第162話 ワイバーン対エルサ
「……ワイバーンって火に強い魔物だったはずだけど……」
「ドラゴンの使う魔法だからね。威力が高いんだよ、きっと……ふっ!」
呆れて呟く姉さんに答えながら、近づいて来たワイバーンの首を斬る。
エルサがエルフの集落で使っていた、風や火のブレスと違って今回は火の球を撃っている。
広範囲に広がらない分、一発の威力が高いんじゃないかと思う。
「……結構魔物も多いな」
「そうね……けど、よく持ち応えてくれてるわ」
ワイバーンを倒す傍ら、城門付近で戦う皆を空から見る。
魔物の数は溢れかえっていて、兵士達よりも多く見えるけど、それを何とか押されないよう食い止めてる
ように見えた。
「あれは、モニカさん達か。ユノも合流してるね」
「そうね。あそこだけ魔物の数が少ないわ」
モニカさんとソフィーさん、アルネとフィリーナが一組になり、ユノを筆頭に近くにいる魔物を倒してる。
ユノが剣を振るう度に、複数の魔物が切り倒されてるから、他の場所よりも魔物達が少ないように見えるんだね。
連携に慣れてる皆だから、危なげない戦いで安心だ。
「兵士達がエルサちゃんに気付いたようね」
最前線で魔物達とぶつかっている兵士以外の、余裕がある兵士は上を見上げ、ワイバーンと戦ってる俺達を見て驚いてるようだ。
まぁ、いきなりドラゴンが上空に来て戦い始めたら、味方だろうと敵だろうと驚くよね。
「……注意が逸れたら危ないわね……。リク、エルサちゃん。魔法を使うからちょっとだけ耳を塞いでてくれるかしら?」
「わかった」
「私は耳を塞げないのだわー」
「俺が代わりに結界で塞ぐよ」
「お願いするのだわー」
姉さんの言葉に、俺は結界を使って自分とエルサの耳を塞ぐ。
エルサの場合、モフモフの毛があって垂れた耳を塞ぐイメージにちょっとだけ苦労した。
「ふっ!」
「GYA!」
近づいて来るワイバーンを斬り落としながら、姉さんに頷いて準備が終わった事を伝える。
姉さんも一度頷いて、深呼吸。
一体何をするんだろう?
「アテトリア王国の兵士、そして民達よ! 余はマルグレーテ・メアリー・アテトリアである!」
結界で塞いだ外側から、姉さんの声が聞こえる。
これ、もしかしてフィリーナがエルフの集落で使ってた、声を大きくする魔法かな?
「余は今、英雄リク並びにドラゴンエルサと共に、この王都を襲う魔物達と戦っている! この国には英雄、そして伝説に語られたドラゴンが味方をしているのだ! 魔物達に恐れるな! 我らの勝利は約束されている!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
エルサに乗って空を飛んでいるにも関わらず、結界で塞いでる耳に地響きのような叫びが聞こえて来た。
これ、多分兵士だけじゃなくて王都の住民の声も混じってるんじゃないかな?
