第184話 新しい冒険者カードを受け取る



「……えーと、ごめんなさいね……冒険者は15歳にならないとなれないの。ユノちゃんはどう見ても15歳以上には見えないから、冒険者として登録する事は出来ないわ」

「そういえば、年齢制限があったんでしたね」

「危険な仕事だからね。憧れる子供も多くいるのだけど、さすがに成人してない子供を冒険者として危ない事をさせるわけにはいかないわ」


 ユノなら大丈夫だとは思っても、規則に例外を作るわけにはいかないもんな。

 確か……以前ハンスさんに馬車で説明された覚えがある。

 前途のある子供を、憧れで冒険者にする事は出来ないというのは確かにそうだと思った。

 自分で色々と考えらるようになってから、冒険者になりたいならなるべきだ……という考えでの規則なんだろう。


「……冒険者になれないの……残念なの……」

「仕方ないよユノ、年齢はどうしようもないからね」

「……本当はユノ、フィリーナ達より年う……」

「おっと、ユノ……それ以上はいけないよー」

「どうしたの、リクさん?」

「ユノちゃんが何か気になる事を言いかけたように聞こえたけど……?」

「ははは、何でもないんですよ」


 冒険者になれない事を残念がるユノだけど、油断している隙に実年齢が見た目とは違う事を言いかけた。

 それを皆に知られたら、俺の妹という事や色々な説明の辻褄が合わなくなってしまう。

 慌ててユノの言葉を遮った俺を、モニカさんとマティルデさんは訝し気に見ているけど、笑って誤魔化しながら、ユノを連れて少しだけ離れた。


「ユノ、冒険者になれなくて残念だと思うけど、年齢の事を言ったら色々マズイだろ?」

「……ごめんなさいなの。油断してたの」


 モニカさん達から離れて、ユノに小声で注意する。

 ユノの方は油断して口からポロリしそうになったみたいだけど、気を付けて欲しいと思う。

 俺の妹という設定を考えた時のユノは、もっとしっかりしてたような気がするんだけどなぁ……。

 最近、ユノが見た目の年齢に引きずられて、行動も相応になっていってるような気がしてならない。


「お待たせしました。こちらが新しいカードです」


 俺達を首を傾げながら見ているモニカさん達を無視して、ユノに言い聞かせていると、奥からカードの更新を終えた受付の女性が戻って来た。

 カウンター越しにそのカードを受け取る。


「何か、見た目が変わって派手になってるんですけど……」

「数少ないAランクだからね。見ただけですぐにわかるようになってるのよ」


 受け取ったカードの大きさは、以前と変わりは無かったのだけど、その表面はゴールドに輝いて光を反射していた。


「それには新しく、以前以上に厳重に魔法がかけられてるからね。偽造されないように、ね。だからその金のカードを持ってる冒険者はすぐにわかるのよ」


 偽造防止は今まで以上に厳重なようだ。

 確かに、探査の魔法をちらりと使ってみると、少しだけ魔力の流れを感じる……意識しないとわからない程度だけど。

 さっきの書簡の封印みたいに、冒険者ギルド独自の魔法なんだろう……魔法の仕組みをしりたいけど、きっと聞いても教えてくれないだろうな。


「これで正式にリク君はAランクの冒険者よ。活躍を期待しているわね」

「はい」


 派手だけど、今までとは違うカードを受け取って、Aランクになったんだと実感出来た。

 これからは、Bランクとは違う依頼も受けて、ランクに恥じないよう頑張って行こうと思う。


「それじゃ、用件は終わりね。……依頼でも見る?」

「いえ、今日はヤンさんからの預かり物を持って来ただけですので。これで」

「そう。それじゃ、また来てね。Aランク相応の依頼を用意して待ってるわ。……個人的な用でも歓迎、するわよ……?」

「冒険者として、リクさんが個人的に来る事は無いと思いますから。失礼します! 行きましょうリクさん!」

