第196話 技をコピーするリク




「どうした! 英雄の力はこんなものか!」


 回転を続け、俺に攻撃し続けるヴェンツェルさんが吠えた。

 ……俺との手合わせを楽しみにしてくれてたみたいだからね……これくらいで終わったら期待外れなんだろう。

 それなら、ヴェンツェルさんの期待に答えなくちゃね!

 俺は続く連続攻撃の中、右手で切り付けて来る剣にタイミングを合わせ、真っ直ぐ逆方向からヴェンツェルさんの剣に当てる!


「何ぃ!?」

「そうそう攻めさせてばかりじゃありません……よ!」


 力任せにヴェンツェルさんの剣を押し返し、回転を止める。

 俺の行動……自分の回転が止められたヴェンツェルさんが、驚き声を上げるのを見ながら、今度はこちらとばかりに木剣を振り上げ、大上段で振り下ろす。


「ぐぅ! 剣の重さがあるとは言え、これほど重い一撃とは!」


 頭の上に両手の剣を交差させるようにして、俺の振り下ろしを受け止めるヴェンツェルさん。

 これで完全に、ヴェンツェルさんの足が止まった。


「それじゃ、今度はこちらから……ですね。面白そうだったので、さっきの回転……使わせてもらいますよ……ん!」

「何を言……何だと!?」


 交差しているヴェンツェルさんの剣から、木剣を滑らせ自分の前に持ってくる。

 そこから剣を右手だけで持って腕を真っ直ぐ横に伸ばす。

 ヴェンツェルさんに声を掛けながら、足に力を入れて体を左回りに回転させる。

 自分がやった事と同じ攻撃を繰り出される事に驚くヴェンツェルさん。


「逆だと!? しかし剣一つでは……!」


 俺がヴェンツェルさんとは逆に回転する事に驚いているが、確かに俺の剣は一つだけ。

 恐らくヴェンツェルさんの攻撃は、二つの剣を繰り出す事で、手数を増やす事が重要なのだろう。

 遠心力があるから、剣の重さがあっても扱いやすくなる。

 それと同時に、相手には遠心力によって加わった大剣の重さがもろに圧し掛かる……という感じ……かもしれない。

 だけど、俺の剣は一つだけ……重さはあるけど、手数はもちろん足りない……だったらどうするか……答えは簡単だ……


「手数は、回転を早くすれば問題ありませんよね?」

「そんな……馬鹿な……くっ!」


 回転しながら、ヴェンツェルさんに大きな木剣を打ち据えて行く。

 何とか二振りの大剣を使って防御しているヴェンツェルさんだが、段々とその動きにも遅れが出て来る。

 俺は足に力を籠めつつ、少しづつ回転の速度を早くして行く。

 ……ヴェンツェルさんの剣に当たった木剣を滑らせ、さらに回転、そして当たれば滑らせ、回転させるの繰り返し。

 力で押し込むのでなく、剣が止められたらすぐに滑らせる事によって、回転を止める力を逃すように動く。

 そうする事で、回転は止まる事なく加速していく……。


「くっ! ふっ! はっ! なんと!」


 じりじりと、ヴェンツェルさんが後ろに下がる。

 それを追いかけるようにして、足運びに気を付けながら回転を続ける俺。

 ……こんなとこで足がもつれたりしたら、格好悪いからね。

 一撃一撃は、木剣の重さ以上に力を籠められないけど、その代わりの回転力と手数で押し続ける。


「ぐあ!」


 手が痺れて来たのか、俺の木剣を受ける力が弱まって来たヴェンツェルさん。

 ついには、二振りの剣が大きく後ろに弾かれた。


「ふぅ……」

「はぁ……はぁ……どうして、追撃をしない?」

「……これは手合わせですからね。すぐに決着を付けなくても良いでしょう?」


 ヴェンツェルさんが剣を持ったまま万歳の恰好になった時点で、俺が追撃したらこの手合わせはあっさり終わっていたと思う。

 だけど、俺はそうしなかった。

 ……実は、回転に勢いが付き過ぎて、あのままヴェンツェルさんに木剣で一撃を入れたら、大怪我をさせてしまいそうだったからなんだけど……。

 木剣の重さと回転力から来る遠心力で、少なくとも骨が折れるくらいは確実だと思う……見よう見まねの俺の技術じゃ、軽く飛ばすくらいに止める事は出来ないからね。

 それを隠しながら、ヴェンツェルさんにはすぐ決着を付けないためと言っておく……手加減したと感じて、怒られるかな?