その叫びの後、兵士達は魔物を押し返すような勢いで戦い始めるのが見えた。
城門の外、王都というか城下町の方でも複数の人達が戦っているのも見える。
町の方にいた兵士や冒険者の人達かもしれないね。
「姉さん、皆を鼓舞したんだね」
「まぁ、皆に信頼される王になるためには、これくらいはしないとね」
結界を解きながら姉さんに話しかけた。
姉さんは女王として、色々考えてるみたいだね。
「ああは言ったけど、実際戦ってるのはりっくんとエルサちゃんなのよね……」
「まぁ、そこはね。俺にも姉さんを守らせてよ」
「知らない間に頼もしくなっちゃって。姉さん嬉しいわ」
エルサの上で、姉さんと話しながらワイバーンを斬り落とす。
「ふっ、せいっ」
「ワイバーンをこれだけ簡単に倒す人なんて、他にはいないでしょうねぇ」
軽々とワイバーンの胴体や首を斬り落としている俺を、呆れたような雰囲気で見る姉さん。
最初は驚いて、段々と呆れて来る……モニカさんやソフィーさん達と似たような反応だね。
俺としては、そんな呆れられるような戦い方をしてないんだけどなぁ。
「……段々、こっちに向かって来る数が増えて来たね」
「標的を私達に変えたみたいね」
「大量に来るのだわ。気持ち悪いのだわー」
城に取り付こうとしているワイバーンを、片っ端から倒して回っていると、四方八方から囲むように迫って来ていたワイバーンの群れが、俺達に向かって来るようになった。
さっきよりも、数が多過ぎて剣だけじゃ対処が間に合いそうにないな。
姉さんに怪我をさせるわけにもいかないし……。
「りっくん、どうするの? このままじゃ数に押されてしまうわよ?」
「そうだね……結界でエルサを囲んで守りを固めるか……それとも……」
「結界で囲まれたら動けなくなるのだわ」
姉さんの言葉に、これからどうするかを考える。
ワイバーンが標的を俺達に変えたのなら、エルサを囲むように結界を張れば身を守る事は簡単に出来るだろう。
けど、エルサの言う通り自由に動く事が出来なくなる。
その間に、数匹のワイバーンが城に向かって行ってしまったら、中に侵入されてしまうかもしれない。
「……いつも通り凍らせる? でも、そうしたら下にいる皆に向かって落下しそうだ……ねっ! っと」
「「GUGYA!」」
「氷漬けのワイバーンとか、砲弾が落ちて来るのと変わらないのだわ」
ワイバーンは人間より大きいから、そんな物がカチカチに凍って地面に激突したら大変だ。
誰もいない所ならまだしも、今地上では兵士達やモニカさん達が戦ってる。
人の上に落ちたらひとたまりもないだろうしな……。
ちなみに、俺が斬ったワイバーンはエルサが燃やして地面に激突しないようにしてくれてる。
体が切り離されてるから、内部から簡単に燃えるようだ。
「凍らせるのは無理か……だとすると、どうしたら良いんだろう……? はっ! ふんっ!」
「「GYAAAA!」」
迫って来るワイバーンを斬り落としながら考える。
さっきよりも数が多くなって来たから、このままだと姉さんに何か被害が出るかもしれない。
「燃やすのはどう? さっきからエルサちゃんがやってるように、地面に落ちる前に燃え尽きるようにすれば……?」
「それだとすごい熱が必要だよね。多分だけど、ここら一帯が灼熱地獄になってしまうんじゃないかな? 今は一体ずつだから良いけど……はぁっ!」
「前の事を思い出すのだわー。あの時は外壁も溶けるくらいだったのだわー」
「それは……ちょっと危険ね」
エルサの言葉に、姉さんは引き気味だ。
まぁ、あの時みたいな熱量の魔法を使う気は無いけど、それでも熱に強いワイバーンを燃やし尽くすのは相当な火力が必要だからね。
城を包囲してるワイバーン達全てを燃やそうとしたら、それだけでここら一帯の温度が異常に上昇する事になると思う。
地上で戦ってる兵士達にも影響が出ると想像するのは簡単だね。
城門が既に破られてるから、ヘルサルの時みたいに中に避難して……という事も出来ないし……。
「どうするのだわ、リク? 私だと全てを一気に、というのは無理なのだわ」
「そうだね……何か良い魔法があれば良いんだけど……ねっ!」
「さっきからわらわらと面倒なのだわ! 考えてるんだから、ちょっとは待つのだわ! テンペストブレイド!」
エルサと話してどうするか考えながら、ワイバーンを斬り倒す。
今は標的を俺達に変えたとはいえ、ワイバーン達も様子を見ているのか群れ全体で押し寄せて来ていないから、対処は簡単に出来てる。
けど、痺れを切らして全てのワイバーンが俺達に襲い掛かって来たら……考える時間はあまり無さそうだ。
そう考えながら、少しだけ焦り始めた時、10匹程度のワイバーンがまとめてエルサの正面から近付いて来た。
それを見たエルサが、面倒そうに怒りながら魔法を使い、まとめてワイバーンを吹き飛ばす。
エルフの集落の時より規模も威力も強そうな魔法で、ワイバーンは体を散り散りにされながら遠くの山の方まで吹き飛んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます