第185話 案内されて昼食を



「そうか……Aランクには、ギルドマスターに認められなきゃいけない制度だから、難関になってるんだが……リクはすんなり認められたようだな」

「リクの活躍を見ていれば、当然でしょうけどねぇ。ヘルサルだけでなく、センテのギルドにも知られてるし……昨日の活躍で王都のギルドにも知れ渡ったでしょうからね」

「……俺だけの活躍じゃないと思うんですけどね……」

「まぁ、そのあたりの実感というか、自覚するべき部分はこれからだろうな。通常では考えられない速度でのランクアップだから、考えが追いついていないというのもあるだろう」

「何年もかけてランクを上げて行くものだからねぇ」

「……そういうもんですか」


 この世界に慣れては来たが、冒険者になってからまだ2カ月も経ってないからね。

 マックスさんの言う通り、考えが追いついてない部分もあるんだろうと思う。


「ちょうど良い時間ね。父さん、さっき言っていた店に行くのはどうかしら? 昼食を食べながらでもゆっくり話せばいいと思うわ」

「そうだな。それじゃ、案内するとするか」

「……まだ店があると良いけどね」


 冒険者ギルドでそれなりに時間が経っていたから、出て来た頃にはお昼にちょうど良い時間になったようだ。

 マックスさんとマリーさんの案内で、王都内の見知らぬ道を歩いて、一軒の店に来た。

 王都の中心にある城から離れてる場所で、外壁に近いけど、門からも離れているために、昨日の魔物襲撃の被害は無かったようだ。

 あまり人通りの多い場所ではない道で、飾り気がないけどどこかオシャレな雰囲気のお店に案内された。


「まだちゃんと残ってたようだな……」

「懐かしいわねぇ。よくここで集まってたわ」

「オシャレなお店ですね」


 中に入って店内の様子を見る限りだと、オシャレなカフェだ。

 テラス席のような席はないけど、大きな窓が外から明るい光を取り込んでいて、店内は明るく店の雰囲気もどこかホッとするような落ち着いた感じだ。


「いらっしゃいませ。5名様ですか?」

「ああ」

「では、こちらへどうぞ」


 このお店の制服なんだろう、可愛いエプロン付きの服を着た女性に案内されて、店の奥にある席に皆で座る。

 ……この世界にも、ウェイトレスのような制服ってあるんだなぁ。


「リクさん?」

「あぁ、いえ。制服を着てるって珍しかったので……」


 案内してくれた女性の方を見ていると、モニカさんから声が掛かった。

 ちょっとだけ不穏な気配を感じる気がしたけど、制服が珍しいからと答えておいた。

 ……嘘は言ってないしね。


「ここは変わらんな」

「そうね……昔からあの制服よね」

「ヘルサルにあるお店では、あまり制服を使うお店は無かったと思うんですが……王都では普通なんですか?」

「王都でも珍しい方だぞ。以前聞いた話だと、この店の主人がこだわりを持ってるらしい」

「女の子の方も、可愛い服が着れて働けるから、評判も良いみたいね」


 この店が特別で、珍しく制服を採用しているみたいだ。

 なんとなく、ここの世界に来る前のファミレスを思い出すなぁ……店内はファミレスよりもオシャレだけど。


「とりあえず、何か頼むとするか」

「以前から味が変わってなければ良いんだけどね」


 マックスさんやマリーさんにとっては、懐かしの店だから、味が変わってたりしたら寂しいんだろうな。

 そう考えながら、テーブルに置いてあるメニューから皆で料理を選んだ。


「……メニューの内容はほとんど変わってなかったな」

「そうね、いくつか知らない料理もあったようだけど」

「そうなんですね」


 案内してくれた女性……店員さんに注文をして、料理が来るまでの雑談。

 マックスさん達からすると、以前来た時からあまりメニューが変わっていないようだね。

 獅子亭で美味しい料理を作るマックスさんがお勧めする店の料理だ、きっとここも美味しいんだろう。


「楽しみなのー」

「……キューが無かったのだわ」

「さすがにキューは料理とは言えないからな……キューを使った物ならあるだろうけど……とりあえず、後で買ってやるから、今はここの料理で我慢してくれ」


 料理を楽しみにしてニコニコしているユノとは対照的に、エルサはメニューにキューが無い事に落ち込んでいた。

 大好物のキューが第一なのはわかるけど、さすがにお店でキューを単品で出す事は普通無いだろうな……。

 後でどこかの商店にでも寄って買ってやるか。


「リク、お前はこれからどうするんだ?」

「これから、とは?」


 キューが無い事で沈んでる様子のエルサをなだめていると、マックスさんから声を掛けられた。

 これからどうするとは、何の事だろう?


「父さん、もう少し具体的に言わないと伝わらないわよ?」

「あぁ、済まない。そうだな……今回、王都には勲章授与という形で来たわけだが……もう授与式は終わったんだろ? それに、魔物の襲撃も退けた。ヤンからの用件も終わったようだし……もう王都にいる理由はないわけだ」

「……そう、ですね」


 マックスさんとマリーさんには、女王が以前いた世界での姉さんだという事は伝えて無い。

 ここで済ませる用事は全部終わったわけだから、マックスさん達からすると、王都にいる理由がないように見えるんだろうね。


「ヘルサルに帰るのか、この王都で活動していくのか……だな。Aランクの冒険者になったんだ。ランクに見合った依頼を受けるとしたら、ヘルサルよりも王都にいる方が良いだろうしな」

「成る程……」

「ヘルサルだと、Bランクの依頼も珍しいものね」

「リクさんが依頼を受けに行った時の、ヤンさんの困り顔も見ていて楽しかったんだけどね」


 モニカさんの言葉に、以前経験のためと依頼を受けにギルドに行った時の事を思い出した。

 その時は、そんなに困った顔をしてないように見えたけど……モニカさんから見ると違うように見えたのかもしれない。

 それはともかく、マックスさんの言う通り、Aランクという高いランクの依頼をこなそうと考えると、王都にいた方が有利なのは確かだろう。

 国の中心地だから人は多い、当然依頼の数も多ければ、高ランクの依頼なんかも舞い込んで来るだろうからね。


「冒険者として名を挙げようとしたら、王都だろうな。俺達も若いころはそうだった」

「そうね。……結局、Aランクにはなれなかったけど……」

「……俺から見ると、マックスさん達はAランクになっていてもおかしくないと思えるんですけど……」


 マックスさん達も、冒険者だった人達だ。

 昔は名を挙げたり、高ランクを目指して活動していたんだろうという事は、簡単に想像できる。

 でも、マックスさん達の戦いぶりを見ていると、Aランクでもおかしくないと思うんだ。

 Aランクの他の冒険者を見た事があるわけじゃないけど、兵士達の戦いと比べても、実力は確かだと思える。

 知識も、俺より十分に持っているしね。


「まぁ、運が無かったという事かもしれんな」

「運、ですか?」


 実力主義のように見える冒険者の中で、運が左右してAランクになれなかった……というのはちょっと信じがたい。


「リクもAランクになったのだからわかると思うけど、ギルドマスターの承認が必要なのよ。それも複数のね」


 俺が納得いかない顔をしていたら、マリーさんが補足するように説明してくれた。



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