「ちょ……モニカさん!? し、失礼します、マティルデさん」

「待ってなのー」

「はーい。またねー。……残念、ガードしてる子がいるんじゃしょうがないわね」

「マスター……割と本気でした?」

「……さぁね?」


 今日はヤンさんから頼まれた用を済ませるためだけにギルドに来たからね、依頼を受けたりするのはまた今度だ。

 マティルデさんに挨拶して、カウンターを離れようとした時、何かを誘うような目をして声を掛けて来るのを、モニカさんが間に入って遮る。

 俺の腕を掴んで、さっさとマティルデさんから離れようとするモニカさんに連れられる形で、カウンターから離れた。

 途中、小さくマティルデさんと受付の女性が話してる声が聞こえたけど、意味まではよくわからなかった。


「まったく……要職に付いてる人なのに、油断するとリクさんを誘惑しようとするんだから……!」

「あら、モニカ、どうしたの?」

「何やら怒ってる様子だが、何かあったのか?」

「マックスさん、マリーさん」

「あの人達はもう良いの?」


 俺がモニカさんに腕を引っ張られている途中、マックスさんとマリーさんから声を掛けられた。

 二人共、モニカさんが怒ってる事を不思議がってる様子だ。

 ユノは、さっき二人が説教していた人達がどうなったのか気になるみたいだね。


「あいつらなら、あそこだ」

「すぐに反省してくれたわ。これからしばらくは、お酒にも気を付けておとなしくしてくれるそうよ」

「……そうですか」

「……ちょっとかわいそうかもね」

「皆同じなのー」


 マックスさんが指を差して示した場所には、酒場代わりになってテーブルが置かれてる場所の端。

 そこにさっきお酒に酔って絡んで来た男達が、全員正座している。

 慣れないんだろう、足がプルプルして辛そうだ。

 ……あれ、足が痺れて動けないんだろうなぁ……俺も、正座に慣れてないから、同じ状況になったら立てなくなりそうだ。


「……何で全員丸坊主になってるんですか?」

「……俺は何もしていないぞ?」

「母さん……」

「反省を促すためよ。戒めを与えておけば、どれだけ足りない頭でも忘れる事はないでしょう?」

「……足が辛そうなの……つんつんしていいの?」

「止めてあげなさい」


 正座をしている男達は、全員がさっきまでと違って坊主頭になっていた。

 マックスさんは目線を逸らして否定し、モニカさんはマリーさんの方を見て呆れてる。

 実行したのはマリーさんらしく、反省を促すためと誇らしげだけど……建物内、それも食べ物や飲み物を出す場所で髪を切るのは……と思ったら、店員さんと思しき女性が粛々と散らばった髪の毛を片付けてるのが見えた……慣れてるのかな……?

 足が痺れて立ち上がる事が出来ず、辛そうに顔を歪めてる男達を見て、ユノが足をつつきたそうにウズウズするのを止めながら、冒険者ギルドを出た。


「それで、ヤンの用とはなんだったんだ?」

「聞いてよ父さん、ついにリクさんがAランクになったの!」

「リクがAランクにねぇ。そりゃめでたいね」

「そうかぁ、ついに俺達のランクも越えちまったなぁ」

「まぁ、リクなら当然と言えるかもね。予想より早かったけど」

「それじゃあ、ヤンの用とかいうのは?」

「なんでも、ヘルサルとセンテのギルドマスターから、俺をAランクに昇格させるための許可と推薦の連絡だったみたいです。その場で、ここの統括ギルドマスター……マティルデさんにも認められて、Aランクになりました……」


 ギルドを出るなり、先程の男達の事を忘れた様子でマックスさんが聞いて来た。

 それにはしゃぐように答えるモニカさん。

 二人共驚きつつも、俺がAランクになる事には何も不思議がってはいないようだ。

 マックスさんには、ヤンさんから預かった筒の事の説明と、俺がAランクになった経緯を伝えた。



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