第160話 姉の救出



「まずは姉さんだな……あの剣で斬られないように」


 頭の中でイメージをしていく。

 ……形は人の形……余裕を持って少し大きめだ……それから……結界は空気も遮断するようだから、完全に囲んでしまわないように……。


「……よし、イメージ出来た。エルサ、発動と同時に突っ込むぞ」

「わかったのだわ。ユノの方は任せるのだわ」

「その大きさだと……あぁ、調整出来るのか」

「このくらいは簡単なのだわ」


 エルサは俺の頭から離れ、俺の隣に降りながら体を大きくさせる。

 俺より少し小さいくらいになって、2本足で立ち謁見の間にいる奴らを見る。

 ……今度、その大きさで抱き枕になってくれないかなぁ……良い夢が見られそうだから。


「……リク、早くするのだわ」

「おっと、そうだな。それじゃ……結界!」


 さっきまでの緊張が嘘のように、エルサのモフモフを見ていてリラックスして魔法が使えた。

 俺が使った魔法は結界、姉さんを守るためのものだ。

 魔法を放ったと同時に、俺とエルサが飛び出した!


「うっ、何だ!?」


 バルテルと呼ばれていた男は、剣が触れている部分に固い物でも当たったような感触でも感じたんだろう。

 姉さんの首筋に当てていた剣を見て、驚いた表情をしている。

 今剣と姉さんの首の間には、結界が展開されている。

 結界を姉さんを囲むように作ったからだ。

 これで姉さんが剣で傷つけられる事はないだろう、ちゃんと顔の下半分を開けて息が出来るようにしてるしね。


「姉さんを……離せぇぇぇ!」

「りっくん!?」


 俺は飛び出しながら剣を抜く。

 いきなり飛び出して来た俺に、驚いた姉さんが声を上げるのを聞きながら、バルテルとか言う馬鹿野郎に剣を叩きつけた。


「ぐわっ!」


 咄嗟に反応したバルテルは俺の剣を受けるために動かしたが、そんな事は関係無い。

 受けた剣ごとバルテルを弾き飛ばす。

 姉さんを捕まえていた汚い手も、結界が間に入っているのですぐに解けて、バルテルだけが数メートル吹っ飛んで行った。

 姉さんには結界を張ってて安全だから、力いっぱい吹っ飛ばしてやった。


「雑魚はさっさとどくのだわー」

「なん……ぐっ!」

「ぶはっ!」

「ドラゴ……ぐふっ!」


 バルテルが飛ばされるのを見ながらユノの方を見ると、俺と一緒に飛び出したエルサがすごい速さで飛んで行って、体当たりをしたり蹴ったりとユノを囲んでいた男達を吹き飛ばしていた。

