第183話 リクのスピード出世



 モニカさんとマティルデさんの話で、ギルドの全体図が何となくわかって来た。

 Sランク冒険者になれば、本部ギルドというものの詳細もわかるらしいけど、俺にはとてもじゃないが無理そうだなぁ。

 そう思って呟いたら、モニカさんとマティルデさんからほぼ同時に否定された。

 マティルデさんの後半の言葉は、小声だったので聞き取れなかったけど……Aランクになって驚いてる俺に、Sランクなんて夢のまた夢……じゃないかなと思う。


「話が逸れたけど、リク君は今日からAランク冒険者よ。これはギルドで正式に決定した事だからね」

「ヤンさんからの書簡は、そんな内容だったんですか……」

「人をあまり褒めず、冷静に物事を判断するあのヤンが、リク君の事を絶賛する内容だったわね。センテのギルドマスターからも称賛されてる内容もあったわ」

「ヤンさんとベリエスさんが……」


 ヤンさんとは、エルフの集落を始めとして、何度か一緒に行動した事はある。

 ベリエスさんの方は、一緒に行動した事はないけど、ヘルサル防衛の時はお世話になった。

 そんな二人が俺を褒める内容を書簡にしたためたのだと思うと、結構照れ臭いな。


「そんなわけで、リク君はこれからAランク冒険者として活動していく事になるわね。期待してるわよ?」

「……頑張ります」


 Aランク冒険者が、Bランクとどう違うのか俺にはまだわからないけど、ランクに見合う依頼をこなすとなると難しい依頼とかもあるのだろうと思う。

 俺がAランクというのに相応しいかどうかはさておいて、認めてくれたヤンさんやベリエスさん、そしてマティルデさんに恥じる事のないよう頑張ろう。


「リクさんならこの結果は当然だと思うけど……この速度でAランクになるのは、歴史に残るんじゃないの?」

「そんな、俺より早くAランクやSランクになった人もいるんじゃない? さすがに俺が特別何て思えないよ」

「私はさっき、記録に残るスピード出世って言ったでしょ? これは間違いなく歴史に残るわよ。少なくとも冒険者ギルドの歴史にはね。スタートが異例のCランクからというのもそうだし……普通は数年かけてようやくAランクになれるかどうかだからね」

「やっぱり」

「……そんなに凄い事なんですね」


 歴史に残る……というのは実感もわかないし後々の人達が語る事だから、本当にそうなるかはわからないけど、俺と同じくらい早くAランクになった人はいないみたいだ。

 ……こんなに早くAランクになっても良いのかな……? 俺、まだこの世界の事も、冒険者としても色々と知識や経験が足りていないと思うんだけどなぁ。


「まだ知らない事が多いから、本当にAランクが相応しいのかどうか……」

「経験や知識というのは、いずれついて来るわよ。今は、その実力が評価された事を喜ぶと良いわ」

「そうよ。リクさんがその辺の冒険者達より凄いのは本当の事なんだから、これから色々とやって行けば良いのよ」


 不安がる俺に、マティルデさんは今は喜んでおけば良いと言ってくれて、モニカさんは自分の事のように喜んでくれてる。

 まだ不安な事は多いけど……これから色々と学んで、ランクに見合った冒険者になろうと思った。


「それじゃ、冒険者カードを預かるわ。BランクからAランクに書き換えておかないといけないしね」

「はい……どうぞ」


 マティルデさんに言われて、冒険者カードを出して渡した。

 冒険者カードは一種の身分証明であり、Cランク以上はキャッシュカードに近い役割にも使える。

 常に最新の情報にしておかないといけないみたいだ。


「はい、すぐに新しいカードを用意して」

「わかりました!」


 俺からカードを受け取ったマティルデさんは、横にいた受付の女性にカードを渡す。

 受け取った女性は奥へとカード更新に向かったようだ。


「……それで、カードの更新等の手続きは良いんだけど……そこにいる可愛い女の子は? 英雄は小さな女の子が好きなの? それに頭にくっ付いてるのは……ドラゴンね……報告に会った通りなのね……」

