第193話 マックスさんとヴェンツェルさんの関係
「ヒルダさん、今日姉さんは?」
「本日陛下はリク様もご存じの通り、貴族方を集めての会議となっております。……朝食後に開始だったので、もう始まっているでしょう。会議は昼食を挟んで夕方まで行われる予定です」
「そうですか……ありがとうございます」
姉さんは、もう既に会議をしているようだ。
重要な会議だから、ほとんど1日使っての事になるんだろう……それなら今ここにいないのも頷ける。
いつもの姉さんなら、皆が集まるという、俺に関する面白そうな事があると、何故か異様に鋭い嗅覚で察知して参加しようとするからね。
「さて、リク。今日はどうする? 昨日に引き続き、また王都の地理を調べるか?」
「……そうですね……それで良いかもしれま……あぁ、今日はちょっと用があるんでした」
「何か予定が入っていたの? 陛下はお忙しいようだけど……?」
「姉さ……んんっ、陛下とは別の用だよ」
マックスさんが、昨日と同じように王都の裏道等も含めて案内をしようと提案して来るけど、今日は昨夜決まった用があるのを思い出した。
あの熱量の将軍の事を思い出すのは、すこしばかり寝起きにはきついけど……約束したからね、仕方がない。
モニカさんは、俺がここにいる人達とは別の用があるのは、姉さんくらいだと考えているようだ。
思わず姉さんのと呼びそうになって、マックスさんとマリーさんには事情を話していない事を思い出し、陛下と言い直す。
さっきヒルダさんに聞いた時は、部屋の隅だったから聞かれてはいないと思うけど、ちょっとだけ面倒だ。
「そうか……皆で行動するのも良いと思ったんだが……どんな用があるんだ?」
「すみません、マックスさん。実は、昨日部屋に帰って来た後で、将軍……ヴェンツェルさんが訪ねて来まして……」
「ヴェンツェル……おぉ、ヴェンツェルか! 懐かしいな!」
「父さん、知り合いなの?」
説明するため、ヴェンツェルさんの名前を出すと、マックスさんが大きく反応した。
もしかして、ヴェンツェルさんとマックスさんって、既知の仲だったりするのかな?
「知り合いというより、親友とも言えるな。以前王都にいた頃は、よく二人で話したものだ」
「そうだったんですか」
ヴェンツェルさんとマックスさんは、親友と呼べる仲だったらしい。
豪快な性格、大きな体と共通点は多くあるから、意見が合うのかもしれない。
「懐かしいな、ヴェンツェルとはよく、拳を打ち合わせたものだ……。だがリク、ヴェンツェルとの用……という事は……もしかして……」
「はい……手合わせをしてくれと頼み込まれました……」
「やはりか……あいつも変わっていないなぁ」
「昔から、暑苦しく二人で絡み合っていたわよねぇ」
懐かしそうに、ヴェンツェルさんとの思い出を浮かべている様子のマックスさん。
親友と言うだけあって、俺が用と言った内容をすぐに理解したようだ。
手合わせするように言われた事を伝えると、頷いて納得している。
マリーさんも、ヴェンツェルさんの事はよく知っているようで、思い出すように声を出した。
「暑苦しく絡み合うって……変な事を言うな、マリー」
「あら、私から見たらそう見えたわよ? 最初は剣の打ち合いだったのに、何故か最後は拳を打ち合って組み合ってたんだもの」
「……それは……確かに絡み合うように見えますね……」
マリーさんの言葉に、誤解を招きかねないと注意するマックスさんだが、ヴェンツェルさんとマックスさんの手合わせは、そんな感じだったようだ。
体格の良い二人が組み合う姿……暑苦しい絡み合いを想像しそうになったので、頭を振って振り払っておいた。
……俺、ヴェンツェルさんとは剣だけで終わるように気を付けよう……。
「それじゃ、今日はリクさんは別の用になるのね。残念だわ」
「それなんだけど、モニカさん、ソフィーさん」
「どうしたの、リクさん?」
「どうした?」
モニカさんが、俺だけ王都観光に参加出来ない事を残念がっていたところに、声を掛ける。
勝手に決めた事だけど、ヴェンツェルさんとは兵士達も含めた合同訓練としている。
二人を誘わないと、合同の意味が無くなりそうだ。
「えっと、そのヴェンツェルさんとの話し合いで、兵士達も含めて合同訓練にしたらどうか……という話になったんだ。軍以外の、冒険者の参加も刺激になるって言ってたから……モニカさんやソフィーさんもどうかな?」
「軍の合同訓練……?」
「ふむ……それは楽しそうだ」
モニカさんはまだしも、訓練とか鍛錬という事が好きそうなソフィーさんは、きっと参加してくれると踏んでいる。
実際、俺の説明を聞いた二人の反応を見ると、モニカさんは首を傾げるくらいだけど、ソフィーさんの方は興味深々の表情だ。
「メインは、俺とヴェンツェルさんの手合わせらしいんだけど、兵士達と訓練するのも悪くないんじゃないかな?」
「そうだな、兵士達が日頃どんな訓練をしているのか興味がある。参加出来るのなら、私も参加しよう」
「……また特訓なのね……まぁ、良いわ。リクさんにはランクも離されてしまったし、私も頑張らないと。参加するわよ、リクさん」
「ありがとう、二人共」
ソフィーさんは乗り気で、モニカさんの方は、俺との冒険者ランクの差が気になって参加するようだ。
ランクの差は、気にしなくても良いんじゃないかと思うんだけどなぁ。
「その合同訓練とやら……俺達も参加して良いか?」
「え? アルネ達も? まぁ、ヴェンツェルさんの様子からすると、大丈夫そうだけど……」
「この国の兵士や人間達がどんな訓練をしているのか、興味があるわね。エルフ達にも取り入れられそうなら、集落でも皆に伝えたいわ」
合同訓練……というより、人間がする訓練に興味があるらしい。
まぁ、エルフ達は魔法ばかりで、近接戦闘をほとんどしないようだから、興味があるのはわかる。
きっと、集落が魔物達に襲われたことで、防衛意識のようなものも芽生えたのかもしれない。
「もちろん、私も参加するぞ。久しぶりにヴェンツェルに会いたいからな」
「私だけのけ者になるのもね。暑苦しいから、この人とヴェンツェルが絡み合わないように見張っておくわ」
「私も参加するの! 皆と訓練、楽しそうなの!」
マックスさんとマリーさんも続いて参加を申し出てくれた。
経験や知識が豊富なこの二人がいてくれるのは、訓練の質が上がりそうだね。
まぁ、マリーさんの特訓を受けた事のあるモニカさんが、ちょっとだけ暗い顔になったけど……。
しかし、参加する事は止めないけど、ユノは訓練をしなくても十分に強いからなぁ……兵士達が自信を無くさなければ良いけど。
「結局、皆参加する事になっちゃったわね」
「まぁ、皆で行動出来るんなら、良い事じゃないかな」
マックスさんとマリーさんは、もう少しで王都からヘルサルに帰ってしまう。
フィリーナやアルネも、いずれはエルフの集落に帰ってしまうだろう。
俺やエルサ、ユノヤモニカさん、ソフィーさんはまだ王都にとどまるのか、ヘルサルに帰るのかを決めていないけど、いずれバラバラになるのなら、今のうちに皆で行動しておくのも大事なのかもしれない。
……会おうと思えばエルサに乗せてもらえば、簡単だろうけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます