第192話 エルサに癒される



「……キューが美味しいのだわー」

「昼に行った店の料理も美味しかったけど、やっぱり城の料理も美味しいなぁ」

「そりゃあ、良い物を使ってるからね。調理人も選りすぐりらしいし」


 ヒルダさんや他のメイドさん達に用意をしてもらって、姉さんと一緒に部屋で夕食を取る。

 エルサは料理の美味しさよりも、キューがあるかどうかの方が重要そうだけど、俺は料理をしっかり味わう。

 こちらの料理は、素材とかにもこだわっているんだろう、高級な味わいみたいなものを微かに感じられた……けど、俺は違いがわかる程じゃないからなぁ……美味しいから細かい事は考えなくて良いか。

 マックスさんの料理も、昼に行った店の料理も、エルフの集落で食べた料理も、ここで食べる料理も全て美味しいって事で良いか。


「……どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「変なりっくんね……」


 食事中、ふと姉さんの方をジッと見てしまって、それを気付かれた。

 何でも無いと誤魔化しはしたけど、内心平静を保つのに苦労した……。

 俺の記憶にある昔の姉さんと、食べ方が変わってない事に気付いたから。

 姉さんの雰囲気や話し方、その他にも色々あって、姉さんと再会した事をはっきりと自覚していた。

 けど、ふとしたきっかけで姉さんがいた昔の事、姉さんがいなくなってからの事等、色々な事を思い出して涙が出そうになってしまったから……。

 見た目や立場は変わったけど、昔と変わらない姉さんがそこにいる安心感と懐かしさ、嬉しさなんかが溢れて来そうで、それを表に出さないように頑張った。


「それじゃあね、りっくん。また」

「あぁ、姉さん。おやすみ」


 食事も終わってしばらく……お茶を飲んだり話したり、存分にゆっくりした後姉さんは自室へと戻って行った。

 ヒルダさんも隣で待機していて、部屋には俺とエルサだけになる。

 姉さんの後ろ姿を見送る事、部屋の広さも相俟って、何だか少し寂しい気分だ。


「リク、大丈夫なのだわ。リクは色々取り戻したのだわ。これからは失わないように気を付ければ良いだけなのだわ」

「エルサ……ありがとう。エルサには隠せないな……」


 いつの間にか横で、俺と同じくらいの大きさになっていたエルサ。

 そのエルサが、俺の気持ちを察していつになく優しい声で話しかけて来た。


「私とリクは契約で繋がってるのだわ。流れる魔力の感じで、リクの事はよくわかるのだわ」

「そうか……。俺はもう、一人じゃないんだな……」


 エルサの言葉で、今まで……この世界に来るまで長い間一人だった事を思い出して、目頭が熱くなってしまった。

 それを隠すようにエルサのモフモフに包まれるように、抱き着いた。

 いつもはキューの事や食べる事、俺の頭で寝る事くらいしか考えて無さそうなエルサだけど、この時ばかりは長年生きて来たのだと実感する。


「私も、ユノもいるのだわ。リクは一人にはならないのだわ」

「ありがとう、エルサ」


 今の俺にはエルサがいる。

 それに、妹のようなユノもいて、仲間であるモニカさんやソフィーさん、友人のようになってくれたフィリーナやアルネもいる。

 色々とお世話になってるマックスさんや、マリーさんもいるしな……。

 姉さんとも再会したんだ……皆を失わないよう、これからも頑張って行こう。

 この優しい世界に感謝しながら、エルサのモフモフに包まれて……俺は一筋だけ涙を流した。

 これから頑張って行くために……。


「……リク様はまだお若いのに、相当なご苦労をなさって来ていたようですね……」


 隣で待機しているはずのヒルダさんの声が、かすかに聞こえた気がしたけど、それを気にする余裕もなく、俺はそのままエルサに包まれてゆるやかな眠りに入った。



――――――――――――――――――――



「リク、起きるのー!」

「ぐふっ!」


 女の子の声と共に、お腹に重い衝撃が来た!

