第161話 舞台は空戦へ



「ユノ、ありがとうな。おかげで簡単に後ろから入れたよ」

「なんてことないの。リクなら何とかすると思ってたから!」

「私も頑張ったのだわ!」

「エルサもありがとうな。おかげで助かったよ」


 エルサの助言が無かったら、姉さんを無傷で助ける事が出来なかったかもしれないしな。

 褒めるようにエルサのモフモフを撫でながら、モニカさん達の所へ向かおうとした時、玉座の前に立った姉さんが声を上げた。


「我が城は魔物によって攻撃を受けている! アテトリア王国の兵士達よ、魔物達に我らが国を蹂躙させる事を許すな! 各自、魔物達の掃討へ向かえ! 我らには英雄が付いている! 負ける事は有り得ないのだ!」

「「「「はっ!」」」」

「兵士長、ここの片づけも任せる。数人を残してくれ」

「畏まりました!」


 姉さんの号令で、謁見の間にいた兵士達が動き出す。

 数人の兵士達を残して、ハーロルトさん達の応援へと向かって行った。

 残った兵士達は、倒れてる男達とバルテルの片付けだ。

 俺がいるから負けないってのは、誇張が過ぎると思うけどそれで兵士達の士気が上がるなら、悪い気はしないかな。

 俺には、上に立って統率するなんて出来そうにないしね。


「りっくん、私達も行こう」

「それは良いけど、姉さんも来るの?」

「もちろんよ。私は安全な場所で座して見てるだけなんて出来ないわ」


 号令を出した時とは打って変わって、俺がよく知る姉さんの口調でそう答えられた。

 魔物達と戦うのは危険が伴うのは当然だけど、女王である姉さんが戦場に立つ事で、兵士達を鼓舞する意味もあるのかもしれない。

 俺やエルサと一緒にいれば、早々危ない事は無さそうだから大丈夫か。


「それじゃあ姉さんは、俺から離れないようにね」

「わかったわ。……昔と立場が逆ね」


 苦笑しながら言う姉さんに、昔の事を少しだけ思い出した。

 小さい頃、俺は年の離れた姉さんによく守ってもらっていたなぁ。

 そんな事より、今は魔物達の事だ。

 モニカさん達が無理して無ければ良いけど……。


「報告します! 上空よりワイバーンの群れが迫って来ています。数も多く、魔法隊の攻撃では防ぎきれません!」

「……ワイバーンとは厄介な……」


 姉さんを連れて、謁見の間を出ようとした時、一人の兵士が走って来た。

 ワイバーンか……ユノのアクセの素材になった魔物だね。

 火に強いとか聞いた覚えがあるから、魔法が効きにくいのかもしれない。


「上空からの攻撃、第二波ってとこか……」


 ハーロルトさんと別れる前、最初に飛んで来た魔物達は魔法で撃ち落としたと聞いた。

 けど、今度はワイバーンで更に数が多いらしく、このままだと城の外壁や窓に張り付かれる可能性が高いんだろう。


「魔法隊には無理をさせる事になるが……なんとか食い止めろ! 窓から侵入されたら、次は城内が戦場になるぞ!」

「はっ!」


 姉さんは、報告に来た兵士に叫び、魔法隊に何とか持ち応えるようにする考えのようだ。

 でも、さっきの報告を聞く限りだとそれは難しそうだ。

 姉さんも、指示を出しながらも難しい顔をしてる。


「……姉さん」

「何、りっくん」

「俺がワイバーンを止めるから、魔法隊の人達には地上の魔物を対処させて」

「何か考えがあるの?」

「うん。何とかなると思う」

「そう……わかったわ。りっくんを信じる。……英雄を信じて勝利は得られないわよね」

 