「はぁ……はぁ……ふっ……はっはっは! そうだな、こんな楽しい手合わせだ。すぐに終わらせるのはもったいない!」

 良かった……ヴェンツェルさんは気を悪くするどころか、楽しく感じてくれたみたいだ。

 俺の本心では、出来るだけ早く終わらせたいとも考えているけど、経験豊富な人の動きは参考になるので、手合わせを長引かせるのも悪くないとも思ってる。


「ふぅ……それでは、仕切り直しと行こうか」

「はい」

「では、行くぞ! はぁ!」

「ふっ!」


 息を整え、構え直すヴェンツェルさん。

 それに合わせ、今度は腕を降ろして力を抜いた構えに切り替える俺。

 正眼の構えだと受け止めるのが楽な代わりに、ヴェンツェルさんの攻撃を弾いたり、避けてこちらから攻撃するのに向かない事に気付いた。

 腕を降ろした状態なら、体の方も動かしやすいし、向こうの剣の軌道に合わせて切り上げれば、弾く事も出来るし攻撃にも転じれる。

 ……ユノがよく力を入れずに剣を持っている姿に似ているけど……決して真似したわけじゃない……と思いたい。


「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……さすがは英雄……だな。最後までまともに私の剣が当たるような要素が無かった……」

「いえ、結構ギリギリでしたよ?」

「はぁ……はぁ……はっは! 息も切らせず、よく言う!」


 しばらくヴェンツェルさんと剣を打ち合って、手合わせを終了させる。

 時間にして、30分くらいだろうか……誰かとこんなに長い時間戦闘をしていたのは初めてだ。

 最後は、剣を交差して防御しているヴェンツェルさんを、俺が野球のフルスイングの振り方で剣と体ごと弾き飛ばして終了だ。

 ……もう少しで、観戦していた兵士達にヴェンツェルさんの体が激突しそうだったから、力加減を気を付けないと……。


 息を切らせて、吹き飛ばされた場所から立ち上がり、俺の所まで戻って来るヴェンツェルさんと言葉を交わす。

 豪快に笑っているその表情からは、全力を出せた晴れ晴れしさのようなものが感じられた。

 俺としては、体の大きさに似合わず、速い動きで連続攻撃をしてくるヴェンツェルさんに合わせるため、最小限の動きを意識して対処してたけだ。

 それでも、大きく重い木剣を持って息が切れて無い自分に少し驚いている。

 まぁ、魔物達が襲撃して来た時は、これ以上に動いてるし、走ったりもしてたのに息が切れなかったから……体力がかなり付いているんだろう……契約のおかげ……かな。


「「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」」

「うぇ!?」


 ヴェンツェルさんお互い笑い合っていると、観戦していた兵士達が一斉に吠えた。

 一体どうしたんだ!?


「え? え?」

「はっはっは。お前とヴェンツェルの手合わせに感動しているんだろう」

「……そうなんですか、マックスさん?」


 湧き上がる歓声に、俺が一人で戸惑っていると、マックスさんが笑いながら近づいて教えてくれた。

 

「あぁ。あれ程の戦い、早々見られるものじゃないからな。……しかしヴェンツェル、以前より技の切れが増したようだな」

「その分、一撃の威力がな……さすがに年には勝てんよ」

「衰えか、それは仕方ないな」

「だが、代わりに技の切れを追求しているがな。しかし……それも全てこの若い英雄には通用しなかった……それどころか、俺の技をすぐに使われたからな……あれはショックだ」



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