第164話 ワイバーン一掃




「……テンペスト・ブレイド!」


 魔法名は、さっきエルサが使ったそのままだ。

 見たばかりだから、イメージが固めやすかったからね。


「結界! なのだわ!」


 エルサが俺の魔法が発動し始めた事を確認して、結界を発動。

 その瞬間、俺達に近いワイバーンから順に、上へ下へ、左へ右へときりもみをしながら動き始めた。

 吹き荒れる風に翻弄されてるんだろう。

 きりもみしながら、手や足、翼や首が切り離されて行き、血や内臓も一緒に北へと飛んで行く。


「……ワイバーンが軽いゴミのようね……」


 ワイバーンを見ながら、ポツリと呟く姉さん。

 確かに吹き荒れる風に翻弄され、散り散りになって飛んで行く様は、魔物と言うよりは軽いゴミのように見えた。


「っ!」

「……っ……結構、こっちにも影響があるんだな」

「ちょっと威力が強すぎなのだわ……飛んでるのが精一杯なのだわ!」


 ワイバーンがきりもみしている様子を暢気に眺めていた俺達だったけど、魔法の発動から数十秒、爆発的な風が吹き荒れて城を中心に周囲へ広がって行った。

 結界を張ったエルサの周りにも、風が吹き荒れている。

 何とか高度を維持してるけど、これが結界もなくエルサでもなかったら、俺達も巻き込まれてるところだったな……。

 揺れるエルサの背中で、俺と姉さんはモフモフにしがみついて振り落とされないように気を付ける。

 その間にも、俺の放った魔法はどんどん広がって行き、群れで周囲を囲んでいたワイバーンの群れ全てに到達した。


「っ……ふぅ……収まって来たわね」

「外側に広がるようにしたから、ここはもう大丈夫だと思う」


 ワイバーンの群れは遠目だから見えにくいが……全てが縦横無尽に動き回り、途中で四肢が切り離され北の山へと飛ばされて行った。

 動き回ってたのは、暴風に翻弄されてたからだね。

 空を飛べるからといっても、上下左右の強い風には逆らえなかったんだろう。


「結界を解くのだわー」

「あぁ、ありがとう」


 エルサが結界を解いて、ようやく周囲の音が聞こえ始める。

 遠くの山から、ワイバーンだった物がぶつかる音が聞こえて来る気がするけど、それは気にしない。

 ……今は周囲の確認が先だからね。

 地上にも、やっぱり風が吹き荒れてたみたいで、王都に来た時見た屋台の屋根だったり、商品っぽい物が散乱してるのが見えた。

 一応、人が飛ばされたりしてないみたいで、安心した。


「地上の人達は無事みたいね」

「そうだね。高い場所で使ったからだと思うけど、被害が無くて何よりだよ」

「食べ物が飛んでたように見えたのだわ……リクはひどいのだわ」


 食いしん坊ドラゴンだけあって、エルサは食べ物に関して気になったんだろう。

 風に飛ばされた食べ物が飛散してる様子を思い浮かべようとして、止めた。

 まぁ、命あっての物種とも言うしね……食べ物ぐらいなら被害としては少ないだろう。


「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 地上の様子を窺ってると、色んな所から雄たけびにも聞こえる声が聞こえる。