 思わずくぐもった声を出しながら、悶絶する俺……一体何が……?


「リク、起きたの?」

「ごほっごほっ! ……ユノ……か?」

「モニカ、リクが起きたのー」

「そ、そう……ユノちゃん偉いわね……ここまで勢いよく行くとは思わなかったわ……」


 咳き込んで息を整え、声のした自分のお腹の上に乗っている物体を見ると、ユノが腹ばいになって乗っていた。

 俺が声を出すと、ベッドの横にいたモニカさんにユノが報告しているけど……ちょっと引いた表情をしてる。


「一体何が……?」

「リクを起こしに来たの! モニカにお腹に乗ったら面白そうって言われたの!」

「……モニカさん……?」

「……いえその……ここまでユノちゃんが勢いよく飛び込むなんて思わなくて……軽く乗る程度だと思ってたんだけど……ね?」


 ね? とか言われても、お腹に受けた衝撃は和らぐ事は無いんだよ?

 エルサが言うには、俺はドラゴン並みの頑丈さがあるらしいけど、それは戦闘の体勢に入ってる時の事だ。

 寝ていて完全に油断している状況では、小さいユノでも結構な衝撃だからね。


「ユノ、今度からは、もう少しゆっくりにしてくれるかな? 同じ事が何回もあると、俺の身が持たないから……」

「わかったの!」


 元気よく返事をして、俺から離れるユノ。

 それを見てから体を起こす。

 ……昨日はエルサに甘えるような形で寝たはずだけど……いつのまにかベッドで寝ていた。

 隣には、いつも俺の頭にくっ付いている大きさになったエルサが寝こけている……エルサが運んでくれたんだろうか?


「でもリクさん、この時間まで寝ているのは珍しいわね。……疲れてるのかしら?」


 モニカさんは、ユノに飛び込むよう示唆した事を後ろめたく思っているのか、若干目を逸らしながら聞いて来る。


「疲れてはいないはずなんだけど……」


 そう答えながら、窓の方を見るとすっかり日が昇っているのが見えた……多分、今は昼前くらいの時間だろうと思う。

 エルサのモフモフがよっぽど気持ち良かったのか、いつもより長く寝てしまってたみたいだ。

 まぁ、あのモフモフは飽きる事が無い素晴らしく気持ちの良い物なのは、当然の事だけどね。


「確かにちょっと寝すぎたみたいだね。すぐ起きるよ」


 寝こけているエルサを起こさないように、ベッドから離れる。


「おはよう、リク。よく寝てたわね」

「おはよう」

「珍しいな、お前がこんな時間まで寝ているのは」

「獅子亭にいる頃は、毎朝早い時間に起きてたのにねぇ」

「色々あったからな……本人が気づかない間に、疲れていてもおかしくは無いだろう。」

「……何で皆いるの?」


 ベッドから起き上がった俺に、部屋にいたフィリーナ、アルネ、マックスさん、マリーさん、ソフィーさんと勢揃いした皆から順番に声を掛けられた。

 誰かが俺を訪ねて来るのはおかしくないんだけど、さすがに王都に来た知り合いが全員揃っているとは思わなかった。


「今日は皆で王都を観光しようと思ってな。初日以来、全員で行動していなかったしな」

「そうなんですか……」


 どうやら、俺を含めて皆で一緒に行動をしよう、という事らしい。

 昨夜に引き続き、一人じゃない事を実感出来て嬉しい限りだね。

 皆も、ちゃんと俺の事を気にしてくれる事がわかるって、とっても素晴らしい事だと思う。


「リク様、こちらを」

「ありがとうございます」


 ヒルダさんが進み出て、俺にタオルを渡してくれる。

 それを使って顔を洗ったりなんかの朝……昼前の寝起きの支度。

 俺が準備をしている間は、ヒルダさんに淹れてもらったお茶を飲みながら、皆ソファーでくつろいでいた。



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