クリスマス特別編 赤く染まるクリスマス
このお話は、クリスマス特別編となります。
本編とは一切の関係が無い、おまけ的な内容になっておりますので、ご了承下さい。
登場人物の発言が本編とかけ離れている場合もあります。
「はぁ~今年ももう少しで終わりねぇ」
「早いねぇ。でも姉さん、年が過ぎるのが早いとか言い過ぎると、年齢が……」
「失礼な事を言うのはこいつか! こいつか!」
「痛っ! 痛いからやめて! 俺が悪かったから!」
「二度と言わない?」
「……二度と言いません」
「なら良いわ」
姉さんと二人、王城内の一室でこたつに入りながらまったりとした時間。
ヒルダさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、こうやって過ごすのは至福の時だね。
まぁ、余計な事を言って姉さんに蹴られたけど……女王様として、足癖が悪いのは如何な物か。
しかし、このこたつ……何でここにあるんだろう?
日本での知識がある姉さんが用意させた物なんだろうけど……動力は一体何なんだろう……コンセントとか無いし……。
まぁ、魔法で何とかしてるんだろうと結論付けた。
それよりも、城に用意された俺の部屋よりも広い場所で、真ん中にぽつんとこたつがある方がシュールで気になるな……。
洋風で立派な城に和風のこたつ……合わない事この上ない。
「年の瀬ねぇ……何か忘れてるような気がするけど……」
「気のせいじゃない? こうやってこたつでのんびりしてる事より重要な事なんてないよ」
「りっくんは昔からこたつに入るのが好きだったわねぇ」
「これでエルサのモフモフがあれば、完璧なんだけどね」
こたつでのんびりと温まりながら、姉さんと二人でまったりと過ごす。
エルサは今、ユノとモニカさん達に連れられて、どこかへ行っている。
何か大事な用があるからという事らしいが……エルサが寒いから断ろうとしたけど、美味しい物が食べられるからと言われて陥落した。
「あの子達、何をやっているのかしら?」
「さぁ? 美味しい物って言ってたから、料理でもしてるのかもね」
料理ならエルサを連れて行く理由が無いのだが、こたつの魔力に魅入られた今の俺にはそんな細かい事は気にならない。
適当に姉さんと話しながらしばらくの時間を過ごした。
「リクさん、帰ったわよ」
「ただいま、リク」
「中々有意義だったぞ」
「まさかあんな方法があるなんてね」
「楽しかったの!」
「疲れたのだわ。美味しい物のためとはいえ、こんな事は二度としないのだわ」
「おかえり、皆」
「おかえりー。一体どこに行ってたの?」
まったりしていると、モニカさん達が連れ立って帰って来た。
その顔にはエルサ以外満足そうな雰囲気がある。
何をしてたのか知らないけど、エルサが疲れてる様子だな……。
しかし、皆もこの城に慣れたもんだ……国の中心、一番重要な場所なのに、何故か自由に出入りしている皆を見てそう思う。
「メアリーさん、今日は何の日か知ってますか?」
「何の日……? 何かあったっけ?」
モニカさんが姉さんに親し気に話しかける。
姉さんの事をメアリーと呼ぶ事にしたようだ……何かコソコソと二人で話してたから、その時取り決めたのだろうと思う。
二人が仲が良いのは良い事だね。
でも、モニカさんが言う今日って何かある日なんだろうか?
「今日は、クリスマスだぞ」
「そう、クリスマスなのよ!」
「エルフも盛大に祝うお祭りだ」
「……あぁ! クリスマス! そう、そう言えばそうね。何か忘れてた気がするのはクリスマスの事だったのね!」
「あー、そう言えばクリスマスなんてあったなぁ」
ソフィーさんがクリスマスと言って思い出す。
日本だと、カップルで過ごすお祭り……海外だと家族で過ごす日。
恋人いないし、家族もいなかった俺にとっては無縁のお祭りだったなぁ……寂しい事に。
エルフにとっても大事な日らしいけど、そもそもこの世界にもクリスマスなんてあったのか……。
「私が決めたの!」
「あぁ、ユノか……ユノなら仕方ないな」
ユノは地球に遊びに来る程だったんだから、クリスマスを知っていてもおかしくはないだろう。
それで、神様の力とやらを使ってこの世界にもクリスマスを広めたのかもしれない。
「それで、クリスマスだからってどこに行ってたの?」
「クリスマスと言えば……これよ! ……んっしょ……!」
「よ……っと。フィリーナ、こっちを持ってくれ」
「はーい。よい……っしょ」
「ふ……っと」
クリスマスだからと、何かあって何処に行っていたのか聞く俺。
それにモニカさんが答えようとしながら、部屋の外から数人で協力をしつつ何かを持ってくる。
数人がかりだから、相当重そうなんだけど、一体何が出て来るのかな?
「ほら、これよ!」
「……ワイバーン?」
「ただのワイバーンじゃないぞ。この時期にだけ出て来る赤鼻ワイバーンだ!」
大きなものを持って来て、自慢するように大きな胸を張るモニカさん。
それを見ると、以前王城に攻め入って来たワイバーンと同じような形の魔物が、止めを刺された状態で転がされていた。
ソフィーさんが説明してくれるけど……赤鼻ワイバーンだって……?
確かにそのワイバーンは、以前見たものと違って、鼻の部分が赤く染まっているけど……と言うかこれ、血じゃなかったんだ。
「クリスマスはこの赤鼻ワイバーンを食べて、子供に骨をプレゼントするお祭りなのよ」
「ワイバーンの肉で体を、骨を持ってお守りに……ワイバーンの丈夫さを願うお祭りだな」
「……ええと……」
「姉さん、知ってた?」
「いえ……私は知らなかったわ。ここで生まれて、クリスマスも何度か祝ったけど……単にパーティを開くだけだったから」
フィリーナとアルネが自信満々に説明してくれるが、俺が知ってるクリスマスはそんな殺伐とした催しじゃないはずだ。
いや、確かに鶏の丸焼きだとか、七面鳥だとかは食べるけど……子供に骨って……。
戸惑っている様子の姉さんに聞いてみたが、姉さんの方も知らないみたいだ。
「知らないのも無理はないわ。これは国の南で行われてる風習だからね」
「南……と言う事はアルネ達も?」
「エルフ達も毎年このお祭りをしているぞ」
エルフの集落は、ヘルサルの南……この国の南端にあるから、この風習を知っているんだろう。
しかし、これがクリスマスかぁ。
「クリスマスって、赤い衣装を着た髭のオジサンと、赤鼻のトナカイが空を飛んで……子供に欲しいプレゼントを渡すって催しだった気が……」
「日本ではそうよねぇ」
「赤い衣装の髭オジサンなんて、不吉な事を……」
「え、不吉なの、ソフィーさん?」
日本でのクリスマスの認識を姉さんと確認していると、ソフィーさんがサンタの特徴に対して不吉だと言う。
何でだろう……?
「赤い服……それは髭を生やした巨漢の男が人や魔物を問わず、殺戮を繰り返した証だ。元々は白い服だったのだが……殺戮を繰り返すうちに、返り血で真っ赤に染まったのだ」
「……それは……確かに不吉ね」
ホラー嫌いの姉さんが、顔を青くしながらソフィーさんの説明を聞いている。
……確かに、そんな感じの都市伝説は日本でもあったけどさ……。
「その名も、殺戮髭オジサン、サ・ン・タクロースだ」
「その話は止めて……恐ろしくなるわ……」
「闇夜に現れ闇夜に消える……実在した伝説の狂人と言われているがな……」
「クリスマスの日にだけ復活して、再び殺戮を繰り返すらしいわね」
「……そんな話なの……」
「何というか……笑い話にもならないね」
殺戮髭オジサンという二つ名には笑えば良いのか何なのか……。
実在したと信じられてるそのサ・ン・タクロース……サンタは今もこの世界で恐れられてる存在らしい。
「それなら、赤鼻のトナカイは?」
サンタがそうなら、トナカイはどうなんだろう?
