気のない木の扉を開けて中に入ると、そこは温泉旅館の雰囲気なんて全くない洋風な場所だった。
「大理石……? こんな場所は初めて見た……」
「ずっとお湯が流れ続けてるのだわ」
湯船には、ライオンっぽい形の像から延々とお湯が吐き出され続けている。
お湯を循環させるためなんだろうけど、給湯器とかが無い世界でこれは十分に贅沢だろうと思う……多分魔法具を使ってるんだろうけど。
他にも所々太い柱があったり、床も含めて全て大理石のような物で作られていて、完全に日本の風呂場とはかけ離れたデザインだ。
「……ぼーっとしてたら風邪ひくな。さっさと体を洗おう」
エルサを連れて洗い場へ。
そこには木の桶が置いてあり、湯船とは別にお湯が溜めてある場所で、そのお湯を使って体を洗うんだろう。
さすがにシャワーは無いのか……ん?
「デフォルメされた蛙の絵に……ゲロゲロ? 銭湯かよ!」
「急に叫んでどうしたのだわ?」
お湯をすくうため、桶を手に持って気付いた。
木で作られた桶には、デフォルメされたかわいらしい蛙の絵が描いてあり、その上にゲロゲロと書かれている。
完全に日本の銭湯にあるようなプラスチックの桶の様相だ。
……本当、姉さんの趣味が所々入ってるなぁ。
そもそも、こういった桶はもう今の日本にはあんまり見られないだろうに……。
「はぁ……まぁ、あまり考えていても仕方ないか。よし、エルサ、洗うぞー」
「よろしくなのだわ」
まずはエルサに目を閉じてもらい、ざっとお湯で流す。
その後、洗い場にあった石鹸を使ってごしごしと毛に付いた汚れを落とす。
ブラシを持って来ていなかったので、手櫛で丁寧に毛の間に入った汚れを取り除きつつ、お湯で洗い流す。
いつもより少し多めに時間を掛けて、エルサを洗い、自分の体も洗う。
「それにしても、この石鹸……良い匂いがするな」
「ちょっと鼻がムズムズするのだわ。けど嫌いじゃないのだわ」
犬とか猫だと、人間用の香り付き石鹸で洗われるのを嫌う事があるとは聞いた事があるけど、エルサはこの香りが気に入ったようだ。
ヘルサルや、エルフの集落ではこんな石鹸は無かったから、これもきっと姉さんの趣味だろう。
知識があれば、石鹸に香りを付けるのも簡単な事だって聞いた事があるしね……素材があればだけど。
というか、男湯の方にそんな石鹸があって需要はあるんだろうか……?
良い匂いのする石鹸の香りをさせて戦場に向かう兵士とか……ちょっと嫌だ……汗臭ければ良いというわけではないんだけども。
「これだけ大きな湯に浸かるのは初めてだなぁ」
「体が浮かぶのだわ!」
体を洗っていざ湯船へ。
銭湯暗いは行った事があるけど、これ程の広さは初めてだ。
学校にあるような、長さ25メートルのプールよりも大きく、よく屋内にこんな場所を作れたものだと感心する。
それも、男女別だからこれが二つか……。
「国の中心だからできる贅沢なんだろうな」
まぁ、広いと言っても、さすがに兵士全てが一度に入れる程じゃないだろう。
兵士の数がどれだけいるかはわからないけど、今日の合同訓練に参加した兵士達が入れば、そこまで広く感じる事はないんだろうと思う。
……それでも、普通の家にある風呂より広く使えるだろうけど。
「浮かぶのも気持ち良いのだわー」
「……無防備だな……それだけ気持ち良いって事か」
エルサは俺から離れ、お腹を上にして仰向けの体勢で湯船にプカプカ浮かんでる。
鼻と口、お腹がお湯から出ていて、目や手足、尻尾はお湯に浸かってる状態だ。
……ユノとは違って泳ごうとするんじゃなくて、浮かぶだけか……暢気なエルサらしいな。
そう思ってふっと微笑を漏らしながら、俺もしっかり肩まで湯船に浸かる。
「ふぅー……」
こういう時、溜め息のようなものが出てしまうのって何でだろうか……?
確か、何か理由があった気がするけど、そんな細かい事を考えることなく、お湯に浸かる気持ち良さを満喫する。
エルサと二人、のんびりと湯船に浸かって過ごしていると、何かが聞こえる気がする。
「……リク……です……?」
「りっくんは……なのよ」
「……さすが……ですが……」
「……陛下……さすがに……」
「ユノ……私も……」
「……楽し……フィリ……」
この場所は俺とエルサだけだ。
それは脱衣場にいる時も、浴場に入った時も確認してる。
それなのに誰かの声が微かに聞こえて来る。
……もしかして、女湯の方から?
「壁が薄いとかそういう事じゃないと思うけど……」
浴場は壁一枚隔てた場所に男女で別れて作られてるらしい……銭湯とかと大体同じなのはわかる。
それでも聞こえてくるのは……あっち側にいる人達がはしゃいでるせいか。
「女三人寄れば、姦しい……か」
しかも向こうはユノを含めて女性が6人、そこに大浴場という要素を加える事で、より一層はしゃぐ結果になっているようだ。
「まぁ、楽しんでるみたいだから気にする必要はないか」
そう結論付け、聞こえて来る声を気にしないようにして、またのんびりと湯船に浸かる。
広い湯船に浸かるのは気持ちが良い……ちょっと眠くなってくるくらいだね。
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