「……何だ?」

「……兵士達が今のを見て鼓舞されたみたいね」


 エルサの背中の端に移動して、真下を覗き込むようにして見ると、城門付近の兵士達が魔物を押し返そうと、声を張り上げて戦っていた。

 それに呼応して、町側からも人が押し寄せ、魔物達を挟み撃ちにしてるようだ。


「りっくんの力を目の当たりにしたからでしょうね。自分達には英雄が付いている、と」

「英雄と呼ばれるのは慣れないけど、こういう効果があるのなら、悪くない……のかもね」


 姉さんと話しながら、周囲の様子もうかがってみる。

 もう俺の魔法の効果は完全に切れたらしく、上空に風が吹き荒れてる様子はない。

 それと一緒に、城を取り囲んでいた無数のワイバーンの姿も一切なくなっていた。


「ワイバーンは全て取り除けたみたいだね」

「……ほんと、りっくんはすごいわね。あんなにいたワイバーンを一瞬で全て倒すなんて……英雄という呼び名だけじゃ収まりそうにないわ」

「英雄だけでも微妙な気分なのに、これ以上持ち上げるような呼び方は止めてよ」


 一緒に周囲を見ていた姉さんがポツリと漏らしたけど、英雄と呼ばれる事自体、俺にはあまり相応しいと思って無いのに、これ以上変な呼び方が加わったら大変だ。


「……そろそろ疲れたのだわー。休みたいのだわー」


 姉さんと話してたら、エルサがそんな事を言って来た。

 まぁ、ずっと飛び回ってワイバーンを牽制したり、魔法をつかってたからね……俺から魔力が流れてるとはいえ、疲れても仕方ないか。


「それじゃ、城の中庭に戻ろうか」

「そうね。空の魔物はもう来ないでしょうからね」

「帰るのだわー」


 城の中庭に降り立ったエルサは、俺と姉さんを降ろした後すぐに小さくなる。


「おっと、エルサ……俺の頭で休むのは少し待ってくれ」

「どうしてなのだわ?」


 いつものように、俺の頭へと飛んで来たエルサを途中で止める。


「しばらく、姉さんにくっ付いてくれ。俺は城門の方へ行ってモニカさん達に加勢するから」


 空の魔物がいなくなっても、まだ地上では魔物達と戦ってる最中だ。

 空から見た様子だと、放っておいても魔物は掃討されて終わるだろうけど、出来るだけ早く終わらせた方が良いからね。

 被害も少ない方が良いだろうし。


「エルサちゃんは私に付けるの?」

「まぁ、何かあった時のためだね。もしまだ城内にバルテルとかいう奴の手下がいれば、姉さんが狙われるかもしれないし……魔物が中に入り込む可能性もあるからね」

「そう、私のボディーガードという事ね」

「仕方ないのだわ……でも、疲れたからとりあえずは休むのだわー」

「あら、ここなのね」


 念のためというだけだが、エルサは姉さんに付いて守ってもらいたい。

 仕方なさそうに、エルサは俺から離れて姉さんの頭にくっ付いた。

 ……やっぱり人の頭にくっ付くのが好きなんだな、エルサ。


「……リクじゃ無いから、不満なのだわ。早く終わらせて来るのだわー」

「はいはい」


 姉さんの頭で不満を漏らすエルサを適当にあしらう。

 そう言えば、俺から流れる魔力があるから、頭にくっ付くのが一番良いって言ってたような気がするな……姉さんからはさすがに魔力が漏れて無いからな。


「じゃあ姉さん、言って来るよ」

「気を付けてね。りっくんの強さなら大丈夫だろうけど、怪我はしないでね。私は城内にいる者達の指揮をして来るわ」


 姉さんに声をかけ、城門へと向かう。

 女王様でもある姉さんは、他にもやる事は沢山あるのだろう。

 兵士を鼓舞する事は、さっきの上空でやったから、それ以外の事だと思うけど。

 そんな事を考えつつ、城の中を走り外へと急いだ。


「モニカさん!」

「リクさん! 来てくれたのね……はぁっ!」


 城門に着いてすぐ、モニカさんを発見する。

 俺に気付いたモニカさんは、声を上げながら目の前の魔物を槍で突き刺して倒す。

 だが、その様子に少しだけ違和感を感じる。

 いつもの動きよりも少しだけ鈍い気がした。


「モニカさん……疲れてる? 動きがいつもより鈍いけど……」

「そりゃずっと戦ってたら鈍くもなるわよ……それに……これだしね」


 そう言って、モニカさんが見せて来たのは右の横腹。

 服が浅く切れており、血が滲んでいるのが見えた。



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