第152話 勲章授与式
「それじゃあ、私達はリクとは別ね。また後でね」
「一応、集落の代表として来てるからな……まぁ、末席だが」
そう言って、フィリーナとアルネは部屋を出て行った。
集落の代表だから、俺達とは別でお偉いさん達に混じって並んでるんだろう。
知らない人達に囲まれるよりは、少しでも知ってる人がいた方が心強いね。
「それではリク様方、式の手順の説明をさせて頂きます」
「お願いします」
ヒルダさんに先導されて、式が行われる場所に向かいながら俺達は手順の説明を受ける。
式は謁見の間で開かるらしい、そこで先に貴族達が入場、玉座までの道の左右に並ぶ。
ここにアルネ達がいるみたいだね。
その後、俺達の入場。
玉座と入り口の半分くらいの所で一度止まり、名前を呼ばれたら俺が一歩前に出る。
同じパーティメンバーだから、モニカさん達は俺と一緒に入場するけど、勲章を受け取るのは俺だけだかららしい。
俺が前に出たら、女王様の入場。
参列者全員にお言葉を賜った後、玉座から俺に向かって進み出て、章飾を直接受け取る……という流れらしい。
「受け取る際、片膝を付いて下から章飾を受け取るようにして下さい。決して陛下の上からは受け取らないように」
「わかりました」
今回は、最高勲章授与なので、女王様から直接章飾を賜るという事になるらしい。
通常の勲章だと、玉座から別の人物に渡してその人から……という流れらしいけどね。
「到着しました。では、私はこれで。中から呼ばれたら入って下さい」
「わかりました。色々とありがとうございました」
色々と聞いてるうちに、謁見の間の入り口に到着した。
大きな扉の前で待機する俺達。
「緊張して来たわね……」
「あぁ……さすがにこんな大きな催しに参加するのは初めてだからな」
「……そ、そうダネ」
そわそわしている、モニカさんやソフィーさんに同意するように声を出したけど、緊張しすぎて声が裏返ってしまった。
それを聞いてモニカさんは笑っている。
「リクさん、主役の貴方がそれでどうするの? もっとしっかりしましょう!」
「そうだな。リクは私達のリーダーでもあるんだ。もっと堂々としていて良いと思うぞ」
「……そう言われても……ね」
「リク、特別に私を撫でて良いのだわ」
「エルサ……ありがとう」
二人が俺に声を掛けて緊張を解そうとしているけど、効果は無いのを見かねてエルサが言ってくれた。
まぁ、元々許可が出なくても撫でたりしてるけど、今回は特別だな。
俺を気遣ってくれた事に感謝しながら、右肩に乗っているエルサを左手でゆっくり撫でる。
……やっぱりモフモフは最強だなぁ……少しだけだけど、緊張が解れた気がする……。
「リク、気を付けるの」
「ユノ、それはどういう……?」
「最高勲章授与、英雄リク様ならびに冒険者パーティ、ニーズヘッグ入場!」
ユノが言った言葉がどういう意味か聞く前に、謁見の間から俺達を呼ぶ声が聞こえ、扉がゆっくりと開く。
エルサを撫でて緊張が解けたと思ったけど、ここに来て緊張がピークに達し、俺はぎくしゃくとした動きで中に入って行った。
装飾の施された広間、数段上にある玉座……まさに謁見の間と言った場所だ。
赤く汚れの一切ない絨毯の上を歩きながら、俺達は謁見の間を進む。
左右には、幾人もの人達が並び、俺達を見ているがそちらを気にする余裕は今は無い。
「あれが英雄……」
「若いな……」
「あれがドラゴンか……小さくないか」
「まだ子供なのかもしれんな」
「リクー」
「おい、止めろフィリーナ」
左右から色々な視線が向けられ、俺に注目しながら何やら話しているようだけど、内容まではわからない。
どこからか、俺の名前を呼ぶ声も聞こえた気がしたけど、そちらを見ることも出来ずただ真っ直ぐ謁見の間をゆっくり進むだけだ。
「……ここくらいかな?」
謁見の間を半ばまで来た辺りで歩みを止める。
小さく呟いて確認した声が、誰にも聞こえて無いと良いけど……。
俺達が止まると、一人、豪奢な衣装を来た人が玉座の下に歩み出た。
「ヘルサル並びにエルフの集落を救った、英雄リク様におかれましては……」
しばらく、その人が謁見の間に響く声で、俺達の活躍を称える内容の説明を読み上げる。
「アテトリア王国、最高勲章授与者、英雄リク様。一歩前へ!」
「はっ!」
説明が終わり、名前を呼ばれたので返事をしながら前に出る。
……返事の仕方、これで良いのかな……?
「これより、女王陛下による章飾の授与になります。皆様、静粛に!」
ざわざわしていた謁見の間が、その言葉で一気に静まり返る。
俺はもう緊張で何が何やらわからなくなって来たので、もう片膝を付いて受け取る姿勢になっておいた。
……騎士の礼みたいな感じだけど……ちょっと早すぎたかな……。
「マルグレーテ・メアリー・アテトリア女王陛下入場!」
その言葉と同時、先に膝を付いていた俺以外の人達も全て、膝を付き頭を垂れた。
早すぎたみたいだけど、間違って無いみたいで良かった。
俺も皆に習って頭を垂れてから少しして、誰かが玉座の前に移動した気配がする……女王様だろうね。
「面を上げよ!」
凛々しい女性の声が謁見の間に響き渡る。
その言葉に俺も、周りの人達も一斉に顔を上げた。
……あれが女王様か……。
薄赤のドレスの上から、黄金の部分鎧を身に着けていて勇ましい。
金色の鎧と同じ流れるような金髪は、腰まで届き見る者を魅了する。
少し釣り目気味な瞳は、不正を許さず全てを見抜くような鋭さを感じさせる。
この世界に来て、エルフ達を始め、色々な美人を見て来たが、そのどれとも違う美しい方だった。
……だけど、何故か懐かしい気分になるのは何故なんだろう……?
「その方がリクか」
「はっ!」
「よい、面を上げよ」
俺を真っ直ぐに見つめる女王様。
その圧力に耐えられず再び頭を垂れた俺に、頭を上げる許可。
何故か、胸の奥から懐かしい気持ちが溢れて来るのをなんとか抑える。
変な動きとか出来ないからな。
「この度の働き、見事であった。余はヘルサルを捨てる覚悟をしていたが、そなたのおかげでそれも無駄にすることが出来た。感謝するぞ」
女王様が俺に感謝を述べてるけど……こういう時どう答えたら良いんだ!?
えーと……えーと……。
「勿体なきお言葉でございます」
「うむ」
……間違ってないよね、この答え方で良かったよね?
女王様を見ながら、俺の頭の中は緊張と混乱でいっぱいいっぱいだ。
こんな応答のような事があるなんて聞いてなかったよ、ヒルダさん!
「ヘルサルをゴブリンの手から守った事、エルフの集落を救出した事……皆知っていると思う。余は、それらの功績を称えるため、我が国最高勲章を授ける事とする。異論は無いな?」
「「「「「ははっ!」」」」」
女王様が、謁見の間にいる全員に言葉をかけ、それを受けて全員が再び頭を垂れる。
俺も一緒に頭を垂れたけど……ここ、俺が反応する場面だったかな?
「リクよ」
「はっ!」
「そなたの働きを皆、認めている」
そう言いながら、玉座から降りて来る女王様。
段になってる部分を降り切った所で、女性が一人近付き、小さな台座のような物から、女王様は何かを持ち上げた。
「これより、そなたに章飾を授ける」
「はっ! ありがたき幸せ!」
ちょっと時代がかってたかな? 間違って無いと良いけど。
女王様は、章飾を持ち、俺に近付いて来る。
絶世の美女とも言える女王様が近づくにつれて、俺の心臓がうるさく高鳴っていた。
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