第182話 ヤンさんの用件とリクのランク


「英雄はヘルサルから、ね。ヘルサルを救った英雄なのだから当然そうなるわよね」

「まぁ、そうですね。ですけど、その英雄というのは止めてもらえませんか?」

「どうして? 良いじゃない、英雄……格好良いわよ?」

「いえ、どうにも呼ばれ慣れて無いので……それに、俺が一人で活躍したわけじゃなく、皆で戦った結果なので……」

「そう、わかったわ。じゃぁ、リク君ね。謙虚な子は好きよぉ」

「む!」

「おっと、リク君を守る女の子もいるんだったわね。それで、わざわざ私を呼び出して……どんな要件なの?」


 なんとかマティルデさんから英雄と呼ぶのを止めてもらったけど、何故か頬を薄っすら赤くして見つめられた……。

 モニカさんが間に入ってマティルデさんを睨むようにして、ようやく本題に入ってくれたようだ。

 微妙に俺の頭の中で、危険信号が灯ってるような気がするけど……ギルドマスターになるくらいなのだから、危害を加えるような人じゃないだろう……。


「えーとですね、こちらをヤンさんから届けてくれと頼まれまして……」

「ヤン……あぁ、ヘルサルの副ギルドマスターね。実力的にもギルドマスターになって良いのに、今のマスターを立てるように動いてるのよねぇ」


 ヤンさんはマティルデさんから見て、ギルドマスターになってもおかしくない人物と見られてるようだ。

 確かに、今まで接して来たヤンさんは、俺から見ると出来る人……という感じだ。

 そんな事を考えながら、マティルデさんにヤンさんから預かった筒を渡した。


「ギルド機密事項の連絡方法ね……エフネン……ふぅむ……成る程ね。だからリク君に持って来させたわけ……か」

「中身は書簡だったみたいね……何が書いてあるのかしら?」

「さぁ……俺は、魔法みたいなのを使ってた方が気になるかな」


 俺が渡した筒に対して、マティルデさんが手を当て、魔法名っぽいものを呟いた瞬間、筒の真ん中が割れて中から紙が出て来た。

 紙の方はヤンさんからの連絡事項が掛かれてるんだろうけど、魔法の方は聞いた事が無かった。


「ふふ、今の魔法が気になるの? これはね、ギルド内で要職に就く者だけに教えられる秘密の魔法なの。重要な連絡事項をさっきの筒に込めて、魔法で閉じる。それだけで魔法を知らないそこらの奴らには開けられなくなるってわけ。まぁ、無理やり開けられるのを防ぐ事も考えないといけないけどね」

「成る程、そうだったんですね。……ヤンさんは絶対に中を見ない事って言ってたのに、そんな魔法が掛かってたんじゃそもそも俺が中を見る事は出来なかったんじゃないか……」

「力づくで開けるなら、難しい事じゃないからね。それに対する注意だったんじゃないかしら?」


 マティルデさんが説明してくれた魔法、筒にはそもそも鍵みたいなものが掛かっており、普通には開けられなかったみたいだ。

 開けようともしなかったからわからなかったけど、それならヤンさんから注意されなくても良かったのかもしれない。

 まぁ、マティルデさんの言う事もあるし、一応念のためとか、定型文みたいな感じで言ったのかもしれないけどね。


「ふふふ、リク君にならさっきの魔法、教えてあげても良いかもねぇ……何せ、英雄だし。冒険者ギルドとして手厚く保護しないとねぇ……」

「えっと……あの……」

「……すみませんが、魔法に関してリクさんは間に合ってますから!」


 妖艶な笑みを浮かべて、俺の手を取りながら魔法を教えると言って来るマティルダさん。

 それに戸惑っていると、三度モニカさんが間に割って入ってくれた。

 何でだろう……俺の今までの経験不足が原因なのか、マティルデさんに微笑まれると体が硬直してしまう。

 ……蛇ににらまれた蛙のような感じか……理由はわからないけどもしかして、俺ってマティルデさんにロックオンされた……?


「必死になって、可愛いわねぇ。まぁ良いわ。それより、この書簡の内容ね。……面倒だから、ここで伝えましょうか。えっと……リク君?」

「……はい?」

「……」


 間に入って来たモニカさんに気分を害する事も無く、マティルデさんは微笑むばかりだ。

 こういうのは、人生経験から来る余裕なのだろうか……?

 ようやく本題に入ってくれたマティルデさんが俺の名前を呼ぶ。

 ヤンさんからの連絡って、俺に関係ある事だったんだろうか?

 モニカさんと一緒に、また変な行動を取らないか警戒して、マティルデさんの言葉を待つ。


「そんなに警戒しなくても、今度は真面目に仕事するわよ。……んんっ! リク君、貴方をAランク冒険者に昇格させる事を許可するわ」

「……は?」

「……Aランク?」


 俺がAランクの冒険者……だって?

 まだBランクに上がってそんなに時間は経ってないはずなんだけど……。


「記録に残るスピード出世ね、リク君。本来はこんなに簡単にAランクになる事は無いんだけど……ヘルサルでの実績、王都での魔物討伐……エルフの集落での活躍もあったのよね、確か。それらを踏まえたうえでの判断よ」

「……そう、なんですか」

「もちろん、それだけじゃないわよ。Aランク冒険者には、ギルドからの信頼も必要なの。二人以上のギルドマスターからの許可と推薦、あとは統括ギルドマスターからの許可が必要ね。他にもAランクになれる条件は試験だとか色々あるけど……今回はヘルサル、センテの両ギルドマスターからの推薦で、私も今許可したから、これで完了……ね」

「はぁ……」


 マティルデさんが俺がAランクになった理由なんかを話してくれているけど、正直ほとんど耳に入っていない。

 この国に滞在してるAランク冒険者の数は少ないと聞いた事がある。

 Bランクの上でAランク。

 歴戦の冒険者で、現役を引退したマックスさんやマリーさん、ヤンさんも最終ランクはBランクだったはずだ。

 冒険者になって日も浅い俺が、その人たちを越えてAランクになるのだと言う事らしい。


「統括ギルドマスターって何ですか? さっきも自分の事を紹介する時に言ってましたけど」


 呆然としてる俺を余所に、モニカさんがマティルデさんに質問をしている。

 そう言えば、確か……王都冒険者中央ギルド、統括ギルドマスター……とかって言ってた気がする。


「王都は広いからね。複数の冒険者ギルドがあるの。その中でここは中央ギルド……つまり王都にあるギルドをまとめるギルドって事ね。規模として、必然的に王国内全てのギルドを取りまとめる役目も負う事になるわ。だから、それらを統括するという意味で、統括ギルドマスター、ね」

「全てのギルドを総括……」

「全てと言っても、この王国内だけよ? 他国の冒険者ギルドにはそれぞれ別の統括ギルドがあるわ。さらにその上の、世界中のギルドをまとめる本部なんかもあるわね」

「本部ギルドの事は聞いた事があります。なんでも、どこにあるのかわからない……けど確かに存在して冒険者ギルドを取りまとめている……と」

「存在してるのは確かね。詳細は言えないけど、ギルドに所属する一部の人にしか知る事は出来ないわ。もし貴方が興味あるのなら、Sランク冒険者にでもなれば知る事が出来るわよ?」

「Sランク……リクさんならまだしも、私なんかがなれるとはとても思えません」

「俺も、さすがにSランクは……」

「いや、リクさんならなれるでしょう」

「リク君ならなれるわよ。……むしろSランクじゃ足りないくらいじゃないかしら……いくらSランクでも、リク君程の戦果を挙げた人なんていないはずだし……」



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