トナカイという動物が、この世界に存在しているのかわからないけどね。
「トナカイというのは知らないが、赤鼻ならここにいるだろう。ほら」
「そうね。ここにいるわ」
「……確かに赤鼻だね……」
ソフィーさんが示したのは、皆が仕留めて来た大きな体のワイバーン。
さっきも確認したけど、確かに鼻が赤い。
もしかして、これが赤鼻のトナカイだと言うのだろうか……?
「この赤鼻ワイバーンを食べる事で、殺戮髭オジサンは襲ってこないのだ」
「ワイバーンの匂いが嫌いらしいのよね」
「……ワイバーンの肉が嫌いなのでは無かったか?」
「嫌いなのは骨よね?」
「諸説ある……という事ね」
トナカイかどうかは別として、諸説はありながらも、赤鼻ワイバーンはサンタを寄せ付けない魔除け的な効果があるみたいだ。
どうでも良いけど、ソフィーさん……サンタを殺戮髭オジサンと言うのは止めて欲しい……笑いそうになるから……。
ワイバーンを食べると聞いた時にも感じたけど、やっぱり殺伐とした催しなんだなぁ。
「以前までは、この日はひたすら殺戮髭ダルマ……いえ、オジサンが襲来して来ないように震える日々だったわ」
「まぁ、冒険者の間では腕試しの相手として、歓迎されていたがな……やられた者も少なくないが……」
モニカさんは、サンタを怖がって、来ないように願ってたらしい。
さっきの言い伝えが本当なら、確かに恐怖の存在だから、それも仕方ないと思う……むしろ女の子として普通なのかな。
どうでも良いけど、髭ダルマと言い間違えたのは何なんだろう……確かに髭ダルマの方が語感が良くて言いやすいけど……、
でも、ソフィーさんの方は、違うようだ。
冒険者の腕試しで歓迎するって……しかもやられたって事は、実際に襲われた人がいるって事だよね?
「まぁ、今回は運よく赤鼻ワイバーンも手に入った事だしね。これで襲われる心配もないわ」
「エルサ様がいてくれたおかげだな。ワイバーンの巣に飛んで行くのも楽だった」
「ほんと、エルサちゃんのおかげで助かったわ。ワイバーン自体はユノちゃんが倒してくれたし」
「遊び相手としてはまだまだだったの」
「急に乗せて飛べとか言われたのだわ。疲れたのだわ」
「……お疲れ様」
エルサとユノがいるおかげで、ワイバーンに負ける心配もないし、群れている巣に行くのも楽だったんだろう。
しかし……それだけ苦労する赤鼻ワイバーンだけど……他の人はどうやって食べたりしているんだろうか……?