 俺の言葉に頷いた姉さんは、男達を片付けていた兵士の一人に、魔法隊への伝令にして走らせた。

 姉さんが俺を信じてくれたのは、弟だった頃の経験か、それとも俺が英雄と言われてるからか。

 まぁ、どっちでも良いんだけどね……俺には姉さんが信じてくれた事だけで十分だ。


「それで、りっくん。どうするの?」

「……んー、ここじゃ無理だから、まずは外に出よう。広い所に出ないと」

「もしかして……なのだわ?」


 エルサが呟くけど、多分その想像で正解だね。


「広い場所……城門は魔物達が押し寄せて来てるし、兵士達もいるから……中庭はどうかしら?」

「それなりの広さがあれば良いよ。あ、それとユノは城門の方に行って、モニカさん達を助けてくれ」

「わかったの。すぐに行くの!」


 城門に向かって走って行くユノを見送り、俺と姉さんは謁見の間を出て中庭へと向かった。


「ここよ。この広さで大丈夫かしら?」

「十分だよ。エルサ、頼む」

「やっぱりなのだわ。仕方ないのだわ」

「後でキューをたっぷり用意してもらうよ」

「約束なのだわ!」


 連れて来られた中庭は、エルフの集落にあった広場よりも大きく、十分な広さがあった。

 学校のグラウンドくらいはあるかな?

 庭園っぽく整備された花や樹がある。


「ドラゴンって、こんなに大きくなれるのね……」


 頭から離れたエルサは、いつも俺達を乗せて飛んでいる時の大きさになる。

 それを見た姉さんは、驚きの表情でエルサを見上げた。

 初めて見たら、こうなっても仕方ないね。


「さぁ、姉さん。エルサに乗るよ。空を飛んでワイバーンの迎撃だ」

「……大丈夫なの?」

「大丈夫なのだわー。ワイバーンなんてトカゲ軽く蹴散らすのだわー」


 暢気な言葉を聞いて、姉さんは恐る恐るエルサの背中によじ登る。


「エルサの毛にしっかり捕まっておいて」

「本当に信じられないくらいモフモフね……これはりっくんが癖になるわけだわ」


 今はモフモフに構っている状況じゃない……けど、姉さんの言う通り大きくなったエルサのモフモフは素晴らしい。


「行くぞ、エルサ」

「わかったのだわー」


 背中から翼を出し、エルサが浮かび上がる。

 一度城より高い位置まで上がって、王都を見下ろす状態になる。

 城を囲むように、ワイバーンが四方八方から大量に飛んで来ているのがわかる。

 見た目はトカゲにデカイ翼を付けたような見た目で爪と牙は鋭い。


「……高所恐怖症だったら危なかったわね」


 姉さんの言う通り、今は地上から数十メートルの位置だから、もし高所恐怖症だったりしたら恐怖心で動く事は出来なかっただろうね。


「結構数がいるな……」

「ブレスで吹き飛ばすのだわ?」

「いや、それは止めておこう。兵士達やモニカさん達が巻き込まれるかもしれない」


 上空からエルサのブレスを使えば、ワイバーンは一掃できるだろうけど、地上にいる人達にも被害が及びかねないからね。


「エルサは外壁に近いワイバーンを個別に狙ってくれ。俺はこっちに来た奴を斬り倒す」

「わかったのだわー」


 俺の言葉に頷いたエルサが、ゆっくりと城の周りを飛び始める。


「ふっ! ていっ!」

「GUGYAAAAAA!」

「ワイバーンって、こんなに簡単に剣で斬れる魔物なの!?」

 

 城の外壁に沿って飛んでるエルサに向かって、数匹のワイバーンが牙を剥いて襲って来た。

 さすがのエルサも、背中からは近づかれるからね。

 襲って来た先から、剣を振るって真っ二つにする。

 姉さんは、悲鳴を上げて落ちて行くワイバーンを見ながら、驚いて声を上げる。


「きっと剣が良いからだよ」

「……それだけじゃない気がするんだけど」


 新しく買った剣が思ったよりも良い切れ味だから、ワイバーンもスパスパ斬れる。

 確か……ユノのアクセを買った時のお婆さんが、ワイバーンの皮は刃物も弾くって言ってたような気がするけど……剣が良いからだねきっと。


「そこには取り付かせないのだわー」

「GYUOOAAAA!」


 数匹のワイバーンが、俺達とは別に城の窓へと向かったけど、それを見つけたエルサが魔法を使う。

 飛びながら、エルサの爪の先から火の球が幾つか飛んで行って、全てワイバーンに命中した。

 火の球の大きさは人くらいの大きさで、地上に落ちて地面に激突するまでにワイバーンを消し炭になっている。



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