 気楽そうだなぁ……まぁ、あれくらいならエルサにとっては雑魚で間違いないだろう……エルフの集落で戦った魔物よりも弱そうだし。


「姉さん、無事か!?」

「りっくん、何でここに!?」

「何でって、助けに来たからに決まってるじゃないか。ハーロルトさんに教えられてね」

「そう。ありがとう、りっ……危ない!」

「貴様ぁ!」

「っ!」


 油断していた俺は、姉さんの叫びで気付く。

 弾き飛ばしたはずのバルテルが、剣を振り上げ俺に横か飛び掛かって来ているところだった。

 それに対し、俺は振り向きながら剣を振りぬく。


「ふっ!」

「がっ!」


 さっきは出来るだけ殺さないように、剣の腹で弾き飛ばしたけど、今回は咄嗟の事だった。

 俺の剣は、易々とバルテルの剣を切り、その首をも跳ね飛ばした。


「……手応えが軽い……この剣、すごいな」


 ヘルサルで買った剣。

 丈夫さを重視して買った物だけど、丈夫な金属は研がれていれば当然切れ味も鋭くなる。

 魔法が掛かって刃が丈夫な副作用的なものなんだろう、今まで魔物を斬った時に感じてた手応えよりも軽く剣を斬れた。


「りっくん……」

「……姉さん」


 剣の事を考えていたら、姉さんが心配そうな顔で俺を呼んだ。

 それですぐに状況を理解する。

 ……この世界に来て二度目……人を殺したんだと。

 剣の切れ味がすごかったからという言い訳は、通用しないだろうな。


「大丈夫……なの?」

「……何とかね。慣れたりはしないけど」

「当然よ。優しいりっくんが人を殺す事に慣れるわけないわ」


 姉さんには俺が、人を殺した事に軽く戸惑っているのが伝わってるみたいだ。

 チラリとバルテルを見ると、体は崩れ落ち、頭は斬られた部分から血を飛び散らせて事切れている。

 ……人の血が掛かるのは、あまり良い気分じゃないね。


「ところでりっくん、動けないんだけど……」

「あ」


 忘れてた。

 姉さんは俺が張った結界で囲まれてるから、動こうにも動けない。

 姉さんの言葉に、結界の事を思い出して魔法を解くと、ゆっくりと近付いてきて俺の頭を抱え込んできた。


「姉さん!?」

「ありがとうね、りっくん。おかげで助かったわ」


 俺が人を殺した事に戸惑ってるのをわかってなんだろう。

 慰めるように頭を抱え、撫でながらお礼を言われる。

 ……昔も俺が泣いてると、こうして慰めてくれたな……。

 今は泣いていないけど、何だか懐かしい気分だ。


「リク、終わったの」

「お楽しみなのだわ?」


 姉さんに慰められて安らぎを感じていると、ユノとエルサが声を掛けて来た。

 慌てて姉さんから離れて周りを見たら、ユノにバルテル以外の男達は全てのされて転がっていた。

 何人か息をしていないようだけど、まぁユノが斬ったかエルサにやられたんだろう……人が死ぬのに抵抗が無いとは言わないけど、この状況だし、やった事がやった事だから仕方ないとも思う。


「もう大丈夫なの、りっくん?」

「大丈夫だよ、ありがとう姉さん」


 俺が離れた事を、不思議そうに見ている姉さんから声を掛けられる。

 昔と違って、人に見られるのは恥ずかしいからね。

 それに、俺のよく知ってる姉さんとは外見が大分違うのもある。


「陛下! ご無事ですか!」


 そんな事を考えてると、謁見の間入り口で中の様子を窺っていた兵士達が中に駆け込んできた。

 姉さんが人質に取られてたから、入るには淹れなかったんだろうね。

 ユノは見た目が子供だから、入ってもすぐには姉さんに手を出さなかったんだろう。


「……んんっ! ……余は無事だ。英雄殿のおかげだ」

「おぉ、さすが英雄。陛下をも救われるとは」


 姉さんが一度咳払いをして、女王としての話し方で兵士達に無事を伝える。

 兵士達は、俺を称えるように声を上げた

 こそばゆいけど、姉さんを助ける事が出来たんだ、まんざらでもない気分だね。


「って、それどころじゃない!」

「どうしたの、りっくん?」


 大きな声を出した俺に、姉さんが兵士達に聞こえないよう小声で聞いて来る。


「この城に魔物が押し寄せてるらしいんだ。モニカさん達やハーロルトさんが今城門で戦ってるはず!」

「何ですって!? ……さっきの振動はそれが原因なのね……」


 姉さんはずっとここにいたから、魔物が襲って来てる状況を知らないんだろう。

 俺が叫んだ内容に驚きを隠せない様子だ。


「ハーロルトさんに言って、城にいる兵士達はある程度魔物を抑えに行ってるはずだけど……俺は姉さんを助けたかったから、ユノと一緒にこっちに来たんだ」

「そう……わかったわ」


 姉さんが頷き、俺から離れる。

 エルサが小さくなって俺の頭にくっ付いて来ると同時に、ユノも近付いて来る。

 武装した男達に囲まれていたけど、ユノに疲れはあまり無いようだね。

 さすがと言うか、何と言うか。



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