あまり手に入らないから、高級食材だったりするのかもしれない。
「じゃあ、リクさん。後はお願いね」
「え?」
「え? じゃないぞ。私達は赤鼻ワイバーンを仕留めて来た。後はリクの仕事だ」
「俺の仕事って……ワイバーンを料理なんて出来ないけど……?」
「なぁに、やり方は簡単だ。消し炭にしないよう気を付けながら、高火力で焼くだけだからな」
「焼くだけ……それならまぁ、なんとか……」
「消し炭にしてしまわないように気を付けてね」
どうやら、赤鼻ワイバーンを料理するのは俺の役目らしい。
まぁ、焼くだけなら簡単だから、大丈夫だろうけど……フィリーナの言う通り、ちょっと調整には気を付けないといけないかな。
今まで魔物を倒す事だけに魔法を使って来たから、食べるために使うのは初めてだ。
「ワイバーンって美味しいらしいわね。りっくん頼んだわよ」
「まぁ、うん。やってみるよ」
皆がワイバーンから離れたのを見て、魔法に集中する。
こんな所で焼いても大丈夫か心配になったけど、まぁ大丈夫だろう。
部屋にはワイバーンが数体並んでも大丈夫な程の十分な広さがある。
こたつに入る時にも聞いたんだけど、床は魔法に強く出来てるらしいから、何とかなる……と思う。
「それじゃあ……プチファイア」
火力を調整して、小さく絞った魔法の火を放つ。
出力を出来る限り抑えるため、魔法名はプチを付けて小さいイメージだ。
狙い通り、人間数人分の大きさがあるワイバーンの体を魔法の炎が包み、焼き始める。
というか直火で良いのか……今更だけど……まぁ、ワイバーンは熱に強い皮膚を持つと聞いた事があるから、直火くらいじゃないとしっかり熱が通らないのかもしれない。
「こんがり焼けたわねぇ」
「上手に焼けましたぁ!」
「しっかり調節出来てるな」
「食欲をそそる良い匂いだな……」
「ええ、ほんとに」
「美味しそうなの!」
「苦労した甲斐があったのだわ」
それぞれ俺が焼いたワイバーンの様子を見て、感想を漏らす。
ただ、モニカさん……そのセリフはどうだろう……?
「りっくん……ワイバーンをしっかり焼けたのは良いのだけど……床が……」
「あれ? ……魔法に強いんじゃなかったっけ?」
「さすがにリクの魔法にまでは耐えられなかったみたいだな……」
「りっくん……はぁ……城門や大通りも直さなきゃいけないのに……修繕費がかさむわ」
焼いた後のワイバーンの周囲や、その下の床にはしっかりとした焦げ跡が残っていた。
すぐに崩れるとかそういう事は無いだろうけど、焼けてしまった床は変えなければいけない。
ごめん、姉さん。
「まぁ良いわ。それじゃあ皆、食べましょう!」
「「「「はーい「だわ」「なの」!」」」」
姉さんの音頭で皆がワイバーンに群がる。
俺もせっかくだからと、皆と一緒にワイバーンを食べ始めた。
ワイバーンの肉は、高級な鶏肉のようで、とても美味しかった。
特に味付けもせず、ただ焼いただけなのになぁ。
ただ……一つだけ問題があるとすれば、何故か肉から血とは違う赤い果汁のような汁が出る事だ。
美味しい肉を食べる事に夢中になった皆は、俺も含めてワイバーンの赤い汁でいたる所を汚しながらも、ためらうことなく食べ続ける。
食べ終わった後、皆の服や口は真っ赤に染められ、まるで多くの返り血を浴びたように見えた。
その姿は、髭が生えていないだけで、言い伝えにあった殺戮オジサンのようだったという……。
「悪い子はいねがぁぁぁぁ…………ひぃ、いやぁぁぁぁ!」
食べ終わった頃に、何かを勘違いしたヴェンツェルさんが、斧を振りかざして乱入して来たけど、俺達の姿を見て可愛い悲鳴を上げた。
後でその時の事を聞くと、サ・ン・タクロースが複数現れて襲われてしまうのかと思ったと言って筋肉を震わせていた。
……よっぽど怖かったらしい。
俺や皆は、汚れはしたし、色々勘違いされたけど、ワイバーンの美味しさのおかげで概ね満足のクリスマスだった。
あとは暖かくなるまでこたつでゆっくり出来れば、幸せだね。
「あれ……? ユノ」
「どうしたの?」
「クリスマスはユノが広げたんだよな? 地球に来て正しいクリスマスを知ってるはずなのに、なんであんなことになってたんだ?」
「……面白かったでしょ?」
疑問が浮かび、理由を聞いた俺の前には、口と服を赤く染めてニヤリと笑うユノがいた……。
赤い口は、髭にも見えた……。
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