「こちらはエルサで、人に危害を加えたりはしません。あとこっちは……」

「ユノはユノなの! リクの妹なのよ!」


 カードを渡したマティルデさんが、今までおとなしくしてくれていたユノの事を聞いて来る。

 エルサに関しては、ドラゴンという事なのでヤンさん達が報告していたんだろう。

 一応、危険ではない事を言いながら、ユノに自己紹介をしてもらう。

 寝たいだけなのか、昨日の戦いで疲れてるのか……エルサは自分の話が出ても我関せずで寝たままだ。


「ふぅん。英雄の妹……ね。連れて歩くのは良いけど、あまり危険な事に巻き込まないようにしないとね? Aランクの依頼となると、危険な事も多いわよ?」

「ユノなら大丈夫なの。戦えるの」

「そう、偉いわねー」


 マティルデさんは、俺がユノのような小さい女の子を、連れまわしているのが気になったのか、注意してくれるけど、見た目からはわからないだろうけどユノは確かに強い。

 力任せに剣を振っている俺と違って、的確に剣を使っているユノだ……もしかしたら、俺より強いかもしれないな……。

 だけど、ユノが戦えると言ってもマティルデさんの方は子供が背伸びをして言ってるとしか考えていないようだ。

 見た目だけなら、戦えるようには見えない女の子だから、仕方ないのかもね。


「マティルデさん、本当にユノちゃんは戦えるんですよ? 私や父さん……マックスって言う元Bランクの冒険者ですけど……二人共簡単にユノちゃんに剣であしらわれました」

「……本当なの? マックスと言えば、昔王都で活躍した冒険者じゃない。貴女がその娘というのも驚いたけど……でも、いくら強くても魔物と戦うのは……」

「本当ですよ。な、ユノ?」

「あの時は手加減したの。魔物なら、昨日もいっぱい倒したの!」


 以前、確かにモニカさんとマックスさんを相手に、ユノは剣で簡単に模擬戦で勝った事があるからね。

 モニカさんの言葉にも、半信半疑な目でユノを見るマティルデさん。

 マックスさんやマリーさんは、以前この王都で冒険者として活動していた事があると言っていたから、マティルデさんはその時の事をしっているんだろう。

 ……その時を知ってるという事は……マティルデさんの年齢は……いや、これ以上考えないようにしておこう……なんだか身の危険を感じるから……。


「昨日も戦っていたの?」

「ええ、私は怪我で、途中で離脱しましたけど……ユノちゃんは最初から最後まで戦ってくれてました」

「リクの魔法に飛ばされたの。おかげで魔物達の真ん中でずっと戦ってたの!」

「……威力の調整を失敗した時か……ごめんユノ、大変な所を任せて……」

「良いの。周りに気を使わずに存分に剣を振れたから!」


 本来、ユノには盾を持たせてるから、味方を守るようにして戦って欲しかったんだけど……昨日は盾も攻撃に使ってたみたいだからなぁ。

 ユノがストレスなく戦えたおかげで、魔物達の勢いに兵士達が対抗出来た部分もあったと考えると、結果的に良かったのかもしれない。

 ……これからは今まで以上に、魔法の調整には気を付けようと思うけど。


「驚いたわね……見た感じ小さな女の子にしか見えないのに……」

「リクさんの妹ですからね……それだけで私達は納得しています」

「英雄の妹……そうよね、英雄と関わりがあるのなら、納得出来るのかもね」


 マティルデさんとモニカさんは、ユノが強い事の理由に俺を出して無理やり納得しているようだね。

 本当は妹じゃないんだけど……まぁ良いか。


「ユノも冒険者? とかいうのをやってみたいの。リクと同じなの」

「ユノもかい? でも、危険……は、ユノなら大丈夫か。どうですか、マティルデさん?」


 ユノは俺と同じ冒険者をやってみたいようだ。

 兄を見て真似をしたい妹、という感じがして俺としては嬉しいと思う。

 ユノの強さなら、魔物を相手にしても大丈夫だろうし、俺やエルサが一緒にいればそこまで危険な事にはならないだろうしね。


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